「死印」に足りないもの

今日発売のPS Vita用ホラーゲーム「死印」体験版を遊んでみた。事前公開されていたキーヴィジュアルの雰囲気がとても良く、気になっていた作品である。

死印

死印

 

 結論から言えば、私はこのゲームを体験版で遊べる第一話のおよそ半分で見限った。従ってこのゲーム全体を適正に評価することはできないのだが、しかし第一印象もまた評価ではある。「どこが悪かったのか」を少し語ってみようと思う。

なお、以下には序盤のネタバレを含む箇所があるので悪しからず。

 

悪かったところ

キャラ立てが邪魔

「人形」キャラが公開された時点で不安に感じていた点ではあったのだが、変にキャラの立った登場人物が異物感となって恐怖感を削ぐ。一般的にはキャラ人気が出た方が売れるのかも知れないが、ホラーに於いては登場人物なんて区別できる程度に没個性である方がいい。

まあ物語を進めると各キャラの背景が明らかになってゆき感情移入が生じてゆく……のを狙ったのかも知れないが、ホラーゲームであまりホラー以外の部分に焦点を当てると軸がブレる。「怪異に巻き込まれた理由」が不自然でない程度の設定があれば、それ以上の背景は必要ない。

また、キーヴィジュアルや一枚絵のタッチに比べキャラ絵のタッチが浮いて見えるのも気になるところ。九条女史の遺体などは良い雰囲気なので、キャラ絵もその線でまとめて頂きたかった。

 

怪異以外の理不尽

ホラーに於いて、怪異というのは理不尽なものだ。だからこそ、怪異以外のところに理不尽があってはならない。プレイヤーにとっての現実世界と地続きになった、ごく普通の世界に「怪異」だけが理不尽に存在するからこそ、その異様さが一層引き立ち、恐怖たり得る。

その点で、「小学校の職員室に隣接して知られざる地下室があり、生徒が校長に責め殺された」などというのは設定に無理がありすぎる。公共建造物に人知れぬ秘密の区画など作ることはできないし、まして何人もの学校関係者が行方を眩ますようなことがあれば、明るみに出ないはずがない。

そういうところで手を抜くと興が醒め、恐怖も薄れる。

 

グロによる恐怖演出

全体に、死や変容それ自体によるものというより「生理的嫌悪」を主体とした恐怖演出が行なわれているように見える。それはそれでホラーの重要な要素ではあるのだが、怖がらせ方で言えば「 驚かせる」 「気持ち悪がらせる」ものであって、少なくとも私の望む「恐怖」とはちょっと違う。

まあ一概に否定するものではないのだが、心霊/怪異方面としては若干弱いように思われた。

 

探索と移動の混同

闇の中を懐中電灯で照らすと調査可能ポイントが浮かび上がる、という演出は好ましいが、調査しようと思ったら移動になってしまう箇所(踊り場に於ける階段など)があるのはいただけない。方向キーによる移動があるのだから調査とは切り分けるか、せめて調査ポイントの表示パターンを変えて移動になることをわかりやすく表示して欲しかった。プレイヤーの意図しない操作が発生してしまう、というのは(それ自体を演出として生かす意図があるのでもない限りは)単純にゲーム操作に対するストレスになるので好ましくない。

 

 

探索中のゲームオーバー

探索中、すぐ近くまで怪異が迫るシーンがあるが、この時「最短で逃げろ」と言われ、回避するための行動を一手も間違えず実行せねばならない……というのは、追い詰め方としてはイマイチだ。時間制限が設定されているのかどうかはよくわからなかったが、ここは折角の「霊魂」システムを利用し、行動を間違えてもいいが霊魂が減り続けるような形で焦らせた方が良いのではないだろうか。そうすれば(序盤だからこそかも知れないが)大盤振る舞いした霊魂回復札も有効に活用されるというものだ。

 

ボス戦

怪異と「戦って倒せる」というのは、それ自体が恐怖を弱めてしまう。人智の及ばぬ存在だからこその恐怖であって、倒せるならばそれは唯の「敵」に過ぎない。

これが小説や映画なら、怪異に呑まれて滅びを迎えても問題ないし、ひとまずは退けたかに見えたものの逃れられたわけではないことが暗示されるのでも良いのだが、ゲームに於いてはそれで終わってしまうわけにも行かない。だから「倒せる」のも致し方ない部分はあるだろうが、とはいえ恐怖が解けてしまうのも確かだ。

またターン制のコマンド式というのも好ましくない点ではあるのだが、3Dアクションゲームではないのでリアルタイムというわけにも行かず、このような表現形式となったこと自体は理解できる。

 

ただ、クリア手段によってその後の展開が異なる点については大いに不満がある。「花彦くん」の場合は怪異を滅ぼした後に同行者が「忘れ物を取りに戻り、戻って来ない」のだが、これはプレイヤーの選択肢が必然的に引き起こす事象ではなく偶然による要素が強い描き方であり、「不正解というわけではないのにバッドエンド」に見えるのはいただけない。

 

良かったところ

アートワーク

パッケージイラストを含め、キーヴィジュアルはとても良い。

 また「シルシ」により殺された異形の死体も恐ろしさとある種の美しさが同居した、魅力ある描写になっている。画集が欲しいところだ。

 

視界の隅にいるもの

探索シーン中、懐中電灯で照らしたところに「何かがいる」という演出は一瞬の恐怖を掻き立て、時間制限がないため漫然となりがちな探索シーンに緊張感を生み出している良アイディアである。

ただ、「見たからといって何があるわけでもない」のはちょっと惜しい気もする。

とはいえ「見てしまったら霊魂にダメージ」などにするとゲーム進行のために極めて重要な探索行動がストレスフルになってしまうので、雰囲気演出以上のものにしにくかったのも理解できる。

たとえば「怪異の元に近付くにつれ雑霊の出現が増える」などゲーム上での意味を持たせられればもっと良かったのではないかと思う。

 

むしろこの仕組みを中核に構築し直せば、と考えたのだが、それ「零」だ……

 

零 ~濡鴉ノ巫女~

零 ~濡鴉ノ巫女~