「地球温暖化問題の結論だけを3行で説明してみた」の問題を3行で説明してみた

  1. 温暖化の原因/可能性/影響程度については何も判っていない同然なのに断言しちゃって大丈夫?
  2. 京都議定書の効果程度は不明だけど「何もしない」わけにも行かないよね
  3. リスクコントロールを考えた結果が現在の手法だと思うんだけど

温暖化の原因/可能性/影響程度については何も判っていない同然なのに断言しちゃって大丈夫?

地球温暖化に関する議論を総括すると、こんな風になる。

  • 二酸化炭素の増加は本当に人為的なものなのか
  • そもそも二酸化炭素増加が主要原因なのか
  • そもそも温暖化してるのか

万年単位で蓄積する南極の氷採掘などから、二酸化炭素がここ数百年の間にかなり増加していることは解っている。これは過去の気温変動に伴うサイクルとは別のものに思われ、この間急激に変化したものと言えば人間の活動以外にちょっと考えられない。だからまあ、人間が原因で二酸化炭素が増加してるというのは多分正しい。
でも、それだけが温暖化の主要原因だろうか。万年単位で見れば地球の気候というのは結構変動する。ほんの1万年ほど前までは氷河期で、海面が下降しインドネシアの辺りはスンダランドという一続きの陸地だった。近年の気温上昇傾向や「異常気象」だって、ごく歴史の浅い気象観測史上では異常だけど地球史的には正常の範囲内で、偶々ちょっと変動しただけですぐ戻るのかも知れない。
ところで現在は間氷期という、氷河期と氷河期の間にあって気候が温暖な時期に当たるという。30年ぐらい前は温暖化なんて誰も心配していなくて、逆に「そのうち氷河期が来るかも知れない」という方が主要な危機感だった。もし氷河期が近いのだとすれば、むしろ温暖化してくれるぐらいで相殺して丁度良いんじゃないかという気さえする。


ちょっと前までは、こういう研究って状況証拠の組み合わせにより過去の状況を研究し、それを元に未来を(過去の事例の繰り返しとして)想像するしかなかった。でも研究の積み重ねとシミュレータの演算性能向上に伴って、短期的かつ大雑把ながら、本当の意味での予測が可能になってきた。
とは言え、地球規模の環境シミュレーションというのは本当に難しい問題だ。ちょっとしたパラメータの違いで結果が大きく変わり得る。
シミュレーションの際には、まさか地球の全分子を計算するわけにも行かないから適当にモデル化して、つまり省いても大丈夫そうなものは省いて簡略化するんだけど、ひょっとするとその中に人間が気付いてないだけで気温に大きな影響を与えるような要素が含まれているかも知れない。例えば-----平均海水温が一定以上になると一斉に海面を埋め尽してアルベドを上げるプランクトン、とか。
まあ判らないものは予想のしようもないんだから仕方ないけど、確実に解っているのは次のようなことだ。

  1. 二酸化炭素には温室効果がある
  2. ここ数百年間での二酸化炭素排出量と平均気温上昇のグラフは近似している
    • これは必ずしも直截的に二酸化炭素が気温を上昇させていることを示すものではないが、1と併せて考えると二酸化炭素が温暖化の原因となっている可能性は高いように思われる
  3. 温室効果には正のフィードバックがある
    • 海水温が上昇してくると水蒸気が増える。水蒸気は二酸化炭素より強い温室効果を持つので気温が更に上昇する。そして益々水蒸気が……
      • あるものの影響の結果がその影響力を強めるように働くので「正の」フィードバックという。放っておくと凄い勢いで増加しちゃってさあ大変。

そうすると、二酸化炭素を抑制すれば温暖化に対処することは可能っぽいし、逆に放っておくと気付いた時には既に手が付けられないところまで加速しかねない。
とまあ、これが現在の認識。

京都議定書の効果程度は不明だけど「何もしない」わけにも行かないよね

京都議定書では二酸化炭素排出だけを規制しているけど、実際のところ温暖化に大きく関るのは前述した通り水蒸気だ。またメタンガスも更に強力に温室化を進める*1
でもメタンにせよ水蒸気にせよ、人間がコントロールできる範囲はごく微々たるものだ。唯一二酸化炭素だけが、人間の活動が影響している割合が高い。だから「できるところから手を付けよう」というのが二酸化炭素規制の主旨。
この辺になってくると政治の割合が強いので、必ずしも科学に基づいた判断でない部分も混在している。「排出量取引」なんて経済活動に結び付けちゃうあたりなんかもその一例だ。
まあ、金を絡めて企業努力を引き出そうというのは悪くないアイディアだと思うけど。

リスクコントロールを考えた結果が現在の手法だと思うんだけど

ここからはメタな話。
上記の通り、温暖化のリスクは計れない、というか計りようがない。「なってみるまで判らない」んだから。
ただ、「なってからでは遅い」という認識は強い。正のフィードバックにより止めようがないところまで来てしまうかも知れないし、そうでなくとも既に二酸化炭素ごときでどうにかなる範囲を越えてしまって、もっと極端で効率の悪い方法-----例えば軌道上に日除けを張って太陽の熱を遮るとか-----しか採れなくなってしまうかも知れない。
だから、「今すぐできる範囲のことをしておこう」というのが京都議定書の基本的意義。これだけで充分ということは多分ない、100年ぐらい経ったら結局別の策を講じる必要があるかも知れない。でも多分その頃にはもっと研究が進んでより効果的な対策が可能なんじゃないか、精々それまでの時間を引き伸ばそうと、概ねそういう方向で決められている。
それが「排出権取引市場」なんていう経済活動に収束するあたりが政治の珍妙なところではあるけれど、全体最適解より個別最適解を採択しがちな市場原理を、「全体最適解のための行動が個別最適解に繋がるように仕向ける」というのはなかなか悪くないデザインなんじゃないかな。

*1:海底には沢山のメタンガスが高圧を受けシャーベット状に埋蔵されていることが知られている。これも海水温の上昇により溶け、正のフィードバックを生じると懸念されている