事前の噂通り、23日にニコンが新ミラーレス機と見られるカメラ情報を公開した。これまた事前の予想通り、実際に公開されたのはテイザー的な情報量の少ない映像だけだ。
正直なところ、私はニコンユーザどころかフルサイズ路線ですらないマイクロフォーサーズ派なので、一連の流れは割合冷めた目で見ていたのだが、テイザーからわずかに伺えるニコンの新戦略が思ったよりも「攻めた」内容に思われ、俄然興味が湧いた。いや買うつもりは毛頭ないけども。
どうやら25日がニコンの創立記念日なのだそうで、恐らくそこで具体的なスペックや実機が(モックだとしても)公開されるだろうから、それまでに好き放題妄そ……予想しておこう。
マウント径は60mm
ほとんど真っ暗で僅かにシルエットが伺える程度の映像だが、その中でマウント部だけが光のリングで強調されている。
その外側にわずかに円弧状のシルエットが見えることから、このリングはどうやらマウント内径を示しているものと思われる。
ボディサイズが明かされていないのでマウント径もはっきりわからないが、どうやらボディサイズを目一杯に使ったかなり大径のもののようだ。
サイズを推定してみよう。
グリップ上側にシャッターボタンと思われる部分が見える。二重リング状になっており、恐らくは現行一眼レフと同じく外側がパワースイッチ、内側がシャッターボタンだろう。現行機のサイズと同程度と考えると、たとえばD850は外形18mm内径9mmほどのサイズなので、この部分の幅が18mmと仮定すると、マウント部分の内径は(パースによるズレもあるので誤差はあると思うが)おおよそ60mmほど、外形が70mmほどになると思われる。
これは従来の35mmフルサイズのマウントサイズよりもかなり大きく、むしろ富士フイルムなど中判ミラーレスのそれに近い。
また、テイザーの映像内ではマウント径を過剰に強調する反面、センサーサイズは完全に隠されている。つまりニコンは(現時点では)センサーサイズではなくマウント径を売りにしたい、ということだ。
センサーサイズはどうなるか
これまでの憶測では、35mm判一眼レフ機で市場を席巻するニコンとキヤノンはソニーに対抗すべく「フルサイズ」ミラーレス機を出してくるだろうと思われた。従来ならば「プロ御用達は一眼レフ」と胡座をかいていられたものを、ソニーのαが「プロのニーズに耐える」とお墨付を得るところまできてしまったことで、慌てて対抗策を用意せざるを得なくなった、というのがその筋書だ。しかしAPS-Cサイズとはいえ既に独自製造の全像面位相差AFを搭載するCMOSセンサーをミラーレス全機種に展開しているキヤノンはいざ知らず、消極的展開に終わったNikon 1しか持ち合わせのないニコンにとっては厳しい勝負になる。
ところが、ここへ来てニコンは敢えて「フルサイズのミラーレス」を予期させず、センサーを隠してマウントサイズを押し出してきた。ここから考えられるのは、つまり「ニコンは35mm判での勝負を避け中判市場に打って出る」ということだろう。
元々、現在の「フルサイズ」は、元はといえば単に「フィルム時代から継承したレンズ資産をそのまま生かせる」ことこそを強みとして成り立ったものに過ぎない。手持ちのレンズを、慣れた画角でそのまま使えるから、ボディさえ買えば新たにレンズを揃える必要がない。それこそが敢えて35mm判を選択する唯一の理由だった。逆に言えば、資産継承の必要がないのならばセンサーサイズを35mmにする理由はなく、むしろ像面を小さくした方がコンパクトで機動性に富んだシステムに仕上がる。
いち早く一眼レフ路線を捨てたマイクロフォーサーズの選択は正にそういう計算の上に成り立っている。
これに対して一眼レフメーカーは「センサーの大きさによる優位性」を打ち出した。もちろん間違ったことを言ってはいないのだが、本来の利点はあくまでレンズ資産の継承にこそあったのだから、自ら勝負どころを別の面に求めるのは強みを捨てることと同義である、ということを理解していたかどうか。
果たして、ソニーはそこに正面から組み付いた。なにしろソニーは世界最大のイメージセンサ製造元である。そこに相手から「フルサイズ」という土俵に降りてきたのだから、「同じサイズならば開発者有利」という単純な勝負だ。
そして実際にソニーはそれに勝利してのけ、今まで一眼レフががっちり押さえていた「プロ向け」市場に食い込んだ。
