「スプラトゥーン人気はステマ」疑惑を検証する

任天堂がスプラトゥーンについてステルスマーケティングを行なっている、という趣旨のブログエントリが書かれているようだ。それによればtwitte上で「任天堂が日当1万円でスプラトゥーンについて宣伝するよう依頼してきた」と受け取れるような発言があったらしい。

ただし情報元はこれまで数々の「どう見てもデマ」な内容をセンセーショナルに扱うようなブログであり、また任天堂およびスプラトゥーンについても「任天堂信者が発狂wwwwww」だの「WiiU最期のタイトル、イカ娘TPS『スプラトゥーン』」だのと執拗に攻撃的な内容を繰り返し発信しているので、信頼性はかなり低い。
そもそも今回の情報についても、発言者をマスクした状態でのスクリーンショット(らしき画像)以外に証拠となるものはなく、元発言そのものが存在しない可能性すら否定できない。

が、それでも「やっぱりそうだったのか」というような反応が見られるので、一応ここに検証記事を書いておく。

ステルスマーケティングの何が悪いか

まず最初に「ステルスマーケティングとはどのような行為で、何が悪いのか」をはっきりさせておこう。
ステルス=「こっそり、忍び」とあるように、これは「製品に利害関係のない第三者の自発的な発言を装って好意的な評価を示す」手法だ。第三者といっても無名では宣伝効果がないので、「その筋で有名な専門家を装った架空記事を出す」「有名な人物に報酬を払って発言してもらう」などの方法が取られる。
内容的には通常の宣伝広告と大差ないのだが、宣伝広告であれば「自社製品に有利な情報は出すが不利な情報は隠す」だろうことを予め考慮して読むのに対し、「利害関係がないにも関わらず絶賛している」ことによる逆のバイアスが生じること、また多数のファンを持つような人物が発信した情報は口コミで広まりやすいことなどから、企業にしてみれば「費用対効果の高い宣伝手法」、消費者の立場からは「著しく信頼性を損ねる不適切な宣伝手法」と見做されている。
とはいえメディア内にも「PR記事」が掲載されたり、あるいは「企業から依頼されて製品レビューを書く」「広告主の製品をレビューする」などの「不適切とまでは言えないが信頼性・公平性に疑問のある」情報は従来から存在し、それらとの違いは曖昧ではある。

ステルスマーケティングの手法

過去の「実際にバレた」事例では、「架空の評論家をでっち上げた」パターンと「有名人にお金を払って発言してもらった」パターンが知られているが、今回の場合は(事実なら)後者のタイプということになる。ただし芸能人などの広く名を知られた人物ではなく、「ネットの一部で有名な」人、ということだろうと思われる。
発言者(実在するなら)の身元が不明であるため、その人物が実際にどこで情報を発信した(あるいはしなかった)のかも判然としないが、現在のトレンドを鑑みるならば「Twitter」「ニコ動」「YouTube」あたりだろうか(「Facebook」「LINE」の可能性もあるかも知れないが、いずれもクローズドなので未検証)。順に検証してみたい。

Twitter言及数の動きを見る

Twitterで有名な人物が好意的に紹介している場合、それがRTなどで拡散することは充分に考えられる。ただ「ゲーム関係で信頼される有名人」という話になるとなかなか人選が難しそうだ。ゲーム開発者のような「第三者ではない」人物では他社製品のステマを依頼するわけには行くまいし、ゲーム業界と直接関係がないがゲームについて有名な人物となると、ちょっと思い浮かばない。
となると過去の発言やフォロー数などから目を付けた複数の人物に広く声をかけている可能性もある。「日当1万円」といった情報からはそのような広く薄い手法が伺われるが、このやり方はリスクが大きい:特に非実名のTwitterなど社会的圧力をかけにくい相手に依頼すると、申し出を受けるよりも話題性の方を取られる危険性が高まるのでステマが露見しやすくなり、却って逆効果になりかねない。
実際、過去の事例を見ると「架空の評論家をでっち上げた」デビッド・マニング事件や「芸能人に宣伝させた」ペニーオークション詐欺事件など、露見しにくいように実施されている(にも関わらず露見したわけだが)。
まあ今回の事例では「ステマ依頼を受けた」という発言が行なわれた=実際にステマを依頼したが露見した、と見ることも可能ではあるが、受けたという人物が「申し出を蹴った」わけではなく「副収入旨し」と明らかに受理した(にも関わらずそれをバラした)と受け取れる発言内容になっているあたり、これ自体が話題性を目的としたネタ発言である可能性が高そうではある。


さて、これはYahoo!リアルタイム検索で見た、スプラトゥーンの検索数推移(最長30日でログが流れてしまうので、検索結果のスクリーンショットを引用している)。5月7日の「スプラトゥーン ダイレクト」を境に言及数がぐっと上がり、試射会で跳ね上がっているのが見える。その後緩やかに下がりはするもののほぼ横這に言及され続け、23日からの体験会と24日の試射会アンコールで再び跳ね上がり、直後に28日の発売日で三度の増加、という綺麗な流れだ。
少なくともこれを見る限り、不審な増加の形跡は見られない。単独タイトルでの大々的な発表、直後に行なわれた先行試遊、その反響からの試遊アンコールと店頭体験会の実施、そして発売、いずれも言及が増えて当然のタイミングだ。

動画の動きを見る

恐らくニコニコ動画で「ステマ」が行なわれるとすれば、有名な実況者などによるプレイ動画の公開といった形だろう。この方法はゲームの内容そのものが知れてしまうのでよほど巧妙に編集でもしない限り「好意的に紹介」しようがなくなってしまう気はするが、まあ知名度を上げるだけが目的であれば短に「紹介してくれないか」と依頼するだけでも効果はありそうな気もする。

調査時点でニコニコ動画内のスプラトゥーンを含む動画は3,079件。このうち5月7日のスプラトゥーン ダイレクト公開以前に投稿されていた動画は54本で、そのうち6本はスプラトゥーンが発表された2014年6月のE3よりも以前の動画に後からコメントなどで言及があっただけの無関係な動画であるから、実際にE3以降で投稿されていたのは48本となる。他タイトルとの比較はしていないから相対的な評価の程度はよくわからないが、決して「ぽっと出の新作が妙に注目された」のではなく1年前からそれなりに注目されていたらしいことが伺える。

残りはダイレクト以降の動画だが、うち6本は試射会以前のものなので、いわゆる「実況動画」の類ではない。
試写会の行なわれた9日中に投稿された動画は一気に122本。編集→アップロードが9日以内に行なえなかったものも含めればもっと本数は多いだろう。24日のアンコール以前に増加した動画数はおよそ540本(ただしブキ指南動画の転載やネタ動画なども含むため全てが試射会の動画ではない)、更に28日の発売より前の段階で3000本を越えている。この中に「依頼されて投稿した」ものが皆無かどうかは証明のしようがないが、少なくとも「任天堂が人気動画主に依頼したから無名作品が注目された」のではないことだけはわかる。

YouTubeの方でも、「スプラトゥーン 試射会」を検索しただけで約13,300件もの動画が出てくるわけで、(あまりの数に分析は諦めたが)状況は同じだろう。

結局ステマなのかどうか

調べた限りで言えるのは「任天堂にはスプラトゥーンでステマをする理由がなさそう」というところまでだ。「やっていない証拠」は出しようがないので、「やっているという証拠は疑わしい」止まりの話になったが、充分だろう。

っていうか実際に遊んでる人にはこんなもの説明の必要もないんだけどね。どう見ても「あまりに楽しいので人気」なだけだし。