前線任務報告書:終わりに

これで一通り決着した。最後に、FRONT MISSION 5thの全体を通しての感想を書いておく。

システム

リンク

どうやら4thから導入されたらしいリンクシステムは非常に巧く機能している。従来のシステムでは攻撃回数の上限が人数に比例していたのに対して、リンクシステム採用後は攻撃回数の上限が人数の二乗に比例することになる。つまり数の差がそれだけ開くということだ。
一対一を基本とする白兵戦では人数差=戦力差だが多対多を基本とする射撃戦では(人数の二乗)差=戦力差となる、ということを言ったのは誰だったか。とまれ、リンクシステムは正確にそれを再現した。
これにより見かけの戦力差=マップ上の総敵数に対する自軍戦力とは別に実質的な戦力差=彼我の小隊構成数から来る攻撃回数の差が生じ、各個撃破戦術の重要性が高まっているのだ。
ただ、4thではあったらしいミサイルに対するEMPバックパック自動リンクによる誘導妨害などは無くなっているなど部分的に退化も見られるのは残念。

誤射

3rd頃までは攻撃機と目標機以外の機体は無視されるシステムだったような気がするが、5thでは射線上に味方機/敵機が存在すると誤射の可能性がある。これを利用して、間に敵を挟むように動くことで一度に2機を攻撃したり反撃リンクで同士討ちを誘発したりといった大胆な運用が可能になり、戦術幅は拡がっている。
惜しむらくは攻撃側小隊/目標側小隊以外の機が一切無視されてしまうことだ。恐らくリンク関係の複雑化(ターゲットではないがダメージを受ける機体の反撃/リンク処理をどうするか)を避けるための仕様なのだろうと考えられるが、明らかに射線上にいる機が無視されるのも妙な話だ。次回はその辺りも含めた深化を期待したい。

改造

パーツの改造は以前からあった要素の筈だが、そちらを良く知らないので比較は避ける。
5thではパーツに「ランク」が設定されており、同じパーツでもランクの差でまったく性能が異なる。これは言わばRPGに於ける「レヴェルアップによる能力成長」に相当するもので、パイロットの能力が実質的に修得スキルにしか現れないシステム上の制約から来る、苦肉の策だと思われる。
だが率直に言って、これは全く不要だろう。
普通、レヴェルアップで能力が成長するゲームでは敵のレヴェルもそれに応じて変化して行くことで均衡が図られている。均衡するということは、相対的な強さが変化しないということでもある。であれば、最初から一切変化しなくても同じことだ。
RPGのように地域の移動に伴って出現する敵の強さが変化するようなシステムでは、わざとより強い敵や弱い敵に当たれる(=敵味方共に強さが変化する)システムは意味があるし、キャラクターの能力が直接表に出るゲームであれば経験に拠る成長という実感は必要だから(実質的には無意味でも)成長システムを否定する気はないが、フロントミッションに於いては兵器性能が「成長」するのは如何にも妙な話だ。
初期型の改良版としてB型C型のようにヴァージョンアップし、性能が変化するというなら納得もしよう。しかし5thの場合、改良型は改良型で(改造の結果の派生型として)存在するが、それとは別に同型のパーツがランクアップして行くのである。この仕様はリアリティを損なうだけで、あまり効果がない。

シミュレーター

機種転換の際の訓練などにシミュレーターを使用するのはリアリティの面からも現実的であるし、取り敢えず変更した武装のリンク獲得程度まで育てねばならないプレイヤー側の都合ともマッチするのでその存在については基本的に肯定的だが、幾つか不満がある。
一つは特定マップクリア時の特典としてのパーツ獲得である。これは明らかにゲーム的な配慮として与えられたボーナスであって、リアリティとの擦り合わせが一切考慮されていない。それはサバイバルシミュレーターでの獲得パーツについても同様である。
サバイバルシミュレーターについてはどうみてもやり込み要素として用意されたものであってリアリティ面の追求が薄いような気がするが、まあ長期戦の訓練とでも考えることにしよう。
アリーナは……まあそれなりに説得力を持って設定されていると言って良いだろう。多分その存在はそもそも1stのコロシアムに端を発するもので、それ自体がちょっとアレな設定なのだが、そこまでほじくり返すときりがないので止めておく。

