啓蒙対象の階層と方法

アナログゲームの啓蒙については過去に何度も話題になっているが、どうも幾つかの問題が混同されているが故に適切な解決策を見出せずにいる印象があった。ふとその問題点が見えたので指摘しておく。

興味ある未経験者と興味のない未経験者

アナログームを啓蒙したい相手には2種類ある。即ち「現在アナログゲームに興味を持っているが、体験の機会がない故に躊躇している」者と、「アナログゲームの存在自体知らない」者である。市場の厚みなどを考えれば後者へアピールしたいところだが、それには広範なメディア露出など一筋縄では行かない上にファンの奮闘だけではどうしようもない壁がある。まずは前者へのアピールを積極的に展開するべきだろう。
アピールの方法は単純で、初心者へ向けた体験会を開催すれば良い。その告知のための媒体としては、Webサイト開設の他にSNSなど多人数コミュニティでの告知、それに専門誌への掲載程度で充分だろう。興味があれば何らかの情報源へアクセスする筈だし、そうでない層は取り敢えず考えなくて良い。


注意すべきは、この会はあくまで初心者へのサーヴィスを目的としたものであって、経験者同士が固まって遊ぶためのものではないということだ。プレイヤーは原則として全員未経験者であるべきで、信頼のおけるヴェテランが指導的役割を担うのが良い。TRPGであればゲームマスタが、ボードゲーム類であればルール指導/審判的役割として各テーブルに一人。
また、用意するタイトルはなるべく幅広く。「初心者向けの軽いタイトルを各種複数」より「あっさりしたものからややヘヴィなものまで、種類を多く各1」の方が望ましい。選択の余地が多い方が、参加者が自分に合ったタイトルを発見し易く、そこを足掛かりに手を拡げられる。
また、この会自体はあくまで入口であって、そこから先はユーザ自身が見付けられるようにしたい。会への参加は最大でも3回程度。開場には他のサークルや専門誌、専門Webサイトなどの情報を常備、判断基準を得られるようにする。


正直言って、こうした会の運営は結構負担になるだろう。主催側は純然たるサーヴィス要員であって、プレイを楽しめる参加者ではないからだ。それを市井の一ユーザに求めるよりは、メーカ側で仕事として行なった方が適正だと思うのだが、如何せん日本では業界が狭い。ボードゲーム関係はメーカが充実していないので販売店がそれをせねばなるまいし、TRPGでもヴェテランのゲームマスタを集めて定期的にプレイさせるのは結構難しい。有料で年1回の開催はされているのだが、できれば参加費は無料かそれに近い程度、各地主要都市で月1回程度の頻度が望ましい。

情報の掲載

ゲームを理解するには、実際にプレイしてみるのが一番早い。しかし事前情報もなしに5000円からするゲームを購入してみるのは負担が大きいし、周囲にプレイ可能な人員がいない人はテストプレイすら困難だ。
次善の策としては、プレイ風景を交じえた詳細なルール説明という方法もある。ただし詳細に説明しすぎてしまうと、ものによっては買う理由自体がなくなってしまうこともある。まあ大半のゲームは、ルールが判ったところでコンポーネントに含まれる全情報をコピーできるわけではない(大量のカードとか特殊な形状のタイルとか)ので、それほど気にすることもないのだが。


重要なのは、ルールの勘所を丁寧に解説することだ。プレイにあたって最も重視すべきポイントでもあり、魅力でもある箇所。例えばカタンの開拓者であれば重視すべき資源、出目の確率などか*1ブロックスなら敵の妨害とすり抜け。操り人形は前後のカード選択予測、ゲシェンクならカードの数値とコイン枚数のバランス、バトルラインの優位性証明によるフラグ確保、ロイヤルターフの「人気馬=本命馬」という逆転発想などなど。
TRPGで言えば、トーキョーN◎VAの社会的地位まで数値化する抽象性やソード・ワールドの数学的設計と幅広いサポート体勢、迷宮キングダムのシニカルな設定とマスター負担の軽さ、ローズ・トゥ・ロードシリーズの幻想的世界設定とルールがもたらすイマジネーション、バトルテック戦術優位を確保するテクニック、Aの魔法陣の対話による成功判定と成功/失敗以外の状態……あたりか*2TRPGについて言えば、ルール概説だけで面白さを伝えるのは困難に思われるので、良質のリプレイを期待したい。

*1:こうしてみるとカタンはピンポイントな勘所がなくて掴み難いゲームなのだな。なぜあれほど評価が高いのか不思議だ

*2:余談だが、trpg.netのタイトルリストを見て、その數に愕然とした。たったこれだけしかないのか!