センサーサイズの差がなくなれば、あとは一眼レフが誇れるのはファインダーの見え方とバッテリの保ちぐらいのものになる。機能性について言えばミラーの動作という枷がなく、撮影前からの映像解析による補佐が可能なミラーレスの方が遥かに有利なのだから、勝負の土俵を間違えた時点でもうソニーの勝ちは時間の問題だった。
だからこそニコンが新ミラーレスカメラで敢えてセンサーサイズへの言及を避けたということは、恐らく真っ向から「フルサイズ」での勝負をするつもりがない、ということなのだろう。ならばどうするのか、もう答えは見えている:つまり「中判ミラーレス」だ。
APS以下のサイズに対してこそ「フルサイズ」は優位性をアピールできたが、元々35mm判なんてのはさほど大きなサイズではない。同じサイズでは勝負にならないのであれば、より大きなサイズへ土俵を移せばいいのだ。内径60mmの新マウントにはそれができるが、ソニーは(Eマウントを捨てない限り)中判を出せない。
もちろん、中判ミラーレスではレンズが揃わない。しかしどうせフランジバックが短縮されマウント径が変わり、一から揃え直すしかないのだったら同じことだ。
もしかしたら、25日の時点ではまだ35mm判しか発表してこないかも知れない。でも中判への移行を前提にマウント径を決めたであろうことは(推定される寸法が正しいならば)ほぼ確実だ。
追記:アスペクト比16:9の可能性
アップになったマウントの内側に見える黒い長方形は、3:2じゃなく16:9っぽく見える。動画のことを考えたら16:9比率のセンサーを積むのはありだと思う。ニコンFZフォーマットとかになるのかな。 pic.twitter.com/9Dc8DX6Tgr
— 北村智史 (@kitamura_sa) July 23, 2018
動画の画面キャプチャ撮って、レベル補正で少し明るくしてみた。やっぱりモニターの幅がでかい、というか、横長な気がするのよ。 pic.twitter.com/cO0i9EpPUI
— 北村智史 (@kitamura_sa) July 23, 2018
映像でマウント内部のに真っ黒な矩形が見え、これが通常の3:2や4:3よりも横長であること、背面モニタも横長に見えることからアスペクト比16:9のフォーマットを採用してくるのではという推測。たしかに、紙焼きに合わせたサイズに縛られる必要がないならば従来のアスペクト比を維持する理由もなく、むしろ写真を表示する環境はほとんどPCのモニタだし動画ならテレビであることが多いと考えると、いずれも16:9を採用しているわけでカメラのフォーマットもそれに倣うのは理に適っている。
Fマウント/一眼レフはどうするのか
いかに新しいマウントへ移行するとはいっても、従来からの忠誠度の高いユーザを蔑ろにするわけには行かない。彼らに最大限の便宜を図りつつ、他社へ逃げられぬように新システムへ移行してもらわねばならない。
新たに出すのがフルサイズミラーレスならば、せいぜいFマウントと新マウントの間に挟むマウントアダプターを出すぐらいのことで、以降Fマウントは新規展開を終了して一眼レフ機は1機種を細々と販売継続する程度の、現在の銀塩一眼レフと同じぐらいの立ち位置になるだろうと予想された。
しかし、中判で出すとなれば俄然話が違ってくる。つまりは現状のAPS-C一眼レフ機と同様に、中判機より安価なグレードとして「フルサイズ機」を出せばいいのだ。マウント径は同じだから中判レンズを使用でき、マウントアダプターでFマウントレンズを使うことも可能な、乗り換え準備のための中間機。そして同時にFマウント一眼レフ路線も継続することで、「今まで通りの一眼レフ」+「一眼レフ資産を継承しつつミラーレス」という選択肢に加えて「もっと高画質にシフト」という新たな選択が可能になるという寸法である。
中判ミラーレス機にもハッセルブラッドや富士フイルムといった先行する競合がいるが、いずれも充実しているとは言い難い状態であり、5年かけてフルサイズ用レンズを充実させてきたソニーと正面から戦うよりも明らかに分が良いだろう。またそれによって中判市場が活性化すれば、競合各社にとっても悪いことではない。
と、まあ妄想を逞しくしてはみたが、噂通りならば2日後には答えが明らかになるはずだ。答え合わせを楽しみにしておこう。