沖縄へ行こう:初日〜2日目(北部編)

当日:空港〜国際通り周辺

出発の前々日に元首相暗殺事件でヴァカンス気分が吹っ飛んでしまった……だからなんなのこのタイミングの悪さ(無論、事件に「良い」タイミングなどないのだが)。
とはいえ容疑者は逮捕されており、同様の犯行が続く気遣いはない。べつに航空便がなくなったわけでなし、今更スケジュール変更もできないので、気にしないのが一番だ。投票は事前に済ませているのだし。

2時間ぐらい余裕を持って出るつもりが直前に対応せざるを得ない案件が飛び込んできたため、思ったよりギリギリに。空港内でもターミナルまでバス移動が発生し、だいぶ慌ただしい出発となってしまった。

昼過ぎの便で羽田を発ち那覇へ。

那覇空港からはゆいレール安里駅へ向かう。

沖縄唯一の固定軌条交通機関であるゆいレールは2輛編成のかわいいモノレールであった(現在、3輛化に向け駅工事中)。駅間も空港〜次駅以外は1km以内と非常に短かく、どうやらこれは鉄道というより「渋滞しない、定刻で運行されるバス」的な存在なのだということがわかってくる。

Hotel AZATは駅の目の前(この写真には写っていない)。道の反対側には24時間スーパー「リウボウ」もあるのだが、生憎と店内改装のため休業中だった。


飛び抜けて優れたホテルというわけではないが、観光の拠点地として必要十分なサービスを備えている。
駐車場のある地階にはコインランドリーがあって毎日洗濯ができ(洗濯は1回300円、ガス乾燥機は10分あたり100円。洗剤も含め1回の利用で二人分につき700円程度)、大浴場はないが各室のユニットバスで体を洗うことはできる。
ひとまずチェックインを済ませ荷物を置いた後、夕食も兼ねて国際通りへ向かってみる。



建物がいちいち楽しく、撮りながら歩いていたら通りの中程で平和通り商店街に吸い込まれた。


Kaisouさんという2軒並びのブティックはオリジナルデザインのシャツや貝殻を加工したアクセサリなどを販売しており、デザインが素敵だったのでTシャツなど購入。


その勢いでアーケードを制覇して歩く。金沢で1日目に街を撮るのにハッスルしすぎた教訓とはなんだったのか。





途中で見付けた古い沖縄屋根 雑貨店「じーさーかす」さんでは昭和中期のおもちゃやガラス器などのほか、沖縄米軍統治時代の切手など紙ものも充実。紙好きの愛妻が舞い上がって山ほど買い込んでいた。

浮島通りから国際通りへ戻る頃にはすっかり日も暮れ、適当な居酒屋でとりあえず飯。



2日目:美ら海水族館

「ここだけは絶対行きたい」場所は先に行っておくに限る、ということで2日目を美ら海水族館に当てることに。世界最大規模の大水槽で名高い、沖縄でも有数の観光スポットである。
旭橋駅那覇バスターミナルから1時間に1本ぐらいの割合で出ている高速バス117系統で2時間ほど。8時半から開館なので、最速なら7:10の 便で9:13着、と意気込んでターミナルへ向かったところ「高速バスのチケット販売所は7:30始業」とのことで前日に買っておかないと始発は間に合わないのだった……
仕方なくファミリーマートで朝食を買い待合室で次の便を待つ。

バスを下りるとすぐ海洋博公園である。
https://oki-park.jp/kaiyohaku/
門から真っ直ぐ開けた先には伊江島が見える。

ここは沖縄返還後すぐに日本本土復帰記念事業として行なわれたExpo'75沖縄国際海洋博覧会の会場だった場所で、とにかく広い。水族館だけでなく海洋文化館や3つの植物園、エメラルドビーチなど、ここを回るだけでも3日ぐらいは必要になりそうな規模だ。

園内のあちこちには日除けを兼ねて大きく枝を広げた植物が植えられており、思わず寄り道してしまってなかなか水族館に辿り着かない。


水族館の入口はコンクリート打ちっ放しの、神殿を思わせるような建物だった。


高台にあって、眼下には沖縄の海が一望できる。

入館すると、まずは日光の射し込む明るい水槽。ここから、大きな水槽のまわりを巡りながら複数の様相を見つつ進んでゆく。



沖縄の海には様々な生物が棲息し、危険なものも少なくない。ここでは模型を用い、光によって危険部位を見せていた。

個別の水槽も楽しい。






そして一番の目玉、大水槽。





水槽の隣はレストランになっており、悠然と泳ぐ魚たちを見ながら食事ができる。

ソーダ味のソフトにアラザンを散らした「じんたソフト」。


大水槽の先はほどなく出口。すごい水族館ではあったけど大型水槽以外の展示は思ったより控え目かな……とか思いながら館を出たら、その先にとんでもないものが待っていた。




メガマウスリュウグウノツカイなどアカマンボウ目の大型魚、ウバザメの液浸標本である。
クジラ類の全身骨格やホオジロザメもある。


超広角があったから収められたが、なかったら危なかった。

更には別棟で亀やジュゴンなどの展示も。

そして海。
水族館を出て右手にはエメラルドビーチがあり、そちらでは海水浴も可能だが、暑くて遠出はしたくなかったのでジュゴン館そばの浜で水辺を撮影してきた。





「浜の真砂」はみんな珊瑚や貝殻なのだった。

帰りのバスは最終が17:30頃。まだ時間はたっぷりあったが暑さに堪えかねたので、明日以降に体力を温存するために諦めて戻る。本当は植物園も海洋文化館も行きたかった……次また沖縄に来ることがあればこの近くに宿泊しよう。

