ソニーが「スマートフォンに外付けするカメラ」を発表した。
Sony - Get set for a whole new photo experience : : News : Sony Europe Press Centre
ソニー、スマホをモニター代わりにする「レンズ型デジカメ」海外発表 - デジカメ Watch
情報そのものは数ヶ月前からリークされていたが、レンズ+撮像素子の撮影ユニットをWi-Fiでスマートフォンと接続し、操作や画像の確認、撮影データの転送などが行なえる「画面とボタンのないカメラ」のようなものだ。
「スマートフォンだって充分カメラになるだろ」というなかれ。「綺麗に撮りたけりゃ一眼使うよ」というなかれ。このカメラの真価は解像力でも機動性でもない、既存カメラでは決して得られない「自由度」にあるのだ。
コンデジやミラーレス一眼でも、ハイエンドのモデルでは「ヴァリアングル液晶」を備えたものがある。背面の液晶ファインダーが任意の角度に動かせるようになっていて、ローアングルやハイアングルでの撮影に対応するものだ。
一眼レフで地面スレスレのローアングルから撮影しようと思えば自分が寝そべるしかないが、ヴァリアングル液晶なら液晶部を上に向けて地面に置き、自分はそれを上から覗き込みながら操作すればいい。
QXではヴァリアングルどころか、そもそもレンズが画面と結合している必要がない。つまり離れた位置にレンズを置いて撮影することもできる。例えばアクションカメラのようにレンズユニットを車体やヘルメットなどに固定してもいい。棒の先に取り付けて狭い隙間の奥を撮影するようなこともできるだろう。もちろんセルフポートレイトなども簡単だ。
デジカメは銀塩カメラにはない様々な利点を有するが、そのひとつに「フィルム巻取機構が不要で撮影部の独立性が高いため、操作部との分離が容易」な点が挙げられる。初期デジカメはそれを強く認識しておりレンズ+CCDが回転するスウィーベル機構などが複数メーカーの製品に見られたのだが、画質追求の波に乗ってプロ〜ハイアマチュア向け一眼レフスタイルへの回帰が始まるとローエンド向けにまで「銀塩カメラ」スタイルが波及、今やスウィーベル機構を採用したカメラはほぼ絶滅してしまった。
ソニーも初期Cyber-Shotシリーズには画面上部のレンズが回転するF55系や大きな鏡胴がスウィングアームでボディと繋がったF505系などスウィーベル機を積極的にリリースしていたが、2003年のF828を最後に途切れた。もちろん10年前のカメラと今のカメラでは画質面など単純なスペックについては格段の進歩があるのだが、純粋に「カメラの進化」としてはむしろ後退の感がある。
QXがそんなカメラ界を変化させるきっかけになることを願っているが、それが果たされるかどうかは今後の発展にかかっている。
ところで実は「レンズ+撮像部のユニット化」に関してはリコーGXRなどの先例がある。まあそれらはQXと違い専用ボディに密結合する形式でありヴァリアングルではない点で比較対象ではないのだが、この方式にはもうひとつ「光学系と撮像素子を最適化設計できる」という利点がある。通常のレンズ交換式ならば光学系は同じマウントを持つ複数のカメラに大体適合するようにある程度汎用性を持たせた設計で妥協せざるを得ない面があるが、撮像素子ごと光学系を最適化できるならば設計自由度はぐっと高まる。また撮像素子がむきだしにならない分だけ防塵性も高い。
……が、この方式は商業的には成功を収めたとは言い難い。レンズユニットの製造をサードパーティに公開せずメーカ純正しかリリースされなかったが故のヴァリエーションの狭さが主な問題ではないかと思うが、優れた操作性と性能を持ちながら「物好きのための変態カメラ」の立場を脱却できなかったのは返すがえすも残念でならない。
その点でも、この方式には期待している。専用ボディとの接合が必須でライセンシー供給のなかったGXRと違い、(無線で接合する方式そのものを特許で押さえているのでなければ)これが成功すれば他社からも似たような製品が登場する可能性があり、そうなれば自由度の高い新ジャンルのカメラ市場が成立し得る。レンズ設計も魚眼やマクロなど多様な需要が喚起されるだろう。
一眼レフの優位性はレンズの多様性にこそあるが、レンズユニットの多様性が確保されるならばレンズカメラが一眼レフに匹敵する優位性を得られることになるわけで、もしかしたら携帯カメラに押され下落の一途を辿るカメラ市場が再び活性化する可能性だってあるのではないだろうか。