天候と地形

地形による修正などもかなり単純化されてしまった。地形は命中判定に影響せず、移動の際のペナルティとしてのみ機能する。それ自体もAP1の通常地形とAP3の悪路が存在するのみのようで、あまり意味が感じられない。
ビルなどソリッドな構造物は射線を遮るか通すかの2択のみ。できれば林/森や鉄骨構造物のような、命中率を下げる地形なども欲しかったところだ。
また悪天候や夜間の命中修正/射程修正はなくなった。徒に複雑化するのは意味がないが、闇雲な単純化も歓迎されない。もう少し、これら細かな制限によるマップのヴァリエーションがあっても良かったような気がする。

非WAPの耐久力

WAP以外の戦力はすべてパーツごとに分割された耐久力を持たず、全体として1ゲージが存在するのみである。その結果、部分破壊で戦力を削ぐようなことができず最後の最後まで全機能を残す。
その部分で難易度調整をしているのだろうとは理解するが、どう見てもパーツに分かれている機械なのにシステム上そのように扱われないというのはあまり良いことではない。むしろパーツ分割の上でバランスを保つように設計すべきだ。
航空兵力はどこか破壊されると墜落するので仕方ないとして、戦車レベルでも足周り/車体/砲塔ぐらいの分け方はして欲しい。

AIの行動パターン

基本的にAIは莫迦だ。

  • 現在交戦中の小隊がほぼ全滅する
  • 自小隊機のいずれかが攻撃された

時以外、まず攻撃して来ず見守るばかりなので、非常に各個撃破し易い。
しかしそれはAIの行動パターンとして調整すべきものではなく、むしろマップ設計などで調整されるべきではないだろうか。各小隊が離れて配置されているために駆けつけるまでに時間がかかるとか、既に交戦でダメージを受けているので撃破され易いとか。
どうしても戦闘がパターン化し易いのは残念。メモリーカード持ち寄って対人戦できるようになると面白いと思うのだが。

シナリオ/世界設定

「USNサイドで製作された戦争映画」としては良くできている。ただ、(これはシリーズ全編を通じて言えることだが)RPGとしての拘りなのか話を大きくしすぎる傾向にあり、終盤ちょっとげんなりする。ヒロイックでなくとも、戦争はそれ自体充分にドラマティックだ。もっと地味に、一兵士の戦争を描いても良かったのではないか(それができている点で、やはり最高傑作はオルタナティヴだと言い切っておく)。
「戦争映画としては」という断りは何も字幕を含めた過剰な演出だけを指すのではなく、例えばWAPの登場時期や用途が過去作品の設定と合わないなど、歴史を踏まえた上での矛盾点にも起因する。フロントミッションシリーズはFFなどとは違い過去作品の設定を引き継いで発展する世界の密度/濃度が大きな魅力である。それを無配慮にぶち破ってしまうやり方は、最終的にリアリティを損ない作品全体の評価を貶める原因となりかねない(それを脳内補完で回避するための「戦争映画」扱いでもある)。
公式サイトにも歴史や登場組織/製品など情報が掲載されているが、過去作品を満遍なく研究しているファンサイトなどを見るとどうも各所に矛盾が出ているようだ。同社の他作品を見ていると、ストーリーありきで過去設定を軽視する傾向が社風としてあるのではないかという気がしてしまう(FM世界はコンシューマーゲームとしては類を見ないほど設定にこだわっているゲームではあるのだが)。
一度公式に設定を詰めた上で資料集として発表し、矛盾点をクリアした方がよいのではないだろうか。