蔵書の圧縮及び外部化について

図書館構想について突き詰めると、どうしても最終的に電子ブックに行き着く。
音楽がiTunesiPodによって*1開いた新たな世界に、書物も到達したいと考えるのはごく自然な事だ。しかし早くからデジタルデータ化されていた音楽と違い、書物は成立時期から今日に至るまで殆ど変化ないアナログメディアに縛られている。
電子化の試みそのものは20年ほど前からあるが、これまで広がりを見せる事はなかった。


その原因の一つは再生環境が整わない事だ。
自発光またはバックライトを基本とするディスプレイは刺激が強く長時間の閲覧には不向きだし、反射型液晶はコントラストが低く読み難い。それに、余程解像度が高くないと、文字や画像を自然に表示する事はできない。紙の印刷物と同程度のクオリティを実現しようと思えば、最低でも300dpi程度は必要だろう。
また、これまで作られた電子ブックはいずれも反応速度に難があったようだ。ページを捲るのと同様の気軽でストレスのない画面切り替えが実現しなければ、利用される事はないだろう。
更に言えば、電子ブックはどうしても大きく重くなる。文庫サイズにできないわけではないが、文字数が調整できる文章の場合は兎も角、漫画や写真集などページレイアウトが固定されるコンテンツでは画面全体を縮小せざるを得ず、必然的に超高解像度ディスプレイが要求されるのでコストが上がる。また応用範囲が狭くなってしまう。将来的には幾つかの企画が成立する可能性もあると思うが、電子ブック/コンテンツが充実していない現状では仕方あるまい。
しかし、これらの欠点は解消されつつある。反射型でコントラストが高く、また表示の維持に電力を必要としないペーパーディスプレイが開発され、コントラスト問題とバッテリサイズを解消した。まだプロトタイプの域を出ない感はあるが、それも数年で解消するだろう。
となると、次なる問題はコンテンツである。


音楽のデジタルアーカイヴ化が進んだのは、デジタルデータが既に普及していたからだ。1981年のCD開発以降、音楽は既にほぼ全部がデジタル化されており、ただパソコンに取り込んでアーカイヴ化されるのを待っていたに過ぎない。だからこそMP3は蔓延したし、その勢いに押されてハードウェアが広まったからこそ音楽ファイルのダウンロード販売という事業も成立した。
しかし、すべてがアナログである書籍はそうも行かない。個人が自宅でできるのはせいぜい本をスキャナで取り込む事位だが、それはとても手軽と言える作業ではないし、それではすべてを画像として処理するしかない*2。デジタルアーカイヴの真価は文字としてデータ化されてこそ発揮されるものであり、これではとても普及しそうにない。
普及のためには「コンテンツ先にありき」である。今からでも、すべての出版物にデジタルデータを用意し、RFIDでも用いて出版物の購入者がいつでもデータを入手できるようにしておくべきだ。当初は恐らく殆ど利用される事もなく、作業と管理のコストばかりが先行するだろう。しかしそれは必要な先行投資である。目先の出費(そう大した費用でもあるまい)を渋っていては未来は開けない。


書籍データが印刷書籍と同程度に出回った頃には、図書館の未来は全く様変わりしているだろう。データであれば1冊分で何人でも読めるから、順番待ちもないし複本も要らない。代わりに、一定期間でデータ消失するようなDRMが必要になる。
リクエストも簡単になる。図書館同士がネットワークし、本を共有するから他館借り入れも一瞬である。
それどころか、本の分類自体が劇的に変化する。これまでのようにジャンル>作者のようなツリー分類は必要ない。出版社でも作者でも出版時期でも、メタデータの付与で幾らでも検索可能である。図書館が分類するというより書籍データそのものに予め出版側でメタデータを埋め込んでおくようなシステムになるだろうか。
近刊であれば、もう図書館に足を運ぶ必要すら無い。インターネット経由でデータをダウンロードしてくるだけだ。図書館の主要な機能はデータサーバーの管理と、データ化されていない旧世代書籍の保存、あるいはそれらのデジタル化(この辺は出版権の絡みも出てくるところだが)に変化する。
そして一般家庭からは本棚が姿を消し、印刷されて出回るのはマニア向けの限定出版物や高精細の写真集/画集のような「眺める」本、あるいは紙質や仕掛けを楽しむような類いのものに限定されて行くだろう。書店は一部の専門店を除いて成立しない。残るのは高価な出版物を扱う高級店と、旧世代の書籍を扱う古書店だけだ。


……どことなくDAIHONYA (アスキーコミックス)っぽくなってきたような。

*1:これ以前にもデジタルアーカイヴは存在したしポータブルプレイヤーも存在したが、それを敷衍したのがこの二つであった事は疑いようもない

*2:OCRで文字化する事は可能だが、残念ながら自動化するには読み取り精度に難がある