ダイスと判定とTRPG

TRPGではダイスを振る場面が多い。キャラ作成時の能力値決定や、表の中からランダムに項目を選択する時、行動の成否判定や武器のダメージなど、あらゆるシーンでダイスを使う。
ルールを把握していれば「何のために」振るのかは自明なのだが、まだルールをよく知らず、ゲームマスターの指示するままに振っているプレイヤーなどは「それぞれの場面で振ったダイスの意味」が区別できない。同じようにダイスを振っているのに、その時々で意味が違ってくることに混乱する。
この混乱は、特に何らかのアイテムや技能などによってダイス目を操作できるようなルールがある場合に顕著になる。「判定をやり直せる」能力でダメージ決定ダイスを振り直そうとしたり、表の参照にダイスを振り足そうとしたり。
もちろん、こうした混乱はゲームマスターが「何のためのダイスロールか」を明示するなどの方法で回避できる問題ではあるのだが、シナリオ運用の都合上、GMはしばしばその辺りを隠して振らせたりするものだし、そもそも運用で解決するというのはデザインとしては敗北だ。

デザイン上の観点からは、理想的に言えばダイスはロールの種類ごとに異なるものを用いる方が混乱しない。たとえば用途に応じて面数を変えたり、あるいは同じD6でも複数の色をセットして「ここでは黒を振ってください」とか指示できれば認識はかなりシンプルになる。専用の目を持ったダイスが使えるならばもっといい。
でもそれはコストや入手性などの問題から現実的ではない、とするならばルールの側で対処するべきだろう。

経験的に言えば、もっとも混同しがちなのは「戦闘時の攻撃解決とダメージ決定」だろうと思われる。
能力値決定などのロールはゲーム開始前にしか行なわれないためにあまり混同が生じないし、表の参照はその表さえ示せば意図が明確になる。しかし攻撃判定ロールとダメージ算出ロールは「攻撃の結果を示す」点に於いて非常に似通っており、混同しやすい。
また、攻撃という1回の行為に対して複数回のロールが発生することもルール全体からは異例であり、これも混同を発生させる要因になっていると考えられる。

もっとも単純な解決策は「ダメージ決定にダイスを振らない」ことだ。たとえば武器のダメージ値が固定ならば、攻撃の成否が解決した時点で再度ダイスを振ることなくダメージが決定できる。ただし戦闘の振れ幅が小さくなるので、何か一工夫必要になるが。

あるいはダメージ用に別の乱数装置を導入する手もある。6面ダイス以外の導入や色違いのダイスなどをユーザに用意してもらうのは少々難しいが、入手しやすい乱数装置としてトランプなどは利用できるだろう。数字以外に2色4種の属性を持つこと、また(都度切り直すのでなければ)一度引いたカードはもう出て来ないことなどを利用すると、ダイスとはちょっと違った味付けのシステムになりそうだ(たとえばスペード=頭、ハート=胴、クラブ=手、ダイヤ=足などに割り当てて命中箇所判定を兼ねるとか)。まあ、あまりやりすぎるとルールのわかりやすさを損なうことになるが。

実際のゲームシステム事例

ソード・ワールドRPG

行為判定は2D6上方ロール、効果判定は2D6で「レーティング表」を参照する形とし、両者を明示的に切り分けた点で工夫が見られる。ただしどちらも2D6であるために混同が残り、「都度チャートを参照する」点では少々慣れを要する。
また、攻撃の命中判定能力を「攻撃力」、ダメージ決定能力を「打撃力」とするなど異なる機能に類似する用語を割り当てているために混同を生じ易いなど、判定システムとは別の点にデザイン上の問題を抱える。

ガンドッグ

D10を2個用いて、パーセンテージロールによる成否判定と2D10による成功度算出を1回のロールで同時に行なう「デュアルロールシステム」を採用し、切り分けと振れ幅の維持を両立させている。1行為に対し1ロールで対応しているという点でも好ましいが、代わりに1回のロールを異なる方法で2回利用することになる。

深淵

攻撃の成否判定のみをダイスで処理し、ダメージについては別途「運命カード」を適用する形で区別している。このカードは戦闘専用ではなく、ゲームを通じて様々なシーンで活用するものだが、「用途別の乱数派生装置」に相当するものであり、簡単に取り入れられる手法ではない。

シノビガミ

戦闘ダメージを固定値とし、代わりに1ダメージの重みを極端に増加させることで、固定ダメージによる戦闘が問題にならないダイナミックなルールを採用している。
同システムではダイスロールが「表の参照」か「行為判定」にしか用いられないため、この種の混乱はまず発生しない。