フォッケ・ヴォルフ Fw228 先尾翼・前進翼高高度戦闘機試作型


ドイツというのは本当に凝り性な国で、性能を追求しすぎて奇抜な技術に走るきらいがあった。とりわけ空軍でその傾向は顕著で、全周視界を稼ぐため「コックピット前後にエンジンを配置しない」ことを目的に左右非対称の偵察機を作ったり、高速性を求めて前後2エンジン機を作ったりしている。エンジンだって現在のオートマの基礎となる流体継手無段変速や燃料噴射制御を実装していたり、液体ナトリウム冷却を実用化したりと明らかに他国に比べ機械技術では飛び抜けていた。ジェットエンジンすら戦前に完成しているのだ。
現在の最新鋭戦闘機で採用される前進翼可変翼もドイツが先鞭を付けたものだし、日本の「震電」で有名な先尾翼などは先立つこと12年前、既に実用化している。


このFw228も先尾翼機で、機種まわりのシルエットなどは震電を彷彿とさせるものがある。戦闘機としての先尾翼機には左右及び前方視界を遮られ難いメリットや、機首に武装を集約でき命中率が高まるなどの利点がある。本機もそうした目論見で造られたものだろうか。
これは試験機であるため実際には武装しておらず重量のみのダミーが収められていたようだが、計画では機首上部に12.7mm機銃4門、機首下に30mm機関砲1門を装備する予定であったらしい。その他、主翼内にも12.7mm機銃または37mmガンポッドを装備する案があったようだ。
特徴的なのは後方で斜めに突き出す大きな尾翼であろう。垂直の尾翼を持たず、代わりに斜め尾翼を上下4枚(下方にも小さな尾翼がある)としたのは、推進式としたプロペラへの流れを遮らぬようにする配慮か。なぜ他国機のように主翼上の垂直尾翼としなかったのかは謎である。
写真からはよく解らないが、実は主翼前進翼先尾翼後退翼となっている。前進翼機はその特性上、失速を生じ難い半面機体安定性が悪いという欠点があるが、考えようによってはこれは運動性と高速性を両立させる特性ともなり得る。
本機の要求仕様は「高高度戦闘機」であった。制空権を失い苦戦する軍にとって、高高度を取れる高速戦闘機は空中戦を有利に進め、失った制空権を取り戻す上で必須の条件であり、フォッケウルフ社内だけでもクルト・タンク技師によるTa152などのプロジェクトが平行で進められている。
どうやら社内的な主眼は「既に成功しているFw190Dを素体にどうやって高高度性を付加するか」であったらしく、タンクのプロジェクトもあくまでFw190の再設計であった。本機についても同様で、エンジン周りはFw190Dと同一である。ただ本機でユニークだったのは、それを前後逆向きとしたことだろう。胴の後半を切り落とし、新たに滑らかな「機首」が追加された。エンジンブロックは冷却性の悪化を懸念してか、胴体左右に大きなエア・インテイクが追加されているほか、冷却液を機体表面に這わせた細い銅パイプに通し冷却する「蒸気式胴側面冷却器」を装備していた。He100が主翼面に採用し、空気抵抗を減らし極めて良好な高速性を得たものの被弾可能性の高さから「実戦向きでない」と評価された方式を、比較的被弾可能性の低い位置に改めたものである。一見するとFw190の理念であった戦場での実用性と相反するようにも思われるが、実際にはインテイクのお陰で空冷のみでもそこそこの冷却性を維持できたようだ。
また機首下面に垂直の先尾翼があるのも特徴的である。これは恐らく、不安定な機を多少なりと安定させると同時に、斜めの操舵翼を補完する目的で取り付けられたものであろう。操舵翼とは逆方向に舵を切ることで機首と機尾を逆方向に回転させる効果があり、小回りが効いたものと思われる。ただ、そうすると機首側に車輪を装備し難いように思われるのだが、一体どうやって駐機していたのだろうか。
翼端ねじれを生じ易い前進翼の補正に苦慮した結果であろうか、主翼付け根付近はかなり太くなっており、胴部後端を三角に広げたようになっている。結果として平らな胴部でも幾許かの揚力を得たのだろうか。本機の設計に関わったハンス・ムルトホップ技師は戦後渡米し、スペースシャトルのリフティング・ボディ開発に携ってもいる。
本機の性能については記述が少ない。純然たる速度記録機であるMe205にも匹敵する高速性能と卓越した運動性能を見せたような表現があるが具体的な数値記録はなく、信憑性が薄い。そもそも本機の存在にしてからが、プロパガンダ目的のでっち上げの可能性を疑われているのだ。遺された記録は誰かの手記と写真数葉のみ、実機はおろか設計記録も残っていない。しかもこれだけ特異な機とあっては致し方ないところと言えるが、逆にプロパガンダ用としてはいかにも特殊すぎるようにも思われる。数々の変態機を作り上げたドイツと雖も、説得力ある「高性能戦闘機」写真を作るならもう少し普通のデザインを考えそうなものだ。また、実機の存在しない捏造写真であるなら、恐らくは比較的加工の容易な地上写真とするところだろう。しかし本機について遺された資料はいずれも飛行中のものである。とすれば、これは実際の飛行中写真と考えるのが自然ではないだろうか。


……なんてね。
予定外に多くなってしまったFw190Dと、子供に壊されたBf109Fの部品があったのでちょっと遊んでみた。