高速バスで県庁前に戻る。
黒川紀章設計の庁舎はコンクリート造りの細かい桟に覆われた真っ白な建物で、沖縄に特徴的なコンクリート住宅の「花ブロック」を意識しているのだろうか。

沖縄の特徴的な家屋といえば漆喰で硬めた赤土瓦に覆われた傾斜の緩い四方下がりの屋根を持つ低い平屋だが、戦後の建物はほぼコンクリート造りで穴の空いたブロックを用いて柵や採光窓が作られている。本州などでも昭和中期の建物ではしばしば見られた手法ではあるが、沖縄は現代でも一般的に広く用いられ、専用のブロックが製造されているそうだ。
沖縄は珊瑚礁などから成る石灰岩が多くコンクリート製造も盛んで、それが戦後の住宅様式にも影響しているのかも知れない。

大通りの入口に立つシーサー。

沖縄に来る前は、シーサーといえば「狛犬」のようなもの、程度の認識しかなかったのだが、実際にはもっと身近な「魔除け」の風習であるようで、ほぼあらゆる入口には、それこそ民家の門や扉からコンビニの入口、駅の改札に至るまでシーサーが睨みを利かせている。

国際通りの脇で見掛けたモッズ。1960年前後にイギリスの若者に流行ったという、スクーターを多数のサイドミラーやライトなどで飾り立てるスタイルだが、非常にセンス良くまとまっている。

沖縄へ行こう:準備編

会社の勤続記念でもらった旅行券では金沢に行ったのだが、この時は土日を含め3日間の行程だったので有給を1日取ったのみで、同時にもらった「連続1週間の休暇」の方が浮いてしまった。これは特別な休暇であり1年で失効するので、期限内に絶対使ってくれと労組から言われており、じゃあちょっと遠いところに観光に行こうかということになった。
本当なら海外に行きたいところだったが、生憎とコロナ禍で最大2週間ほどの隔離を強いられる状況では現実的でない。思えば結婚したときにも、休暇と旅行券もらったので海外に行こうかと思ったらアメリカ同時多発テロ事件でちょっと飛行機旅行どころではない感じになってしまったのだった……なんなのこの間の悪さ。
さておき、ならば国内旅行で普段あまり行けない距離、ということで沖縄へ行ってみようということになった。

日程を決める

早いに越したことはあるまい。
なにしろ未だコロナ禍ではある。ワクチンも普及して一時期ほどの脅威感はなくなっているとはいえ、また新たな変異種が増加しつつあるようで次の大きな波がいつ来ても不思議ではなく、情勢が落ち着いており動ける状況のうちに動いておくべきだろうと思われる。ついでに言えば夏休みが近づくと料金も跳ね上がるので、オフシーズンを狙いたい。
月初と月末は仕事の都合で休みにくいので、月中の二週間を想定。

予定を立て始めた5月後半時点では、沖縄は梅雨真っ盛りであった(だからオフシーズンなのだが)。雨そのものは嫌いではないが、観光では傘で手の塞がる状態はあまり嬉しくないし、どうせなら真っ青な夏の海を撮りたい。
その上、5月末に那覇で大雨による洪水が発生。すると6月の半ばではまだ被害から復旧しつつあるあたりと思われ、観光にはどうにもタイミングが悪い。そういえば結婚前、はじめて二人で旅行しようかと計画していたときにも予定先の名古屋で洪水が……なんかそういう運命でも引き当てたのか。
そうすると梅雨が明ける6月下旬以降にした方がなにかと良さそう、ということで7月の第二週に計画を延期したところ、梅雨はさっさと明けて台風シーズンに突入してしまった。幸いにして台風は初週のうちに抜けてくれたので、飛行機が飛ばないとか着いても部屋から出られないといった事態にはならずに済んだが。

旅行代理店を比較する

知らない場所への旅行にあたっては、ツアーパックを利用するのが最も手軽ではある。旅券に宿の手配、現地の主要な観光地までの移動手段。ガイドされるままに動くだけでそこそこ満喫できる仕組みだ。
ただ、過去の経験から、時間単位で行動が決められているツアーパックはあまり自分たちに合わないことがわかっている。だいたい興味ある場所では圧倒的に時間が足りず、そうでない場所では時間を持て余すことになるので、「現地へ移動してあとは自由行動」な方が都合がいい。

というわけで旅行代理店各社で「航空券+宿泊」のみのプランを検索してゆく。
いくつかの旅行会社を見てみたところ、サイト構成が似通っているところが多い。恐らくは独自構築ではなく、旅行代理店向けのシステムが販売されているということだろう。
そうした会社は旅行プランについても提携先が少なめで、あまり選択の余地がないところが多い。「特定会社の旅行券を使う」などの目的(金沢の時がそうだった)でない限りは、大手に頼った方が何かと良さそうだ。

