iPhoneでHDRなパノラマを撮る

iPhoneのパノラマ撮影アプリ「Pano」を買って以来、凄い勢いでパノラマばかり撮っている。
このアプリは撮影した画像の20%程度を画面左端に半透過で表示し、それに重なるように次を撮ることで複数の画像を繋げて1枚に合わせるもので、画像認識により位置のずれや変形も適宜合わせてくれるし、色味も補正して繋ぎ目を自然に処理してくれる。
で、実はこれを使うと簡単にHDR画像が作れてしまうのだ。


HDRというのはHigh Dynamic Range、つまり明度差の広い写真のこと。普通写真の露出というのは結構レンジが狭くて、例えば逆光気味に空を背景にした建物を撮ると、建物に露出を合わせれば空が真っ白に飛んでしまうし空を青く撮れば建物は黒く潰れてしまう。これは人間の目でも同じで、そのように見えるのが適性なのだけれど、意識の上では空を見た時の色と建物を見た時の色、注目した部分の適性露出だけが記憶に残っているから両方見えることを自然と感じている場合が多い。
で、そのような見え方を意図的に再現するよう作ったのがHDR画像で、例えば同じ位置で露出だけ変えて撮影した2枚の画像を、白飛びしたところと黒潰れしたところを削除して重ね合わせることで「逆光の青空を背景に明るい建物」という、有り得ないけど記憶に忠実な画像を得ることができる。
普通は露出を様々に変えて複数撮影した上で重ね合わせてパーツごとに処理することで「どこもハッキリ見える」写真に仕立てるのだけれど、その結果として一種異様な見え方になることもしばしば。特に自動処理でこれをやると全体の明度が50%付近に集中するため全体的に灰色がかった印象で、それでいて各部はヴィヴィッドな色彩を帯びるので非常に面白いことになる。
flickrのHDRグループあたりに作例が多数あるのでざっとご覧頂くと特徴がよく理解できるかと思う。


さて、普通HDRPhotoshopのような画像編集ソフトで数枚を重ね合わせて作ったり、HDR合成専用のソフトで自動合成または強制的に明度を補完するなどの手段で作成するのが普通なのだが、それだと予め撮影しておいて事後の処理でしか結果を得られない。折角手元にiPhoneというコンピュータがあるのだから、その上で全部処理しちゃえばいいじゃないか。
で、実はPanoを使うと、擬似的な手法ではあるのだが手軽にHDRが得られてしまうのだ。
要するに、暗部に露出を合わせた画像と明部に露出を合わせた画像を繋げれば、「下方は影が明るく見えるが上方は空がはっきり見える」というような画像を作れることになるわけだ。
ただ、この方法はかなり強引な処理であることは間違いない。本来ならHDRは同一アングルで露出を変えた複数の画像を切り出して作るものだからパーツごとに露出を調整可能だが、Panoではあくまで画像を繋ぐだけなので明暗の切り替わる部分は常に直線的だし、また快晴時の完全逆光などでは明暗の差が激し過ぎて繋ぎ目が破綻し易くなる。その辺はまあ割り切るしかない。できれば薄曇りや夕景のような明度差の少ない被写体の方が向く手法ではある。


この手法を教わったのはPanoで日没を撮る - Underconstruction by Taiyo。このエントリにはそれはもう見事なPanoによるHDR作例が貼ってあるのだけれど、何故か表示が壊れているようだ。リンク先ではちゃんとした画像が見えるのだが。日没直前の空の色、陽光の反射を受けた海の色、そして逆光になる手前の芒の色。それらがいずれも適性露出で繋げられることで、写真としては有り得ない、けれど記憶の切り抜きとしてはこの上ない写真に仕上がっている。
自分でも色々撮ってみたものがフォトライフに置いてあるが、なんというか然程HDRっぽく見えない。強烈な補正が掛かっていないこともあって、ごく自然な見た目の写真になってしまっているのだ。
実際の差異は、例えば下の2枚を見比べるとよく判る。

左は合成なし一発撮り。下の方は影になってかなり暗い。対して右はパノラマ合成によるもの、幾分明度差が控え目で座る人も確認可能な写りだ。
本当はもっと違和感あるほどの写真を撮りたいんだけど、なかなか条件が揃わないのが実情。精進します。