『クトゥルフ神話ガイドブック』ガイドブック

「オタクの嗜みとして知っておきたいけどどこから入ったらいいか判らない」という声は結構あるようなので、ラヴクラフトも直系作家も読んだことないけどゲーム、漫画、解説書の類で知識だけは溜め込む私が入門書を解説してみようかと思う。
実はガイドブック類についてはクトゥルフ資料本 - 妄想科學日報で解説済みなんだけど、あれから増えた分やガイド以外の教本も含めて再度紹介する。

国内のクトゥルフ関連作品

最初に、日本のゲーム、漫画、小説などでクトゥルフ神話に関連する作品をリストアップする。この中に触れたことのあるものがあるなら、あなたはもう既にクトゥルフ神話の入口を覗いている。取り上げ方は様々で、クトゥルフ神話作品の一つに数えて良いほどの域にあるものもあれば、ちょっと名前を借りただけのものあるが、なんにせよ馴染みの作があると入り込み易いかと思う。
(私も全部押さえてるわけではないし、忘れているものなども多数あるかと思うので、抜けを見付けた方はご指摘頂けると嬉しい)

ゲーム
小説
  • 菊池秀行『妖神グルメ』
  • 伏見健二『レインボゥ・レイヤー』
  • 小林泰三玩具修理者』『C市』『本』『密室・殺人』
  • 朝松健『肝盗村鬼譚』『崑央の女王』『魔障』『魔犬召喚』
  • 栗本薫『魔界水滸伝』『魔境遊撃隊』
  • 梅原克文『二重螺旋の悪魔』
  • 山本弘『MM9』
漫画

ガイドブック

ここからはクトゥルフ神話を解説するガイドブックを解説する。概ねお薦め順に書いてゆくので、その順に読むと宜しい。

クトゥルフ神話ガイドブック

クトゥルフ神話ガイドブック―20世紀の恐怖神話

クトゥルフ神話ガイドブック―20世紀の恐怖神話

クトゥルフ道の入門用に最適の一冊。ラヴクラフトやその後継者たちの諸作品解説を軸に「H.P.ラヴクラフトとはいかな人物であったか」「コズミック・ホラーの怖さとは何か」といったことを丁寧に解説する。各章の間には著者によるクトゥルフ的挿話が挟まれ、雰囲気あるイラストが鏤められる。ごく簡素な主要用語事典、主要作品粗筋解説、主な参考資料一覧など、基礎知識を押さえるには充分な一冊。ただ広範なだけに深く追求できない物足りなさはある。

学研ムック ヴィジュアル版謎シリーズ クトゥルー神話の謎と真実

クトゥルー神話の謎と真実 (Gakken Mook ヴィジュアル版謎シリーズ)

クトゥルー神話の謎と真実 (Gakken Mook ヴィジュアル版謎シリーズ)

主にヴィジュアルイメージを追求したガイドブック。僅か100ページ余りの小冊子ながら主要作品解説、主要神格解説、魔導書・探求者解説など基本は充分に押さえてある。また熱狂的ファンである佐野史郎が企画・熱演したドラマ「インスマスを覆う影」や「ウルトラQ」とクトゥルフ作品の関係など独自の視点も盛り込まれており、かなり密度の高い一冊。

クトゥルフ神話がよくわかる本

「クトゥルフ神話」がよくわかる本 (PHP文庫)

「クトゥルフ神話」がよくわかる本 (PHP文庫)

300ページにも満たない薄手の文庫だが、神格、魔書、地名について複数の作に於ける描写を引用しつつ解説しており資料的価値は高い。項目ごとに関連する固有名詞の解説ページ数を示してあるので判らない単語について解説の参照も容易。また各項に雰囲気あるイラストを添えてある点も高く評価したい。

新訂クトゥルー神話事典

クトゥルー神話事典 新訂版 (学研M文庫)

クトゥルー神話事典 新訂版 (学研M文庫)

文庫サイズの事典。エンサイクロペディアに比べ内容は少ないものの、用語集だけでなく諸作品の解説、作家案内、年表と分かれているのは使い易い。項目ごとの解説量は少なめで読み物としては些か趣に欠けるが、その分項数は多く事典としてはそれなりに充実している。

エンサイクロペディア・クトゥルフ

エンサイクロペディア・クトゥルフ

エンサイクロペディア・クトゥルフ

用語事典としての密度もかなりのものながら、単なる「諸作品での扱いを解説」に陥らず、「これらが実在するとしたときの、筆者による用語説明文」というスタンスで執筆されている。特に、謎めいた存在の真実については不明のままとし、諸作品での扱いの差による矛盾やネタバレを避けているのは良い判断だと思う。結果として、これはこれ自体がある種の禁断の知識を内包する魔術書的な存在になりつつある。
しかしその分、初心者向け解説書としてはお薦めできない。

図解クトゥルフ神話

図解 クトゥルフ神話 (F‐Files No.002)

図解 クトゥルフ神話 (F‐Files No.002)

クトゥルフ作品の固有名詞に図を添えて解説するガイドブック。地名については周辺地図などが用意されており資料的価値が認められるものの、神格や魔書については図があまりに矮小に過ぎて宇宙的恐怖を感じられない。

読んでおくべき関連作品

正統クトゥルフ神話群に関しては前述のガイドブック御覧頂くとして、ここではそこから外れた「国内作家のクトゥルフ神話」を語る。
ただし『クトゥルフ神話ガイドブック』で触れられた作品については取り上げない。

士郎正宗『仙術超攻殻オリオン』

仙術超攻殻オリオン (Comicborne)

仙術超攻殻オリオン (Comicborne)

攻殻機動隊」をファンタジーにしたような作品。古今東西の魔術やクトゥルフネタを鏤めてアクション風味に纏めている。英語に無理矢理漢字を当てて日本語として扱ってみたりする遊びが随所に見られる辺り、実にオタク的作品と言えよう。
こういった「複数のネタを絡めて新たなものを作って見せる」ものこそ真にオタクというべきだし、クトゥルフネタは広範な応用範囲に於いて学ぶに相応しいネタである。

八房龍之助『宵闇眩燈草子』

宵闇眩燈草紙 (1) Dengeki comics EX

宵闇眩燈草紙 (1) Dengeki comics EX

戦前ぐらいの日本を舞台としたオカルトアクション漫画。クトゥルフだけでなく幅広いオカルトをネタに扱っているが、終盤では世界設定の根底としてクトゥルフの存在が仄めかされる。「どこに何のネタが仕込まれているか判じて遊ぶ」という、こちらもまた正しきオタクの姿を表す作品。

小林泰三『本』

人獣細工

人獣細工

ホラー作家としては人体の改造やアイデンティティの浸蝕のようなコズミックホラーとの親和性が高い(が宇宙的恐怖よりはもっとパーソナルに迫る恐怖を主体とした)ネタを得意とする作家で、この作品自体もそうした傾向が強いのだが、中でも『本』はクトゥルフ色を強く持ちながらも一切の繋がりを持たない、言わば完全オリジナルのクトゥルフ神話とでも言うべき作。
他に挙げた作もそれぞれに異なる側面からクトゥルフ神話を描く佳作であるので、是非楽しまれたい。