はじめてMagic:The Gatheringに触れる人のための、MTGアリーナ初期攻略手順

MTGアリーナがiOS/Androidに対応したことで、新たなプレイヤーが参入している。
オンラインでの対戦がモバイル環境で可能になったことで、いつでもどこでも対戦相手を見付けて遊べる。経験者にとっては素晴らしい環境だ。
その反面、MTG自体に馴染みのない人にとってチュートリアルが(「アリーナの動かし方」としては機能していても)MTG自体のルール説明としては不足が多く、また公式ルール解説への導線も弱いため、ゲームルールが把握し切れないことも少なくないようだ。
紙のカードによるプレイとは異なり、アリーナでは様々な処理が自動的に行なわれるため「理解していなくてもゲームは進んでしまう」のと、実物のカードがなくルールとカード(や、プレイ状況)を見比べることが困難というのが、理解を妨げている要因ではないかと考えらえれる。

右上のヘルプメニューにはルール説明へのリンクがあるものの、言語設定に合わせたリンク先の変更までは為されていないため、英語情報しか出てこないのも初心者離れに拍車をかけている。
実は公式の日本語サイトに丁寧なルール説明があるので、まずはそれを読むといいだろう。
mtg-jp.com

あるいは、読むより動画で見たい人は、こちらのページ中段「How to Play」に動画もある。
mtg-jp.com

ルールは上記のリンクでだいたい理解できると思うが、しかしこれらも「勝ち方」までは教えてくれない。チュートリアル戦では勝てるようなお膳立てが為された上で「これを使ってみましょう」などと指示があるから漫然とプレイしても勝ててしまうが、その後の「カラーチャレンジ」は(bot相手とはいえ)いきなり制限なしの本番で自分で勝ち方を考えてゆかねばならず、かなりの落差がある。
この時点で諦めてしまう人も少なからず出ているようなので、簡単ながら「攻略」について書いてみようかと思う。

クリーチャーの戦闘能力

MTGに於ける、主要な攻撃手段は「召喚したクリーチャーによるアタック」だ。他に攻撃呪文などもあるが、呪文が1回限りの使い捨てであるのに対してクリーチャーは破壊されない限り何度でも攻撃できるから、これを軸に考えるのがもっとも効率が良い。

クリーチャー戦のルールは、全体的には防御優位にできている。
攻撃側にできるのは「どのクリーチャーで攻撃するか」の宣言だけであるのに対し、防御側は「どの攻撃クリーチャーに対してどのクリーチャーを当ててブロックするか」を任意に選べる。そのため攻撃クリーチャー1体を複数のクリーチャーでブロックして破壊することも可能だ。
また、クリーチャーの攻撃は、パワーに関わらずブロックが成立した時点でそのダメージはすべてブロッククリーチャーにのみ与えられ、相手プレイヤーには届かなくなる。
攻撃を行なったクリーチャーはタップされるが、タップから回復するのは次の自分のターンが始まるときであり、相手のターンではタップしたままとなるためブロックに参加できない。そのため、相手ターンで攻撃を防ぐことを考えて攻撃に参加しないクリーチャーも残しておく必要があるだろう。
その上、召喚されたばかりのクリーチャーは「召喚酔い」によって攻撃できないため奇襲は難しく、相手には新たなクリーチャーへの対応手段を講じる猶予が与えられる。

こうした不利を押して攻撃を通すためには、クリーチャーの能力や呪文の助けを借りる必要がある。
まずは、複数のクリーチャーに共通して存在する基本能力を把握しておくのが良いだろう。以下に、基本セットおよび各エクスパンションに共通して存在する能力を簡単に説明しておく(それぞれのカードにも能力の説明が書かれているので、憶え切れなくても問題はない)。

速攻

クリーチャーが場に出たターンにはタップ能力や攻撃ができないという制約(通称「召喚酔い」)を無効化する能力。場に出した直後から攻撃できるため奇襲的な運用が可能だが、次ターン以降には何の恩恵もない。

防衛

攻撃に参加することができない(ブロックは可能)。デメリット能力だが、その分だけコストの割には性能が高めで、防御用の盾としては悪くない。

飛行

ブロックされにくくなる能力。空中から攻撃するため、飛行を持たないクリーチャーではブロックできない(飛行を持つクリーチャーが、飛行を持たないクリーチャーをブロックすることは可能)。

到達

「飛行クリーチャーをブロックできる」能力。あくまでブロックできるだけで、自身が飛行しているわけではないので、攻撃時には飛行を持たない地上クリーチャーにブロックされる。

威迫

敵を恐怖で竦ませ「1体だけではブロックされない」能力。ブロックのためには2体以上を同時に当てなければならないため、攻撃が若干通りやすい。

警戒

攻撃時にタップされない能力。攻撃後にも相手ターンにブロックに参加することが可能となる。
あくまで「攻撃時に」タップされないだけなので、タップ能力を使ったり、あるいは何らかの効果でタップされてしまえばブロックできなくなることに注意。