楽天トラベルは流石に自社製で、ホテルの一覧を「地図上に表示」する機能を持っているのは良い。ただ施設写真などはごく少数で、代わりに情報の少なさを補うためか動画で掲載が可能になっている。正直そう見やすいわけではない。

サイトの出来が一番良いのはJTB、流石は元国策会社だけあってシステム構築にもちゃんと金がかかっている。
出発日と帰着日を同じカレンダー上でクリックするだけで指定可能で、便の選択画面下に表示されるホテル一覧には多数の写真が掲載されて雰囲気も掴みやすく、「駅から徒歩5分以内」「夜景が見える」「温泉の泉質効能」など多彩な条件で絞り込めるのは流石(マップ上へのホテル一覧表示も可能だが、動作が重いのでオススメしない)。掲載件数も多く、ここ一社でほぼ用が済んでしまう感がある。
ただ料金は全体にやや高め。JTBで申し込むとホテルで特別なサービスが付いたり空港で専用ラウンジが利用できたりするらしいので割高なりのお得もあるようだが、今回のように素泊まりでの申し込みだとそのあたりはあまり効いて来ない。
また料金表示が総額ではなく「1名あたり」となっているので、他社との比較の際には注意を要する。

HISのサイトも基本的に出来が良く、必要な情報がよく纏まっている……のだが、微妙に「行き届かない」感がある。たとえば一覧画面からホテルを選択すると「プランが見付かりません」と出てしまう(「このホテルのプラン:n件」をクリックするとプランが出てくるのに)とか、写真の解像度が妙に低いとか、「もうちょっとメンテナンスをしっかり」と言いたくなる。
その代わりというべきか、JTBに比して1〜2割ぐらい安い。

一休.comなど、「宿」をメインとした旅行サイトもある。魅力的な宿ばかりであり、思い切ってリゾートを満喫するなら良いのだが、今回は宿より観光に重きを置くので需要と噛み合わない。

ホテルを選定する

沖縄はシーサイドリゾート地なので、ラグジュアリーな感じのリゾートホテルはだいたい海近くにある。空港のある那覇市とて海に面してはいるが、シーサイドのホテルはいずれも中心街からはやや離れた位置となりリムジンバスで送迎という感じになる。
そういうホテルの内装などを楽しみたいという思いもないではなかったが、我々はあまり泳ぎに興味がない。海を撮りに行くぐらいはしようと思っているが、積極的にオーシャンビューを求める必要もない気はする。
むしろ街中観光をメインに据える場合、ホテルは寝泊まりの場所と割り切って交通アクセスの良いホテルを当たった方が、何かと楽そうだ。

沖縄旅行で一番の懸念といえば交通である。旅行代理店のプランでは当然のように「レンタカー付き」が選べるわけだが、なにしろ我々夫婦は運転免許を持っていないので、「何をするにも車で移動」は困る。
しかし2003年に沖縄初の鉄道(と呼んで良いのかどうかはわからないが固定軌道旅客交通手段ではある)、「ゆいレール」が開通。 これで沖縄旅行もばっちり!……と思ったらゆいレール沖縄本島南西部の北側、つまり那覇市周辺しかカバーしてないようだ。
まあ未知の土地テラ・インコグニタなのでその範囲でもそれなりに楽しめるとは思うが、滅多に来れない場所であるからには心残りなきよう多くのスポットを巡りたくもなる。すると流石にゆいレールのみでは対応し切れまい。
当然ながら鉄道が未発達なぶんだけバス網が発達しており、少なくとも南西部地域の主要観光地はだいたい対応できるはずだ。どうやら本島北端地域を除けば、1日3000円でゆいレール・バス乗り放題券が利用できるらしい。
とはいえ「観光地までの交通に都合良いバス停が近い」かどうかを絞り込むのはちょっと大変なので、とりあえずゆいレールの各駅はそれなりにバスとのアクセスが良いだろうと推測し、細かい条件で絞り込めるJTBのサイト上で「駅から5分以内」のホテルをピックアップし、金額と設備のバランスを考慮しつつ「HOTEL AZAT」を選定。ゆいレール安里駅の斜向かいという近さで、これなら空港からの往復で荷物を抱えた状態でも、あるいは観光で疲れた足でも楽にたどり着けるだろう。

後からバスルートを調べたところ、主要なバスはだいたい旭橋駅前の「那覇バスターミナル」からの発着であるらしく、そちらに近いところの方が便利ではあったか知れない(その分宿泊費用も高いのだが)。まあ安里から旭橋まではわずか4駅なので大した違いはあるまい。

旅行の準備

沖縄の日差しは強烈だと聞く。現住な日焼け対策が必須で、暑いからといって半袖など以ての外だそうだ。というわけで白を基調としたUVカットの長袖を用意したい。汗もかくだろうから速乾性のもの、それでいてアウターとして着用可能なもの、ということでスポーツ用のドライメッシュTシャツと、上に羽織る白の長袖を用意。また折り畳みの日傘も準備する。
荷物はなるべく少なくしたいので、服は2日分。大抵のホテルにはランドリーがあるので、替えがあれば用が足りるはずだ。
泳ぐつもりはないので水着は持って行かないが、足を水に浸すぐらいはするかも知れないのでサンダルで行こうか。

