スウィーニー・トッド:フリート街の悪魔の理髪師

子供が寝静まった丑三つ時に観る。期待に違わぬおどろおどろしさ。カラーフィルムなのにほぼ無彩色で、血の紅だけが鮮やかだ。


妻を拐かし自分を放逐し娘を取り上げた判事と、それを手引きした小役人に復讐するため身分を違えて帰還した腕利き理髪師。手違いから一人殺してしまったその死体を階下のパイ屋がミンチにして利用する-----
大元は「死体をミートパイにして証拠隠滅」という都市伝説から発生したゴシップ的物語であったらしいそれは19世紀中頃には"スウィーニー・トッド"の名を得、切り裂きジャックに並ぶ連続殺人鬼として知られるようになる。恐らく最初は単なる恐怖の殺人者であったトッドは次第に動機が肉付けされ、極悪な判事と復讐に狂った男の悲劇としての像が固まってゆく。
どういう関係なのか、元々のストーリーからして駆け落ちする男女が絡んでいるらしいのだが、本作ではその娘をトッドの実子であり敵たる判事の養子に位置付けることで物語を更に複雑なものとしている。理髪師の妻に恋慕する判事。手籠にされ服毒する妻。判事に濡れ衣着せられ放逐される理髪師。実親を知らず判事に育てられる娘。面影の残る娘との結婚を目論む判事。娘一目惚れし駆け落ちを目論む船乗り。寡となった理髪師に恋慕する女主人。女主人を慕いしトッドを疑う下働きの少年。


後味の悪い中にも一握の悲劇と一抹の希望が残る。薄汚れているのに美しく、露悪的なのに控え目、非道なのに同情的。これは手元に追いて見返したくなる作品だ。
惜しむらくはバートン流の悪趣味な仕掛けがイスただ一つに留まる点か。