「スチームパンクシリーズ」と銘打たれたPC向け18禁ノベルゲームの1作が、コンシューマ機に移植された。
紫影のソナーニル Refrain -What a beautiful memories-
- 出版社/メーカー: ビジネスパートナー/Liar-soft
- 発売日: 2014/02/27
- メディア: Video Game
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要旨
クオリティは充分ながら些か趣味に合わない面があった。しかしこの世界はもっと見たいので、シリーズ他作の移植にも期待。
システム
基本的には極めてオーソドクスな、ほぼフルボイス付きのノベルゲームである。オートプレイ、バックログからの巻き戻し選択、選択肢までのスキップ。長い文章を読み進め/読み飛ばし/読み流すための機能が備わっている。
特徴的なのは、「二重の意味を持たせる」仕掛けと、それを手掛かりとした「改竄箇所の発見」である。章ごとに、「図書館で新聞記事を読み改竄された記録を訂正する」場面が挟まれる。ここで章の内容を思い出しながら改竄箇所(3箇所の候補が示される)を正しく選択できれば、次章で適切な選択肢が現れる。失敗した場合は正解の選択肢が示されず、章中でゲームオーバーになる。
正直、このシステムはなんとも中途半端だ。
「手掛かり」はとても明示的なものでまず「見落とす」ようなことはないし、そもそもアドヴェンチャーではなくノベルゲームなので章ごとに選択場面は1回しか出現しない。何からの「調査」行動や会話中の複数選択肢による結果分岐で「隠された情報を探る」ような仕組みが欲しかったところだ。
もっとも、プレイヤー選択が与えられないが故に手詰まりもなく、読み進めることだけに集中できるわけで、この辺は善し悪しというより需要の問題かも知れない。私としては、「読むだけなら小説でいいので、ゲームにはゲームであることを望みたい」ので。
文体
とても特徴的な書き方をする。具体的には、助詞の省略と体言止めの多用。例示すると……
「書き方、特徴的。とても。助詞、省略して。体言止め、多用して。」みたいな感じの文章。
とはいえ、これは案外馴染む:少なくともボイスの当てられている範囲については。
口語文でもない「話言葉」に於いては、現実でもこうした省略はしばしば行なわれるもので、そのように耳から入るものである限り、違和感は少ない。
ただ、地の文までも同じ文体で書かれるので、そこはなんとかならなかったのかと思わぬでもない。
全体に文章が寸断され、長文が見られないのは、文章表示エリアが3行分しかない仕様に合わせたものとも考えられる。少なくとも、メディアとして異なる小説類などと比較すべきものではないだろう。
しかし、繰り返し表現の多さは些か気になるところだ。これがライターの癖によるものなのか、それとも作品のテーマに合わせた表現なのかは、シリーズ他作を知らないため判断しかねる。
ストーリー
ノベルゲームであるので、面白さのすべてはシナリオに依存している。
癖のある文体はともかく、物語はしっかり読ませるだけのものを持っており、充分に楽しめる。
ただまあ、元が18禁という性質上、物語としての流れとは別に情事が描かれざるを得ず、別段それは不自然でもないのだが、それでも「必然性がない」とは感じてしまった。
物語の中心的な部分は「不思議の国のアリス」と「オズの魔法使い」をモチーフとして描かれる。スチームパンクに期待される歴史改変SF的なものよりも、むしろファンタジーめいているが、これはどうもシリーズの特徴というより本作にのみ特徴的なことなのではないかという気がする。というのも、本作は2人の視点を交互に切り替えつつ進行するが、一方はファンタジーであるもののもう一方には確かにスチームパンクらしい世界設定が見て取れるからだ。
もし、他作ではもっとスチームパンクしていたのだとすれば、コンシューマ移植第一段が本作であったことは私にとっては些か残念と言わざるを得まい。もっとも、本作が成功を収めれば他作の移植可能性も出て来ようというもので、そちらに期待しておく。
キャラクター
敵にせよ味方にせよ、キャラクターはいずれも魅力的──であろうと思うが、正直なところ私はあまりキャラクターに興味を持たない傾向があるので、なんとも言えない。
可愛い女の子も美しい女性も登場するが、視点の故か、むしろ「同性から見た魅力」的な描かれ方をしている感じがある。その一方で「ダンディな男」「快活な少年」「無口な美青年」「眼鏡の朴念仁」など男性キャラがヴァリエーション展開されている辺り、なるほど確かに「女性に人気の18禁」らしさを感じる。
ただその、主人公の性格設定についてだけは少々思うところがあったので書いておく。
主人公は(2人いるが、主に語られる方は)基本的に無知で、判断力が低く、流され易いキャラとして描かれる。その行動は情緒的で、直情的で、基本的にトラブルメーカーだ。勿論それが最終的に解決を導きもするのだが、読んでいる側としては「悪い結果を招くであろうことが予感される行動を繰り返す」「言うべきことが言えず取るべき行動が取れない」などのもどかしさを繰り返し味わうことになってしまう。それが魅力になることもあるのだろうとは思うが、私としてはそういうタイプをあまり好まないので、正直ちょっと辛い。
世界
垣間見える「スチームパンク世界」はなかなか魅力的だ。
「
それは確かにスチームパンクを想起させる。正しく歴史改変的で、正しく科学と魔法の融合技術による。
この部分をもっと見たかった。どこでもない異世界の描写ではなく、異なる地球の、異なる歴史の方を見たかった。
もっとも、それはシリーズそれぞれに描写されたものを重ね合わせることで浮かび上がるものなのだろう。世界を描写することが作品の主眼ではないのだから、そこは単に私の需要の問題ではあるが。