暑さ対策

沖縄の気温は関東より低いというが、それは必ずしも「涼しい」ことを意味しない。日中の気温は30℃を越えているし、湿度も高めで、なにより日射しの熱量が高いので体感気温は決して低くはないはずだ。その中を出歩こうというのだから対策には念を入れたい。
飲料は現地調達でいいとして、体を冷やすためにPCMネッククーラーを導入。「猫舌のためのマグ」などで知られるようになった、「長時間一定温度をキープする」素材で、ひんやりする程度の温度を保ってくれる首輪である。

カメラ

夫婦とも写真が趣味なので、観光では撮影も大きな目的のひとつである。
旅行先へはそうたくさんレンズを持っては行けないし、過去に色々試した結果として付け替えの間にチャンスを逃しやすいので、なるべく汎用に使えるレンズで行った方が何かと良いことがわかっている。
妻のレンズは広角から中望遠、寄りの写真まで1本でこなす汎用レンズM.ZUIKO 12-40mm F2.8 PROなので付け替えの必要はないが、自分用にはそれに準じたレンズを持ち合わせていない。最近は標準と望遠のちょうど中間域にあたる程良い画角で立体的なボケがつくれ、寄りも充分にこなせる7artisans 35mm F0.95をメインに使っているが、流石に沖縄となれば広く撮りたい場面が多かろうと思われ、今回は思い切って新発売のLEICA SUMMILUX 9mm F1.7を導入してみた。
また、星空が撮れることを期待して軽量な小型三脚とソフトフィルターを用意。役立つといいが。

バッグ

観光中はなるべく身軽でいたい。
着替えと充電器、マスクなど消耗品は大きめのバッグに詰めて持ち込みホテルに置いてゆくとして、最低限持ち歩く荷物はカメラ+レンズ、iPad、財布、晴雨兼用の折り畳み傘、タオルハンカチ、ポケットティッシュ程度か。これらはいつも使っているショルダーバッグに入れる。
新たに導入した超広角レンズが画角の関係でフィルタ重ね付けできないため都度付け替えが必須で、また中望遠の方はセンサ焼けを防ぐためにレンズキャップが欠かせないので、それらを収納するために小さなポーチを追加。

観光先を調べる

いつものように鉄道駅起点ではなく路線バスでの移動がメインとなるので、行きたい場所へのアクセスは予め調べておいた方が良さそうだ。
というわけでガイドブックなどを参考に行ってみたい場所を拾い出す。メジャーどころだけあってあらゆる旅行ガイドブックから沖縄本が出ているので書店で見比べ、情報のバランスが良さそうだったJTB出版の「ソロタビ」を選出。一人で気軽な一泊二日からのプランを紹介、コンパクトながら必要な情報が読みやすくセンス良くまとまっている。

予めバスマップ沖縄から目的地までのバス路線と時刻表を調べ、独自の観光マップをまとめておいた(のだがうっかり持ってくるのを忘れた。まあ調べたことで頭に入っているので無駄ではないが)。

宿泊地域が那覇中心街、国際通り東エリアなので、主な行動範囲は本島南部〜中部エリアということになるだろう。
ただ、がっちりしたプランは組まない。どうせ当日の気分次第で予定など変わるので、あくまで「行ってみたい場所への行き方」程度に留める。

旅に軽量ミニ三脚を

旅行用の三脚を考える。
日帰りや一泊程度の短い旅行であれば三脚なんか必要ない。撮れる範囲で撮れば十分だ。けれど纏まった休暇を得てしっかり旅行するならば、なるべく多くを撮れるようにしたい。もちろん携行するレンズも限られるから本腰入れた撮影は無理でも、三脚のひとつぐらいはあったほうが良いのではないか。
夜景などの撮影用に軽量な伸縮式三脚は用意してあるが、これはあくまで三脚を使った撮影を目的として行動するときのためのものである。比較的小型軽量とはいえ、なるべく身軽にしたい旅行で携行することを前提としてはいない。
旅行用の三脚には、旅先で負担にならないサイズと重量に収まることが求められる。脚は伸びなくていい、カメラを手放しで安定させられれば十分だ。ただ、できれば雲台は自由の利くボールマウント、カメラとの接続は手軽なクイックシューにしたい。

実は、一台でそれをすべて備えた商品が既にある。

ULANZI MT-46

自重
335g
耐荷重
1kg
雲台
ボール
価格
4939円

アルカスイス互換のクイックシュー、ボール雲台を備えた三段伸縮式のミニ三脚。ポールを伸ばせば高さ32.5cmになり、脚を畳んだ状態ではグリップとして自撮り棒などに使える。

これで十分といえば十分だが、もう少し軽くすることは可能だろうか。できれば1万円を超えない範囲で済ませたい。

三脚

まずは軽い三脚を物色する。
以前に軽量三脚を探したときにも実感したが、三脚の重さは安定性とも直結しているので闇雲に軽くすればいいというわけでもない。とはいえ伸縮式の三脚とは異なり低い位置で使うものなら、重心がそう高い位置には来ないので軽くてもそれほど安定性が悪くはないはずだ。
どちらかというと耐荷重のほうが問題になってくる。超軽量の三脚はそもそもポケットサイズのコンデジやアクションカメラ、スマートフォンなどを想定していることが多く、1kg前後のカメラを支える性能がない場合もある。

