ゲームは悪くないよ

所謂ネトゲ廃人問題などで、「ゲームにどっぷり嵌まるなんて病気だ」的な意見がかならず出てくるので。そうじゃないんだと。


そりゃ、ゲームは楽しい娯楽だ。受け身の娯楽よりも没入感が高いから嵌まり易い。新作買ってきて数日、寝食忘れて嵌った経験のある人だっているだろう。
でもそれは一過性のもので、一通り楽しんだらトーンダウンする。大作RPGなんかではクリアまで80時間ぐらいかかったりするようだから、1日4時間やってても20日、休日は10時間やってるとしても2週間ぐらいはどっぷり嵌まってたりするだろうけど、その辺で冷める。
まあネトゲ、とりわけMMORPGだと終わりというものがないからこの熱狂期間は他より長く続くだろう。それでも、寝ても醒めてもそのゲームのことだけ考えるほどの熱狂状態は嵌まって暫くの間と、何かゲーム内に大きな変化が生じた時ぐらいのもので、とてもじゃないが社会生活に支障を生じるほど、ゲーム内から戻れなくなっちゃうほどの熱狂を維持できる力はない。
じゃあ、なんで実際そうやって廃人になる人がいるのか。
端的に言えば、別の何か──多分、人間関係から逃避してるからだ。


高校デビューなんて言葉がある。中学まで目立たなかった生徒が高校で急に派手になる状態などを指すものだ。
小学校から持ち上がりで知り合いの多い中学と違って、高校では見知らぬ人ばかり、だからこそ思い切ったイメチェンで今までの関係とは違う世界を拓くためのものだろう。言い換えれば、中学までは良好な関係を築けなかったのだとも言える。
ネトゲも同じで、互いに顔も知らぬ相手とのコミュニケーションだからこそ別の自分になって現実とは別の人間関係を構築できる。ゲームであるのである程度絞り込まれた目的を共有しており、その達成に役立つスキルを発揮できる人物は重宝される。引き篭りのゲームオタクであれば、高いプレイングスキルを発揮できる可能性は高く、現実では冴えない人物でも一躍ヒーローになれる可能性は低くない。
また対人スキルは言葉だけでなく容姿や発声にも影響されるが、文字のみでコミュニケーションするネット世界では日本語能力さえ確かならスキルに不足はない。
つまり、ネトゲは本当に、現実世界とは異なる好ましい人間関係を築き得る場なのだ。そりゃ逃避したくもなるだろう。


ネトゲに逃避するということは、現実世界が逃避したいような場だということだ。問題は逃避先としての理想郷たるネトゲではなく、その現実世界の方にある。
人間関係のトラブルというのは逃げるのが難しい代物だ。自分の意思で切り捨てられるものとも限らず、時には人生捨てるほどの覚悟が必要になる。切羽詰まった結果として死を選んだり、あるいは精神を病む者も少なくない。
その絶好の逃避先としてネトゲが機能しているとは考えられないだろうか。結果として社会生活に復帰できないほどの没入はたしかに病的だが、病状をそこに限定することで、より重大な精神的ダメージを回避できているのであれば、悪いことでもあるまい。
そんな人を無理矢理ネトゲ断ちさせて社会に復帰させたところで、根本原因が取り除かれていなければ再度苦しみの元に身を置くだけ。


ネトゲを叩く前に、本当に叩くべきものがあるんじゃないか、という話。