「無料」も「繰り返し」も問題ではない

制作サイドの心理として、TV放送が無料なのは1回しか見られないという制限があるからだと仮定する。
すると、Webにアップロードされたものを問題視しているのは、それが繰り返し視聴可能だからということになる。
記録メディアを販売することでの繰り返し視聴は許可しているわけだから、有料ならば繰り返しも可であるのは明らかだ。


一方、視聴者サイドの心理として、Webへのアップロードに需要があるのはそれが無料だからではなく(TV放送は無料なのだから、Webが無料であることに価値を見出しているわけではないのは明らかだ)閲覧時期を選べるからだと言えよう。ヴィデオレコーダやHDDレコーダが需要を得たのと同じく、タイムシフトが主な目的というわけだ。また繰り返しの視聴についても、ずっと昔から無償で確保されている。


つまり、実は現行ビジネスモデルは最初から繰り返し視聴まで含めて制限なし状態で成立していたのだ。ただしその恩恵に預かれるのは1回限りの放送を逃さなかった者だけであり、この点だけが事後の記録メディア販売を後押ししていたと言える。流石にそれでは弱いと認識していたのだろう、DVDではしばしば特典映像などが同封されていたわけだが、こういった制作コストをかけないオマケにどの程度の魅力があったのかは怪しいものだ。
しかし、たった1回、30分かそこらの極めて限定された時間帯を逃すと、以降繰り返し視聴どころか視聴そのものが不可能になるというのは大きな格差だ。また番組によってはかなりの地方格差があるものもあり、こうした差を解消するものとしてWebへのアップロードが非常に活躍している点は否定できない。一話完結のものなら兎も角、連作では初回を見逃したが故にシリーズ全部見送られることも珍しくないわけで、タイムシフトはその問題を完全に解消している。


たしかに無断アップロードは権利侵害ではある。が、その実侵害による不利益はほとんど皆無だ:何故なら、昔から慣行的に認可されていた権利がちょっと形を変えただけのものだから。無断アップロードを徹底的に処分したところで、視聴率が上がるわけでもDVD販売数が延びるわけでもない。
その意味では無断アップロードへの風当たりは、単に「自分が持っていると思っていた権利を侵害されたようで腹が立つ」程度の感情論に過ぎない。いや、確かに法的にはその怒りは正しいのだが、事実上意味がないということを冷静に受け入れ、新たな道を模索した方が賢明ではなかろうか。



妥協案としては、自社でサーバを持って視聴回数を制限してのストリーミング配信をするという手もある。たとえば各話につき最初の3回までは無料、以降は従量課金にするとか。月額固定で見放題モデルを作っても良いが、最低限最初の1回は無料配信すべきだろう。見たことのない作品に金を払うユーザは多くない。
自社での運用が困難であれば、ニコニコあたりと組んで仕組みを作る方法もあるだろう。元々あれは課金制度を持っている。プレミアム会員は正規コンテンツ見放題などの特典が付けば入会も増えて双方にメリットがありそうだ。
せめてそれくらいやってから、違法なアップロードに文句を言うべきだ。それならば充分に説得力のある言葉にもなる。現状では、単に自分たちの商売が傾いてきたのを他人の所為に転嫁しているようにしか見えない。