三崎亜記を読む/観る

気になるタイトルの本を借りたら、以前から気になっていた映画の原作者だった。

廃墟建築士

廃墟建築士

となり町戦争 [DVD]

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「廃墟建築士」は短編集。表題作は鑑賞を目的に、最初から廃墟化する目的で建てられる建築物の設計を行なう建築士の話。その他に「七階にまつわる犯罪発生率が高いので七階をなくす」という役所の決定とそれに反対する七階護持闘争を扱う「七階闘争」、図書館を調教し野生本来の本を見せる「図書館」、何かを守るためだけに存在する蔵と蔵を守るために人生を捧げる蔵守の話「蔵守」の4本。
個人的には図書館と蔵守はややファンタジーに寄り過ぎた感があってイマイチ。対して前2作はまったくの現実世界になにか一つ違和感を投げ込んでその影響を書くという、一発ネタならではの勢いがあって好ましい。


「となり町戦争」も明らかにそうした一発ネタの上に成り立っており、恐らくこれがこの作者の地なのだろうと思われる。自治体同士が開戦し、しがないサラリーマンがそれに巻き込まれる。彼自身の役割は偵察「業務」であって直接の交戦はないが、いつしかこの実感のない戦争の当事者になってゆく、そんな作品。
ジャンルを定義するなら「ラブコメ」ということになるだろうか──もっとも、このジャンル本来の定義であろう「恋愛にまつわるドタバタ」ではなく「ドタバタの状況を、恋愛を絡めて妙に冷静な視点で綴る」という感じだが。
実は最初この作品の宣伝ポスターを見た時の予想は、「となり町との戦争で引き裂かれる恋人たち」的なストーリーだったのだが、見事に裏切られた。もっとシュールで冷静なブラックユーモア。
終盤の、昼休みのサイレン……?の重ね方は印象的。


この作風はかんべむさしの「サイコロ特攻隊」とか、小松左京の「日本アパッチ族」、あるいは星新一ショートショートあたりに通じるものを感じる。

日本アパッチ族 (光文社文庫)

日本アパッチ族 (光文社文庫)

嘘は少ないほど良い。でもその少しの嘘は意外に広い範囲に波及して、結果としてまったく違う世界を描くことになる。要するにこれは社会派SFなのだ。作家本人にその自覚があるかどうか、ちょっと怪しいけど。