DJI pocket2 micro tripod

自重
27g
耐荷重
250g?
雲台
なし
価格
3019円

細い金属の脚が開くだけの単純な機構であり、角度調節も何もない。その分だけ軽さとコンパクトさは飛び抜けており、全長わずか7cm、重量27gだという。
ただこれ、耐荷重がわからない。そもそもDJIのジンバルカメラに付属する超小型三脚であり、120gぐらいの小さなものを支える前提であってミラーレスを想定したつくりではないと考えるべきだろう。実際、脚の長さは5cmほどしかないので支えられる範囲も高が知れている。
類似した商品でJOBYのマイクロトライポッド https://amzn.to/3mo0Y9L というものもあるが、これも耐荷重250gということになっており、これもさほど違いはなさそうだ。
とりあえず今回の候補からは外す。

Manfrotto PIXI mini

自重
190g
耐荷重
1kg
雲台
ボール
価格
2864円

ミニ三脚の代表格。球の下に長楕円形の脚が突き出た見た目はちょっとタコっぽいが、要するにボール雲台とグリップを兼ねる脚を最小限にまとめたデザインである。
わずか190gと破格の軽さで、しかも耐荷重1kgと観光時のカメラ/レンズ構成なら十分支えられるだろうスペック。クイックシューはないが、本命といって良いだろう。

ゴリラポッド

自重
197g
耐荷重
1kg
価格
4140円
雲台
ボール雲台付属

言わずと知れたフレキシブル三脚の代表格。脚が曲がるため全長を縮めて収納することも可能で、柵などに巻き付けて固定することもできるので柔軟な運用が可能。反面、安定的に水平を確保するようなことはあまり得意でない。
耐荷重の違いでいくつか種類があるが、これは1kg程度を支えられるもの。

CHIHEISENN

自重
210g
耐荷重
2.5kg?
雲台
ボール
価格
1499円

商品名不詳。マンフロットPIXIのデッドコピーのようだが脚部が伸縮式となっている。耐荷重2.5kgとあるがちょっと信用しにくい……まあ1kgぐらいまでなら大丈夫なのかな……

Velbon M32 mini

自重
218g
耐荷重
1kg
雲台
ボール
価格
2374円

ミニ三脚にありがちな「カメラグリップとしての利用」を想定していないオーソドックスな三脚デザインだが、脚は伸縮しない。マンフロットPIXI miniの方が軽くてコンパクトなので、2割ぐらい安いことぐらいしか利点がない。

Koolehaoda MT-02

自重
360g
耐荷重
10kg
雲台
なし
価格
3980円

全長23cmほどのコンパクトな三段伸縮三脚。ローアングル対応と耐荷重は頼もしいが、雲台を付けると500g近くになってしまうこと、また脚を伸ばしても高さ33cmほどに過ぎず、いささか半端の感は否めない。大型のカメラ/レンズを運用しつつ大型の三脚を使わず軽量化したいときには有効か。

SWFOTO T1A12

自重
387g
耐荷重
5kg
雲台
ボール
価格
7200円

SmallRigのミニ三脚あたりのコピーという感じだろうか。URANZIのMT-46と比較すると高価で重く優位性はないが、SmallRigなどのしっかりしたミニ三脚よりはだいぶ軽い。雲台が水平回転可能で目盛付きなので、水平に振る撮影を想定するならば意義がある。

SLIK MEMOIRE T2

自重
125g
耐荷重
2kg
雲台
なし
価格
2255円

シンプルにただ水平近くまで開くだけのローアングル専用三脚。安価軽量な割に耐荷重が高く、軽量構成には最適だが、雲台もないため価格競争力の点では一歩及ばない。

VANGUARD VESTA TT1

自重
156g
耐荷重
2kg
雲台
ボール
価格
3423円

グリップにもなるローアングル三脚。軽量でボール雲台も付いており、耐荷重も2kgと申し分ない。クイックシューを含めてもURANZI MT-46より少し高い程度に収まるだろう。
Manfrotto PIXI miniと並ぶ本命。

雲台

カメラの向きを変更するための雲台が備わっていない三脚もあるので、軽量な雲台を探しておく。

SLIK SBH-61

自重
48g
耐荷重
1kg
価格
2355円

軽量なボール雲台。耐荷重がもうちょっと欲しいところかも知れないが、これ以上となると(主張の怪しい中国製以外では)どうしても重量が嵩む。

クイックシュー

三脚へカメラを取り付けるために雲台に備わったネジを使うと、つけ外しにちょっと手間がかかる。クイックシューは予め雲台側に台座を、カメラ側にプレートを、ネジ止めしておくことで瞬時に脱着が可能なようにしてくれるアイテムだ。
台形のプレートをネジで挟み込んで止める「アルカスイス」方式がデファクトスタンダードになっているが、これだと「下からネジで止める」代わりに「左右から止める」だけなのでイマイチ着脱が早くない。そこで最近はボタンやレバーひとつで着脱可能なジョイントが作られている。

ULANZI F38

MT-46にも付いているクイックシュー。アルカスイス型準拠のプレートにワンタッチ着脱の構造が追加されたもので、アルカスイス式のクランプを持つ製品に対応しつつF38の台座であれば瞬時の着脱ができる。汎用性を重視するならばこれが良さそうだ。

