ついった小説技法研究

140字しか書けないTwitterで小説を成す#twnovelという遊びが広まっている。140字で物語ろうというのだからそれなりの技法というものが出来上がって行くのだが、まだ2ヶ月も経過していないこともありその研究は進んでいないようなので、自身の作例を元に分類を試みた。

前後を想像させる

140字の文章に140字以上のものを持たせるには、「行間を読ませる」必要がある。要するに語らぬ部分を読者の想像に委ねるわけだ。
その方向性を突き詰めた作例として(twnovelではないが)有名なものにヘミングウェイが自身の最高傑作と評したとされる、たった6語の小説がある。

For sale, baby shoes, never worn.
(売ります、幼児の靴、未使用。)

恐らくは子供のために用意しておいたものが、何らかの事情で不要になったのだと思われる。その事情とやらがいかなるものであれ、悲劇的な事件が想像される。またこの広告を読んでコンタクトを図った人との会話までもが朧気に浮かんで来はしまいか。

ジャーゴンで煙に巻く

読者の想像を引き出す状況を短かい文章に詰め込むのはなかなかに難しいが、似たような効果をもっと簡単に引き出す方法もある。例えば、「それらしい単語を詰め込んでみせる」手法だ。

「遮音聴楽器を装着し体音再帰処理開始。置換遮視器に無意味化ノイズ投影、視認可能範囲ギリギリの42%。異端審問委員会の定める抗呪措置、異常なし。白い三角頭巾と法衣に身を包んだ教化歩兵大隊が降下を開始する。目標、空母ヴァルプルギス。主に栄光を、アーメン。」
http://twitter.com/docseri/status/3859529931

拙作から。造語と実在の語を混ぜ合わせてどこかで見たようなライトノベル/漫画/ゲーム類の一場面を彷彿とさせる効果を狙っている。その手の作品に造詣の深くない人はまったく埒外に置かれるが、想定読者に対しては効果的に映像を喚起し、その先へと妄想を広げる効果がある。
このような効果はクトゥルフ神話などホラーものやSFものなどジャーゴンの多いジャンルで特に効果的。

オチを付ける

140字しかないのだから、その中に起承転結をきっちり詰め込んだ「物語」を展開するなど殆ど不可能というものだ。むしろ短さを活かすならば、オチを用意してそれを最大限に演出するための構造を考えた方がいい。

「過熱した部分に冷却材を吹き掛ける。このところ過負荷になっているせいか放熱が酷い。高密度実装も考えものだ、ちょっと分散させる必要があるかな。そんなことを考えながら、神は今日も都市部にゲリラ豪雨を降らせる」
http://twitter.com/docseri/status/3509258103

「俺ももう長くは保たん。ガンがあちこち転移しててな……なあ、死ぬ前に決着を付けようじゃねぇか」「嫌だね、そんな奴との勝負ってのはフェアじゃねぇ」「怖気付いたか」「抜かせ……畜生やってやろうじゃねぇか」二挺拳銃より速く胎内16箇所の拳銃が火を吹き、斃れる影ふたつ。
http://twitter.com/docseri/status/3902490398

後者に至ってはまったくの駄洒落だが、オチまで駄洒落に気付かせなければそれなりの効果はある。

一発ネタから膨らませる

駄洒落の欠点は話のすべてが駄洒落に集約されてしまい、底の浅い、下らない印象を与えてしまうことだが、駄洒落をむしろ起点として想像を膨らませるならば別の効果を生じ得る。

「人造の鋼鉄巨兵ヴェルター。今や戦の主力であり機士のステータスでもあるそれが古代文明の遺物からのデッドコピーであることを知る者は少ない。/戦場を駆け抜ける白き稲妻。少年の操るそれは明らかに他とは一線を画していた。『ばかな!あれは…ヴェルタース・オリジナル!?』」
http://twitter.com/docseri/status/3911395964

これはオチ型との合わせ技でありジャーゴン型の類型でもある。巨大ロボットものでよくある「原型機が量産機より強い」「古代の超技術で作られた凄いロボット」的なノリを思わせつつ、よく知られた商品をオチに持ってくる。ついでに言えば「なぜなら彼もまた特別な存在だからです」という方向であらぬ妄想を期待したりも。

「『4段目の分離に成功』全段固体のL型ロケットで打ち上げられたフライパンが今、衛星軌道に乗った。無誘導重力ターンの後再点火。最終段の固体燃料モータの余熱を利用して適度に焼き上げられた目玉焼きは真空保存ののち33年後に再突入、解凍されて食卓に直送される予定である」
http://twitter.com/docseri/status/4102149178

これは野尻抱介「沈黙のフライバイ」に対して「沈黙のフライパン」との誤認が多いという点から派生した、まったくの駄洒落作品であるが、フライパンでフライバイという一発ネタからフライバイ(重力ターン)による軌道投入を果たした日本初の人工衛星おおすみ打ち上げシーンを想起し、このような形に落ち着いた。