ストーリーテリングとしてのCRPGの限界

最近のコンピュータRPGに感じることだが、話が壮大になればなるほど主人公の存在が浮いてしまうような気がする。


CRPGに於ける主人公とは、プレイヤーと同化する存在だ。ターゲットプレイヤー層に近い没個性的なキャラとして設定され、自らを語らず、その存在を意識されることなくプレイヤー自身として行動する。ちょっと格好良く/可愛く、かつ極めて高いポテンシャルを有しているという違いはあるが、基本的にプレイヤーそのもののアヴァターである。
その主人公は、壮大な物語の中でどのような役割を担うのか。世界を滅ぼすような大事件に立ち向かうだけの動機を持たせねばならないのだが、如何せんこのキャラクターは意志を表明しない。しかしプレイヤー自身には、それほど強い動機がない。別に滅ぶのは自分の世界ではないし。
そうなると自然、キャラクター設定として事件と分かち難い関係性を持つ背景を用意せねばならなくなる-----例えば過去に魔王を封印した伝説の勇者の子孫であるとか。
とりわけ、単純な設定を使い果たしてしまった後では、主人公の出自は複雑なものになりがちだ。世界的な陰謀に巻き込まれるだけの必然性があるドラマティックな出自……しかし、それは周囲の状況や脇役たちの口から匂わされるばかりで、一向に核心が明かされない。何故なら主人公はそのように口を利けないから。
それで演出できることには限界がある。ややもすればプレイヤーに「さっぱり理解できない」と言われてしまうが、逆にそれをはっきり語らせてしまっては、今度はプレイヤーとの同化が解けてしまう。危うい立場だ。


解決策があるとすれば、視点の中心をずらすことぐらいだろう。プレイヤーと主人公の同化を諦め、映画や小説のような視点で物語を俯瞰させるか、或いは主人公を物語の中心から外し、周囲で進行する事件の傍観者に近い立場を取らせるか。
前者の手法が例えば(RPGではないが)フロントミッション オルタナティヴで、一応プレイヤー=主人公であるかのような演出もあるが、ゲームシステムとして「指示して傍観」というスタイルで自動的に進行する構成のため、プレイヤーが主人公と同化することがない。
後者の手法が例えばシルバー事件、主人公は事件の当事者ではあるのだが傍観者であり、進行する事件を眺める立場となる。ゲームの進行は基本的に「事件を進行させるトリガの発見」であって「事件を解決する能力の発動」ではない。


やろうと思えば、主人公との同化をそのままに複雑な出自を持たせ、かつそれをストーリーに絡めることもできなくはない。だがそうすることの苦労は並大抵ではあるまい。例えば年齢、性別、出身地、信仰、職業といったパラメータのみならず半生のイヴェントまでもプレイヤーに決定させ、それに応じた分岐を予め仕込む。行動決定以外の面でもストーリー分岐が発生するため、未使用のまま眠る選択肢も多くなり、かけたコストに比してプレイヤーの楽しめる時間が短かい。
もう少し簡単な解決を図るとすれば、最初のミッションで冒険の動機を仕込む(危険な封印を解いてしまい、かけられた呪いを解くためには再封印するしかない、とか)手法や小シナリオの連続で動機を意識することなくいつの間にか大きな流れに巻き込む、といった方法も考えられる。


まあ、そろそろ壮大なシナリオ路線を捨ててもいいんじゃないか、ということで。神話のように一握りの重要人物がストーリーを紡ぐ時代はもう終わったのだから。