双子の月

地球に住んでいると忘れがちだが、月という衛星は割合珍しい存在である。
惑星質量に比してかなり大き目で、かつ惑星に近い位置を回っているから重力に囚われて自転できずにおり、また惑星に対し大きな潮汐力を及ぼす。
サイズは太陽の直視径とほぼ完全に一致(だから金環蝕なんて現象が起こるわけだが)、表面材質は再帰反射性を有しており夜空でひときわ目立つ。


ファンタジーなどでは異世界性の強調意図からか複数の月を持つ世界などがしばしば描かれるが、多くの場合は雰囲気だけの存在または魔法的な何かであるので月が複数ある惑星について考察されることはまずない。
では実際、複数の月があったらどんな世界になるのだろうか。


大体地球ほどのサイズの惑星に、月ほどの衛星がふたつ。安定軌道を取るには、二つの月は惑星を挟んで正対する位置になければならない。すると潮汐力の影響は今より大きくなる:海水が両側面から引かれることになるので。
地球では潮汐による水位変動の最大値(港湾での測定による)は15mだそうだが、双子の月を持つ惑星では単純にその倍になる……のだろうか。


衛星はもっと大きくても良い。冥王星が惑星を外された理由の1つでもあった衛星カロンは、実際のところ冥王星との共通重心が冥王星内に存在していない2重星である。惑星の半分程度の巨大な衛星でも、両側にあれば共通重心は丁度惑星内部に収まる。
そのような3重星であれば水位の移動はかなり激しく、月の位置によって陸地面積が何%も変動するようなことになるかも知れない。また潮汐力に起因する地殻の振動も激しさを増すであろうことが予想される。組成次第では主星の磁気圏を導電性の衛星が回転することで電位を生じ、激しい落雷が発生するダイナミックな星になるかも知れない。
SFの舞台とするなら、表面をほぼ水に覆われ、5〜20%ぐらいの範囲で陸地面積が変わる、そんな星にしたいところだ。生態系の主体は水棲生物と洋上に浮かんだ植物性のプラットフォーム、及び「永久陸地」やプラットフォームに棲息する鳥類やごく少数の陸生生物。潮位最大域は激しい雷の飛び交う危険域であり普通の生物は棲息できないが、これの通り過ぎた後に浮かぶ死骸を狙って嵐を追って移動する群れや落雷を熱源とする生物がいてもいいだろう。