これまでのRPGでは不可能だった遊び方の拡張を提案する。
「情報戦」とは、要約すれば「複数の敵対的存在が互いに相手の肚の内を探る」行為である。パーティと利害を異にする人物/組織/人外の存在や、場合によっては対立するPC間でも行なわれる。更に言えば1対1とも限らない。
いや、こういうシチュエーションそのものは別段、従来のゲームでも不可能ではなかった。ただしそれらはあくまでシナリオとして規定すれば、であってゲームのルールとしての規定ではない。例えば予めシナリオ作成者が「PLがこういう行動を取った場合には敵対組織がこういう行動を取る」のように制定しておくことによってのみ再現されていたのであって、全能のGM対PLの図式であればそれはそれで良かったが必ずしもPC同士が協力しない新世代型RPGにあっては「PC間に起こり得る状況をルール上公平に処理できない」ことになりかねない。
では情報戦のためにはどのようなルールが必要となるだろうか。
専用にTRPGをひとつ作成するわけにも行かないので、基本的に独立した処理としてどんなRPGにも組み込み可能であるような形が望ましい。となると必然的にボードゲーム的な完結性を有するものになってしまうが、一方でロールプレイと連動するものでもなければならないので、ある程度はPCの能力による判定を以て代えることの可能な処理である必要もあろう。とは言え流石にあらゆるシステムでの情報収集関連処理にマッチするというのは不可能であるので、細部については各自で工夫されたい。
情報戦を再現するための条件は、概ね以下のようになる。
- 明示された勝利条件
- 例:敵基地の戦力情報を持ち帰る
- 時間に基く、各自の手番回数の管理
- 例:4時間単位で1日あたり6回行動可能、ただし連続3回ごとに1回分を睡眠に充てない限りはあらゆる判定に1ペナルティ(3回ごとに累積)。タイムリミットは1週間
- 現在の情報に基きある程度予想される、取るべき手段とその成果
- DBに侵入するなら[ハッキング]で判定、多分この基地に備蓄されている兵器や兵員、資源のリストが入手できるだろう。ただし失敗すると敵対組織の存在、及び目的とする情報の傾向が相手に伝わる
- 情報収集の手段として生じる、敵対者への情報
- 買収を試みたことで「買収する者がいる」ということ、「何についての情報を欲しがっているか」という情報が伝わる
こうしたことが充分に再現されるようなルールであるべきだ。更に言えば
- 潜入した/抱き込んだ工作員による妨害活動
- 誤情報の流布
などもサポートしたい。
残念ながら提示できる完成度でのルールはまだ存在していない。朧気な方向性として、このルールそれ自体には「何の情報を扱うか」「誰とどのような交渉をするか」のような具体的状況説明を含まず、できるだけ抽象化したいと考えている。そうすることで世界設定やシナリオ背景に関らず活用可能にし、ロールプレイ部分は各自の演出で補ってもらう方針である。
スピンアウト
情報戦の条件のうち、「現在の情報に基きある程度予想される、取るべき手段とその成果」及び「情報収集の手段として生じる、敵対者への情報」あたりのイメージを大雑把に把握するために、「海戦ゲーム」もしくは「マスターマインド」のようなものを想起して頂きたい。
マスターマインドとは、出題者が用意した正解(通常、4桁の数字など)を回答者が予想するゲームである。出題者は回答と正解の一致を示し(例えば回答が1234、正解が1357であれば1は場所も数字も一致、3は数字のみ一致なので「1ヒット/1ブロー」などと返答する)その情報を元に正解を絞り込む。両者が共に出題と回答を兼ねれば「互いに相手の情報を探る」形になる。
ただマスターマインドでは初期状態から情報が変化しないので、この点で海戦ゲームの方が更に近い。
海戦ゲームは、互いにマップ上に記入した艦艇の位置を突き止めるゲームである。一般的な形式では複数の艦艇が存在し、指示位置に艦艇が存在すれば「命中」その隣にあれば「至近弾」とだけ告げ、全艦に命中させた方の勝利となる。
これを少々変更し、次のようにしてみる。
- 5×5程度のマップのどこかに自分の位置を記す
- 交互に行動を宣言。攻撃または移動が可能
- 攻撃:位置を指定
- 指定できるのは自分の位置から縦横2マスの範囲内
- そこに相手がいれば勝利
- 移動:方向を指定(上下左右)
- 1マス移動して終了
- 攻撃:位置を指定
自分から一定距離内しか攻撃できないから、攻撃位置宣言は同時に自分の位置を推測させる材料でもある。移動を挟むことで情報を不確定にすることができるものの、自分も相手を追い詰める手を打てない。
いやまあ、上記のゲームには情報戦との直接の関係はないのだが、こんな感じで「今得られる情報から推測して絞り込んでゆく」「目的を達成するための行為が相手を助けることにもなってしまう」構造が作りたいのだ。