錯覚

奇怪な建物を見た。
地上高数十メートルの位置に浮かぶ横長の、錆びついた重厚な鉄の箱。その一方の端からは細い鉄柱に囲まれた階段が地面まで延びる。
そんな華奢でアンバランスな構造では上の箱が支えられよう筈もない、にも関わらずそれはしっかりと立っているのだ。


……何のことはない、暗褐色のビルの手前にあった白いビルを空と見間違っただけの話であった。鉄に思えたのは色のせいで、実際にはコンクリートだろうが、錯覚が見せた幻想は危うさと威圧感に溢れ、実に魅力的であった。