SmallRig Hawklock3513

小さなプレート下部に爪を持った円柱状の突起があり、これを台座がしっかり挟み込んで止める形式。安定性が高いが、突出部が2cmぐらいあるので若干気になる。

ULANZI F22

非常にコンパクトなクイックシュー。アルカスイス型のF38を小型化したような構造で、前後にスライドして固定する。SmallRigのものと違ってカメラ側のプレートが薄いので邪魔になりにくい。

ULANZI Claw

こちらもULANZIの小型クイックシュー。なぜ複数の規格を作ったのかは謎だが、こちらはF22と違って上から嵌め込む形。リリースボタンをスライドすることでロック可能。

Vlogger クイックリリースクラン

他社のものより台座・プレートともに薄く軽量だが、なぜか台座後端にプレート上端より飛び出た部分があるため取り付け位置によってはカメラ底面と干渉しそうな気がする。

塔の諸島の糸織り乙女

ずっと書籍化されるべきだと思っていた作品がとうとう書籍化されたので紹介する。
kakuyomu.jp

渡来みずね「塔の諸島の糸織り乙女」は、王国辺境の離島で(このあたりではそこそこ裕福な)仕立て屋の子供として生まれてきた少女が、のほほんと数奇な運命に巻き込まれてゆく、のんびりスローライフ転生ファンタジーである。

物語は主人公スサーナさんが6歳にして前世の記憶をなんとなく思い出したりするあたりから始まる。
おおおこれが異世界転生……と早速知識チートなどを試みるものの、この世界はこの世界なりにちゃんと技術文化が発達しており大抵のものは既にあるか、あるいは見当らぬものは環境に合わないから発達しなかった感じであり、ぜんぜんチートできない。
けれど実はチートは転生ではないところにあって──

どうやらこの世界に於いて魔法の権能を振るう血筋である「鳥の民」の血を引くらしい彼女は、そうと知らずに彼らの使う「糸の魔法」を発動させてしまう……のだが、だからといって魔法の力で無双するようになるわけでもなければ、逆に魔法の使い手であることがバレて周囲の扱いが激変するというわけでもない。
相変わらずのほほんとお人好しな彼女は、主に頼みを断り切れなかったり見捨てられなかったりで色々な面倒ごとに巻き込まれ、そのたびに少しづつ人脈を広げ、その立場を変動させてゆくことになる。

……スサーナさんに本当にチートな能力があるとすれば、その天性の人たらし能力かも知れない。

客観的に見れば美少女と言って差し支えない容姿で、その上によく気が回り温和な性格、しかも理知的(まあこれは前世の記憶というアドヴァンテージもあるにせよ)と、好かれるに十分な要素を備えている。ついでに仕立屋の家で修行を積んできたので裁縫ごとも得意で、また食いしん坊な(というか時折迫り来る前世味覚への希求がある)ので調理にも積極的、いわゆる「家庭的な女性」像との一致度も高め。
しかし当人は「この世界では忌まれる」黒髪であることや自身の出生、それ以上に幸福だったとはいえない前世の影響から自身の価値を低く見詰もる傾向があり、それゆえ他人からの好意には極めて鈍い。
……まあ記憶だけは成人であるため、同世代の子を歳相応の相手と見るのは難しいという面もあるのだろうけど。

そういうわけで彼女には複数のハイスペック男の子たちが密かに恋情を寄せている。だけどそれで甘酸っぱい雰囲気になるかというと……彼らの気持ちにはまったく気付かない彼女はそれを単なる親切、もしくは自分以外への情と考えており、みんな「仲の良いお友達」としか思っていない。そのすれ違いぶりにあらあらうふふするのがひとつの楽しさである。

なおスサーナ自身の好意とベクトルがきちんと向き合っているたぶん唯一の男性は、この世界で畏怖の対象とされる長命種「魔術師」の一人にして、彼らを束ねる十二塔の一人、医療を修める「第三塔」の主なのだが、これはこれで「世話の焼ける幼子/家族以外の安心できる保護者」ぐらいの感覚であって恋情とは程遠い。
こちらは冷静で超有能な「保護者」とその庇護下にある小動物の如き幼子、という組み合わせで、これはこれでにっこりできる。



人間関係だけではなく、この世界に対する描写の豊かさも、本作の魅力のひとつだ。

塔の諸島では島の周りの海が雲を呼ぶために初夏になると雨が増える。
 さあっと雨が降っているのを眺めながら、スサーナは中庭を囲む回廊をてちてちと歩いていた。

 中庭に植えられた植物たちは気合を入れてわさわさと成長し、ささやかな林めいて空を遮りだしている。雨の粒が葉を打つ音がちょっとした楽器のようだ。

春と夏の合間、一番気候のいい時期のよく晴れた昼、戸外のあずまや。
 梁に絡むオールドローズは今や満開に花を咲かせ、まるで甘い香りの飛沫を立てる白い清楚な花の滝のようだった。

 木製のベンチに厚くクッションと絨毯を敷いて、白い石の丸テーブルを囲んで上品に座った少女たちが五人。
 彼女らの前にはそれぞれ茶がサーブされ、繊細な白い皿の上にはそれぞれ薄く上品な形にこしらえた、生ハムと塩気のある硬いクリームを挟んだ薄切りの発酵パン。

