3DSの立体視とVitaの背面タッチパネルの使い道

もはやゲーム機がパワフルな処理能力で売れる時代はとうに過ぎ、今や新規性のある機能が重視される時代である。
元々、潤沢な処理能力というものは「それによって今まで困難だった新たな表現が可能になる」ことを期待されたものであったが、速度にせよ解像度にせよ、人間の反応精度を越えた性能は過剰なばかりで利点がない。むしろ性能が高まった分だけ粗も見えるようになってしまい、作り込むためにコストが重くのしかかる負の側面が強まった。
その辺りよくわかっていて、いち早く新規性を打ち出してきたのが任天堂で、コントローラ自体の動きを検出するWiiや2画面でタッチパネル式としたDSなど、競合とは明確に差別化されたゲーム機を生み出してきた。

ハードウェア機能の新規性というのは、実は単に目新しさのためだけに用意されるものではない。もちろん、作り手に対して新たな表現の可能性を示し新作への意欲をもたらすのも重要な役目ではあるのだが、その辺は結局「普及台数」などに大きく左右される部分であり、純粋にプラットフォームの優位性としてはそれ以上に「他機種へ移植できない」という部分が重要になる。2画面のDS系向けゲームは(少なくともそのままでは)PSPに移植するわけには行かない。まあ逆方向の移植だって手直しは必要だが、恐らく要求作業量はより少なくなる。
従って、新規性の高いゲーム機には専用タイトルの割合が高まると考えられる。

それまで性能を全面に出してきたSONYも遅蒔きながらそれに気付いたということだろう、PS Vitaでは背面タッチパネルという新たなスタイルを提唱してきた。また既に独自性を打ち出していた任天堂3DSでは更に裸眼立体視を追加している。

……ところで、上述の通り新機能は「新たな表現を可能にする」ことが目的であり、新たな表現とはゲームの可能性を広げるものである筈だ。では、3DS立体視は、Vitaの背面タッチパネルは、ゲームに何をもたらしたのだろうか。

裸眼立体視

3DSの上部ディスプレイはレンチキュラーレンズを利用して、画素を横方向半減させる代わりに左右の目に視差付き画像を送ることで奥行きを表すことができる。実際に使ってみると、画面が横方向及び奥方向にぐっと広がって見える。

奥行きの把握が最も効果的に機能するのはアクションゲーム、とりわけ画面奥方向に向かうものだろう。距離感が把握し易くなることで移動や照準などがやり易くなっているのは間違いない。

ただ、実際のところ立体視機能は「ゲームに新たな表現をもたらす」ほどではないように見える。ひとつには「立体視機能はオフにできる」ため、それがなければ成立しないような仕組みを入れるわけには行かないという問題。任天堂も「子供の視力に悪影響を与える可能性があるので」12歳未満はあまり立体視を使用しないことを推奨しており、「見え方が豊かになる」効果はあっても「新しいゲーム性」にまでは至らない。

そもそも、人間は視野全体を瞬間で認識するわけではなく短期的な時間の流れを連続的に把握する傾向が強く(例えば解像度320*240しかないアナログTVでも連続的な変化の重ね合わせにより動画の解像度はもっと高く感じられる)、ポリゴン化されたゲームに於いては元々視点の移動によるパースの変化から奥行きを把握することは難しくないため、立体視はそれほど必要性の高い機能というわけでもない。

まあ実は画像そのものの奥行きとはまた別に「画面表示を手前に出して強調する」というインターフェイスデザイン面での使い方もあって、これはこれで結構機能的なのだが。
とまれ3DSに於ける裸眼立体視は「目立つ機能」ではあるが実は重要度はそんなに高くないことがわかる。むしろ「すれちがい通信」の仕様拡張などの方がゲーム制作にとっては重要だろう。

背面タッチ

PS Vitaでは前面液晶タッチパネルに加え背面にもタッチパネルを置いた。こうすることで、例えば「指が邪魔して肝心の部分が隠れるため操作し難い」といった問題を解消したり、あるいは「前面液晶側から奥に押し込む/背面から手前に押し戻す」といった新たな操作を付け加えることが可能になる。
斯様に新しい操作系の可能性を秘めた仕様ではあるのだが、如何せんあまり有効に活用された事例を聞かない。
もちろん理由の半分は「斬新なものほど活用が難しい」からではあろう。従来のゲームの延長線上に乗らない機能を活用するには、全く新しいゲーム設計が必要になる。それはすぐに出てくるものではない。
ただ、それだけでもないのかも知れない。背面で操作するという点を除けばこれは単なるポインティングデヴァイスに過ぎず、単に「従来のものより見易い」ぐらいの利点しかないのであれば新しい設計には結び付き難い。「押し込む」とは言ったが接触を感知するのみで圧力の程度が測れるわけではないから、結局のところ操作は平面的であって奥行き方向への影響は限定的だ。
むしろこれは「両手をボタン/スティックから離さずにタッチパネルも同時操作できる」ことに真価があるのかも知れない。例えばスティックで移動を、ボタンでアクションを制御しつつ背面で視点を制御するような操作系の可能性。ただそれはそれで、片手の指では精々中央程度までしか届かないであろうという問題が生じるのだけれども。
背面タッチパネルもマルチタッチ可能なので、例えば前面ボタン系で機体を操作しつつ両方の指を使ってマルチロックオンする多弾ミサイルシューティング、みたいなものが生まれてくるかも知れない。まあちょっと操作難しそうな気はするけど。