ウィルスと細菌の違い

両者はよく混同される、とりわけ食中毒とウィルス性胃腸炎は症状が酷似していることもあってほとんど区別されていないようだが、機序が異なる以上療法や予防法も異なるわけで、ある程度の基礎知識は必要だろう。

細菌は毒性物質を作る

食中毒の病原は細菌というより、細菌により生成された毒性物質である。
細菌は主に有機物を養分として分解摂取し、副産物を生成する。これが人間に有益な物質であれば発酵、有害ならば腐敗と呼ぶ。
細菌が発酵/腐敗させられるのは基本的に免疫によって防御されていない「死んだ」細胞のみであるから、原則として細菌が直接人体に作用することはない。細菌による炎症などは、表皮の有機物が細菌により腐敗した結果として毒性物質によりダメージを受けるものだ。
食品を腐敗させるのは細菌の仕業であってウィルスによるものではない。また腐敗した食品を加熱しても、殺菌はできるが毒素は残るので意味がない。

ウィルスは人体に直接作用する

ウィルスとは、エネルギー摂取も交配も行なわず、他の細胞の増殖機能を乗っ取り自己増殖するものである。生物のようにDNAもしくはRNAを持つが、それ以外の点では生物らしい特徴を一切持たない。
それ自身はウィルスの設計図を持つ只の入れ物のようなもので、細胞に感染しDNAを書き変えることで、その細胞の増殖機能を利用してウィルスを生産させる。
ウィルスは人体に有害な物質を生成しないが、それ自身が細胞の機能を壊す。
ウィルスは生きた細胞でしか増殖できないが、生食用の食品類により経口感染するものがある。また経口感染性のものであっても糞便や吐瀉物、または咳による飛沫から感染する(事実上の空気感染)場合も多い。
大概のウィルスは加熱することで死滅するので、きちんと加熱調理すれば無害化できる。

抗菌剤と抗ウィルス剤

抗菌剤、所謂抗生物質の類は、菌類の代謝を阻害する化学物質である。菌の増殖を抑え、或いはエネルギー摂取を不可能にして殺菌する。菌種により有効な抗生物質に違いはあるが、一般に広く効力を発揮するのでよく利用される。
抗ウィルス剤はウィルスの増殖を阻害する化学物質だが、その仕組みは特定ウィルスの特定蛋白や特定酵素を狙い射ちするもので、ごく限定的な効果しかない。現在実用化されている抗ウィルス剤は対インフルエンザ、対ヘルペス、対HIVのもののみで、ほとんどのウィルスには対処的な療法しかないのが実情である。