エスカレータの設計基準とデザインの問題

事故を起こしたオーチスのエレベータ、なんか設計が変なんだけど。


1段あたりの最大重量は130キロで、総重量が7.5トンを超えると停止するように設計されており(中略)エスカレーターを製造した「日本オーチス・エレベータ」(中央区)などによると、事故機は1階から4階まで直行し、長さは約35メートル。幅102センチのステップが84段あり、建築基準法に基づいて、1段あたりの最大重量や総重量を設定している。
1段130kgということは1段2人乗りとして一人あたり65kg。痩せ形の男性もしくはちょっと重めの女性の体重程度。荷物は考慮外。
イヴェントの特性上、大半が成人男性と考えられるから実際にはもう少し荷重がかかっていそうではある。まあ搭乗時の衝撃なども考慮した安全係数にはなっているのだろうと思うから、それだけで壊れるということはないのだろうが、いずれにせよ全体での耐荷重7.5tは少な過ぎる。
84段×130kg=約11t。満載すると150%近い過積載状態なのだが、そんなことは誘導員だって把握してないんじゃないか。普通、過度に密集した状態でもないごく普通の満員状態にも関らず限界以上の積載だとは誰も思うまい。入口にゲートを設け、重量が一定を越えると後続をシャットアウトするような仕組みが必要だったんじゃないのか。

このエスカレーターが緊急停止する際に作動するブレーキは、9.36トンの重さまで耐えられる設計だったことがわかった。(中略)9.36トンの重量は、各ステップに体重約60キロの大人2人が乗った状態。
これはもっと拙い。全体で11t乗れてしまうのにブレーキ限界がそれを下回っている。そりゃ事故るわ。建築基準法でこれが許されてることの方が驚きだ。
想定体重65kgでさえ成人男性としてはやや少ないぐらいだと思うが、60kg換算ではどうやっても超過する、ていうか60kg×2人全段でも10.5t行くんだが。やっぱり元の設計おかしくないか。
駅なんかではラッシュ時普通に満員、+歩行通過が行なわれているが、それでもエスカレータ事故の例は(同じオーチスの)名古屋駅での事例ぐらいのものだ。メーカが予め使用状況を想定したヴァージョンで納入しているからだろうか。
当然ながらイヴェント会場も混雑が予想されるわけで、それを見越した機種選定が必要だった筈だが。


ところで、この数字からは日常ごく普通に行なわれている「歩いて通る」がメーカ想定外の負荷であることが判る。体重が基準内でも、歩くときは衝撃がかかるから瞬間的には2倍程度の負荷がかかっている筈だ。
メーカが「歩けるエスカレータ」を設計し全国的に改修するのでもない限りは歩かない方がいい……わけだが、にも関らずエスカレータ内を歩く行為はごく普通に行なわれている。
何故ならば、エスカレータが階段型をしているからだ。階段は歩くもの。動く階段になってもその意識は変わらない。
従って、エスカレータを歩かせないようにしたければ、メーカはあれを階段と思わせない工夫が必要になる。各段を高くして歩けないようにするとか、各段に椅子を付けて座って移動させるとか。これは純粋にデザインの問題。
エスカレータの発明時期はちょっと明らかでなかったが、少なくとも日本では1914年に初稼動しているから、それよりも数年は遡るだろう。そう考えると100年程度の歴史があり、その間にこうした事故例はいくらもあっただろうに、根本的なところで対策されていないというのは驚くべきことではある。