こんな風に情感たっぷりに描写されてゆく。ちょっと海外の児童文学めいた趣きさえ感じるが、明るい場面だけではなく、時には海賊市のような些か薄暗い社会なども描かれ、楽しい島暮らしだけでは終わらない可能性も示唆される。

特に、しばしばチート可能性を探るスサーナさんの視線は、この世界の文化、とりわけ家業の服飾や当人の興味が強い料理を重点的に描写する傾向がある。
たとえば……

 ほにゃんと顔が緩んでしまう。さくさくとした糖衣の中にたっぷりの果汁がじゅわっと染み出してくる歯切れのいいスポンジのようなものが入っている。
 なんだろう。柑橘の皮かな。スサーナは口の中でもごもごと味を確かめる。
 確かに鼻にすうっと抜ける甘い香りと味は柑橘の精油のものだ。レモンの皮にしては妙にふわふわしっとりして厚いけれど。

これはざぼんのようなアルベドの厚い柑橘を砂糖煮にしたものの描写だが、料理については万事このような感じで読者の食欲を刺激する。
「食べ物が魅力的なファンタジーは名作」と言ったのは誰だったか、たしかに食は文化の基底であり、およそ人間が存在する限りどんな世界であれ通用するだろう分野だから、ここを手厚く描写できる作品は、書き手の中に確りと世界が構築されているのだろう。

書籍はひとまず1〜2巻同時発売、カクヨム版でおよそ60話ほどを収めるが、現在のところ連載は320話ほどまで進んでおり、たっぷり10巻は刊行可能な分量が既にある。続きを楽しみに待ちたい。

はとバスツアー:ムーミン谷と川越散策

バスツアーって経験ないな、ということではとバスのツアーに参加してみた。
どうせはとバスなら二階建バスのツアーを、とも思ったのだけどわりと都内の「知ってる」スポット巡りが多かったので、どうせならまだ行ってないところへ、ということで「ムーミンバレーパーク」ツアーに決定。
1人あたり5000円だが、ムーミンバレーパークのチケット3200円(前売りなら3000円)+併設レストランのビュッフェ1800円込みなので実質的に「交通費分お得」ぐらいの料金設定、しかもコロナ禍の観光補助政策でクーポン券が2000円分付くという。

出発は京橋駅、8時半。

首都高から外環道を通って関越道で飯能へ。順調だと1時間で着いてしまうので開園までの時間調整を兼ね、途中三芳PAで小休止。

ムーミンバレーパークは、埼玉県飯能市にあるダム湖宮沢湖」の畔にある。正確には北欧テーマの総合レジャー施設「メッツァ」(フィンランド語で「森」を意味する)の中に、商業施設群「メッツァビレッジ」とムーミンのテーマパーク「ムーミンバレーパーク」が併設される形である。
metsa-hanno.com

元は立川市あたりに建設する予定だったが、より「北欧」らしい雰囲気を求めた結果としてこの地が選ばれたのだとか。

実際、湖畔にムーミン世界の建物が見え隠れする風景はなかなかの雰囲気。

ところどころに写真スポット的な場所も用意されている。

ムーミンバレーパークは今年で開園3周年であるらしい。

ゲートを通過すると、まずはアンブレラスカイが出迎え。





この日は生憎と小雨のパラつく天気だったけど、雨粒に濡れる傘も悪くない。

園内には作中に登場する建物などが再現され、いくつかは中に入ることもできる。


湖沿いの道を離れ坂を上ると、丘の上にはツリーハウス。

道端や柵の外には、原作に登場したのだろう小物がちらほら。





私はムーミン物語に詳しくないのでよくわからないが、近くに作中の挿絵を描いたプレートがあったりも。

時々、短かいアニメーションを上映する小屋もある。

行き止まりにはスナフキンのテント。小さな焚き火もあり、日が暮れてからの雰囲気が見たかった。

湖畔なので至るところで水面の雰囲気を感じ取れる。


園内に流れる音楽はBOSEの全天候型スピーカーから流れるものだが、鳥の囀りは天然もの。


昼食込み3時間強の行程だったが、撮影しながら一周するだけで時間を使い切ってしまい園内アトラクションを全スルーする羽目に……次に行くときは夜のライトアップも見たいので、ツアーじゃなくここ1箇所だけを目指そう。
どうせなら近場で宿泊できると良いのだが、生憎とそういった施設はないようだ(飯能駅まで出ればビジネスホテルぐらいはあるだろうが)。

飯能を離れ、バスで川越へ。
途中、激しい雨に遭遇。川越の観光が危惧されたものの、到着頃にはもう傘も要らないぐらいの雨足に。

川越は何度か来ているので、今回はまだ行っていなかった氷川神社を目指す。

多数の風鈴を並べた演出で知られる神社だが、今年は市政110周年を記念して風車が並んでいる。

形代流しの小川。

吊灯籠の並ぶ一角も人気のフォトスポットである。

特に何かイベントがあるわけでもないようだが、着物姿の女性も多い。

絵馬を下げる通りや籤を結ぶ場所も。「鯛みくじ」を下げてゆく人もいる。

街中をひと巡りして、バスで再び東京駅へ。


バスで目的地まで行けるのは快適である半面、1箇所で好きなだけ遊べるわけではないのでちょっと気ぜわしくもある。
気になっている観光地の下見には良いかも知れない。

女王の化粧師

「女王の化粧師」は、所謂「主従もの」に分類されるファンタジー小説である。
atrium.flop.jp
女王を戴く小国デルリゲイリアの没落貴族家の一人娘、次代女王候補のひとりマリアージュ。その父亡き後に当主代行として、沈みゆく家をまとめる家宰ヒース。そして「女王の顔を作る」ために雇われた化粧師ダイ。この3人を中心に、女王選、そして国主としての采配を描いてゆく。


