実のところ、写真というのは写すものより写さぬものの方が重要だ。そもそも、何かを撮りたいと思ってカメラを構えるのだから、それ自体は写っていて当然なのであって、写りの悪さは写らなかったことよりも写ってしまったことによる場合が多い(無論、手ブレや光量不足などによる、「撮りたいものが写らなかった」写真もあるのだが)。
一般に、写真とは見たものを見たままに切り取るものであるかのように認識されがちだが、実際には人間の視界とカメラのそれとがかなり異なるために、愚直に被写体へカメラを向けたところで「見たような写真」はそうそう撮れない。
人は視覚が受像したものを脳内で再構築することによって認識を得ているのであり、その過程で不要情報の削除を行ない鮮明な記憶だけを残す。従って写真についても、同様の操作を擬似的に実現してみせる必要があるのだ。
被写体のみを切り取ってみせるには、どのような手口を使えば良いか。
ボケを使うべし
最も多用されるテクニックは「ボケ」であろう。ピントの合う範囲を調節することにより、はっきり見せたいもの以外をボカし意識を被写体に集中させるための手法である。実際、「良い写真」の大半はボケを効果的に使うことで被写体を浮き上がらせてみせているものだ。
すべての写真がボケを用いるわけではなく、画面全体にピントが合っていながら意識を散漫にさせないような写真というものも当然あるのだが、それは上級者にこそ許される撮り方だ。ボケこそは写真の基本テクニックであり、初心者こそボケの技法をしっかり獲得すべきであると言える。
実際のボカし方については巷にいくらも解説があるので省略する。
周辺減光も使いよう
周辺減光というのは画面の隅が暗くなってしまう現象で、基本的にはレンズ設計の敗北によって生じる。撮影範囲全域にわたりムラなく光が当たり、歪みや色ズレなくしっかりとピントの合った鮮明な像を得ることに、レンズ設計者は心血を注ぐもので、それが巧く行っていないレンズというのは本来ならば失敗作だ。
が、敢えてそれを取り入れる手法もある。光学設計の悪い安物カメラで生じてしまうそういった現象をも味わいとして楽しむ場合があり、スマートフォンのアプリなどでもわざと周辺部を暗くする加工が流行ったりもした。
実のところ周辺減光は単に雰囲気を作る効果だけでなく、画面の中央に視線を集中させる効果ももたらす。
作例
レンズ特性ではなく、GM1のアートフィルタを利用した画像加工により周辺減光を付加して撮影してみた。
この写真では花を中央に大きく写してはいるが、背景はそれほどボケていない。それでも周辺減光によって中央の花だけが浮かび上がって見える。
被写体が中心になくても、画面隅に見切れるような謎構図でさえなければ充分に効果を発揮する。
ボケがなくても、明らかな視線集中効果があることがお解り頂けるだろう。ただ、このように平面的な写真では不自然な暗さも際立ってしまうので善し悪し。
そもそも中央部の明るさが際立つ写真だが、奥(下)側の比較的明るい雲が周辺減光によって抑えられ、視線が強く中央を指向する。
ボケと周辺減光の合わせ技。被写界深度を浅く取り前後を強くボカしているが、密生した葉が同じ距離域に並んでおり絞り切れない視線を周辺減光が中央へ引き戻す。