かつて大陸を統べた魔法技術の大国が、その技術と共に滅んでのち数十年。デルリゲイリアでは、今しも次代の女王選出の儀式が行なわれようとしていた。
この国では、旧国の聖女に連なる血筋から女王を戴く習わしがある。そのため前女王の退位あるいは崩御に際し、血筋を継ぐ各家から候補となる娘を立て、女王の座を争うのだ。

デイルゲイリアの国土は山脈と海に挟まれ、居住に適した平野は狭い。産出する資源にも乏しいこの国は、昔から芸術を主要な産業としてきた。ゆえに<芸技の小国>と呼ばれる。
そして<芸妓の小国>でもある。娼館もまた、この国の主要な「産業」のひとつだ。
その娼館で、芸妓に化粧を施す「顔師」として腕前を認められたダイはある日、貴族の使いによって呼び出される。女王候補の一人である上級貴族の娘、マリアージュ様専属の化粧師として雇いたいと。
芸技の国の女王候補らは、それぞれに国の産業たる技術を受け継ぐ職人を抱える習わしである。この家は、よりにもよって貴族社会で価値を認められていない「化粧師」を、お抱え職人に定めたのだ。

没落貴族ミズウィーリ家の、賢くもなければ見目麗しくもない、癇癪持ちの我侭な小娘。それに化粧を施し、女王らしい「風格」を与える、それがダイの職分である。
だが、化粧は単に白粉を叩き口紅を塗るだけの作業ではない。体質を知り、体調を管理し、肌を作る。そして当人の造作に合わせて欠点を隠し、美点を引き出す。それだけではない──マリアージュ自身がどのようになりたいか、どのように見られたいか。それを化粧によって実現するのだ。
だが、そのためにはマリアージュについて深く知らねばならない。何を考えるのか。何を望むのか。どのような女王でありたいのか。そうして一介の職人に過ぎなかったダイは、次第に彼女を支える腹心として政治の場に足を踏み入れてゆく……


まずもってキャラクターが魅力的である。
常に先を読み状況を整える、怜悧な敏腕家ヒース。あらゆる人物を、状況を、盤上の駒と為す天性の策略家。平民出で上級貴族家の使用人らとは距離を置くが、同じ平民出のダイにだけは気を許す。
劣等感を抱えながらも折れない強さを持つ女王候補マリアージュ。感情の機微には敏く、本質を鋭く見抜く。初めは物知らずで我侭な暴君だがダイによって環境に変化が生じたことで少しづつ考えを深め、人の上に立つに相応しく開花してゆく。
そして冷静ながらトラブル体質、貴族の常識に染まらぬ我らが視点主人公ダイ。画家であった父ゆずりの観察眼と魔性の娼姫であった母ゆずりの顔立ち、それに心を開かせる話術を持つ無自覚の「人たらし」。
彼らを中心に、敵味方入り乱れて多くの人物らが世界を彩る。彼らにはそれぞれの立場があり思惑があり、単なる冷酷な敵ではないし、絶対の味方でもない。とりわけ他国との外交ではそれぞれの関係性と思惑、国内の情勢に応じて時に協力し時に対立し、絡み合って物語が紡がれる。

複雑な裏事情は、社会に疎いダイの目を通して疑問を浮かび上がらせ、すべてを把握するヒースの説明を受けることで読者にもわかりやすく示されてゆく。
国交を描く物語であるため登場人物は決して少なくないが、ダイの立場から一度に接する範囲が制限され、また印象的なエピソードを伴って登場することでしっかりと印象付けられる。

もちろん、主人公が「化粧師」であるからには、肝心の化粧に関する描写にもしっかりと力が入っている。
私自身は化粧の経験がないため些か具体的なところをイメージしにくく、その演出効果についても判断はしかねるが、それでも色選びや載せ方の丁寧な描写には説得力を感じずにはいられない。
ダイの化粧はどのように女王を彩り、影響力を発揮してゆくのか。是非読んで確かめられたい。

なおビーズログ文庫より書籍化進行中、ガンガンコミックスでコミカライズ進行中。

神田明神夜桜会

先日は昼の桜を撮るのが楽しかったので、今度は夜桜のライトアップを撮りに行くことにした。
都内でもあちこちでライトアップを行なっているが、今日は会社帰りのアクセス性から神田明神のライトアップイベント「NAKED 桜モウデ」を選択。
naked.co.jp

鳥居越しに見える隨神門がライトアップを受けカラフルに輝く。
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隨神門をバックに近隣の植木を撮るだけでも楽しい。
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もちろん門だけでなく境内もライトアップされている。
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さほどの混雑もなく、ゆったり撮影できた。
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LINE登録で借り受けられる提灯は、足元に桜の花を投影してくれる。
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時刻は夜7時、ふたたび門の外へ。
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やはり隨神門と桜の取り合わせは格別。
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