先制攻撃

先んじて戦闘ダメージを与える能力。
通常の戦闘ダメージは攻撃クリーチャーと防御クリーチャーで同時に与えられるが、先制攻撃は通常の戦闘ダメージより先に与えられる。そのため、相手が先制攻撃を持たず、かつ先制攻撃ダメージを上回るタフネスを持たない場合、先に相手を破壊できるため反撃のダメージを受けることがない。
双方が先制攻撃を持つ場合は同時にダメージを与え合うし、また先制攻撃のダメージで破壊できなければ、その後に通常攻撃ダメージによる反撃を受けることになる。

二段攻撃

先制攻撃の上位能力。この能力を持つクリーチャーは、まず先制攻撃のタイミングでパワー分のダメージを与えた後、通常の攻撃タイミングでももう一度ダメージを与える。そのため、実質的なダメージはパワーの倍となる。もちろんプレイヤーに対して攻撃が通った場合もダメージは2回分である。

トランプル

攻撃ダメージをブロックによって防がれにくくする能力。攻撃クリーチャーのパワーからブロッククリーチャーのタフネスを差し引いた残りのダメージが、防御プレイヤーに与えられる。
防御時には効果を発揮しないので、ブロックしても攻撃プレイヤーがダメージを受けることはない。

絆魂

与えたダメージの分だけ、これをコントロールしているプレイヤーのライフを回復する能力。ブロックされた/した場合でもライフは回復し、また与えるダメージより相手クリーチャーのタフネスが少なくても、パワーに等しいライフを回復する。
プレイヤーのライフを増やすだけなのでクリーチャー同士の戦闘自体には影響を与えないが、プレイヤーが受けるダメージ量には関係してくる。

接死

相手クリーチャーのタフネスに関わらず、「1点でもダメージを与えれば」相手クリーチャーを破壊できる能力。攻撃すればブロックが躊躇われ、防御に残せば相手からの攻撃を牽制できる。
また、先制攻撃と組み合わせられれば相手クリーチャーを先んじて破壊できるし、トランプルとの組み合わせでは(相手のタフネスに関わらずダメージ1点で破壊してしまうので)残りすべてが防御プレイヤーへのダメージとなる。

破壊不能

ダメージによってタフネスが0以下になっても、あるいは「破壊する」と書かれた効果を受けても、それによって破壊されることがない。
防ぐのはあくまでダメージもしくは「破壊する」効果によるのみであり、ダメージそのものを0にするわけではないので、たとえば絆魂の攻撃を破壊不能で受けても回復量が0になったりはしない。
また「タフネスにマイナスの修正を与える」ことでタフネスが0以下になった場合は存在できなくなるため、墓地へ送られる。あるいは「追放」効果によって戦場から除外することも可能。

呪禁

防御能力。対戦相手のコントロールする呪文や効果の対象とならない。
対象とならないだけなので、対象を直接指定しない効果(たとえば『すべてのクリーチャーを破壊する』や『対戦相手がコントロールするすべてのクリーチャーにダメージを与える』、あるいは『対戦相手はクリーチャーを生贄に捧げる』など)の影響は受ける。

護法

防御能力。対戦相手のコントロールする呪文や効果の対象となった時、追加のコストを要求し、支払わない場合は打ち消す。

瞬速

カード使用タイミングに関する能力で、インスタント同様にプレイ可能にする。
直接的に戦闘に関わるわけではないが、たとえば相手が攻撃宣言したときに割り込んでブロッククリーチャーを召喚したり、あるいは相手ターン終了時に召喚すれば自分のターン開始時点で召喚酔いのない状態とすることも可能。

これらはどのセットにも含まれる普遍的な能力だが、これ以外にも特定のセットにのみ含まれる能力なども存在する。またキーワードによってまとめられていない各カード固有の能力もあるため、最終的には広い範囲のカード効果を憶える必要が出てくるが、ひとまず普遍的能力を把握しておくだけでもかなり戦闘の駆け引きが違ってくるだろう。

カラーチャレンジ攻略

さて、いよいよカラーチャレンジに於ける各デッキの使い方解説に移ろう。
いずれも初心者向けの単色デッキであり、なるべく色ごとの特徴が出るように組まれているため、一通り扱いを学ぶことでMTGの基本が身に付く。
2〜3マナ程度の軽いカードを中心に構成されているので、マナ不足やマナと手札の色が一致せず手札を出せない「事故」の心配がなく、プレイしやすい。
反面、戦術的な幅は狭く、物足りなさを感じるところもあるだろう。そちらはカラーチャレンジをクリアしてゆくと報酬として貰える多色デッキでカバーしよう。

白単「平和維持」の使い方:

白は「安くて小さいカードがたくさん出せる」色だ。1体1体は小さくとも数で上回れば、相手の攻撃はブロックで防げるし、こちらの攻撃はブロックし切れずにライフを削れる。
また、白のクリーチャーは「先制」や「飛行」など一方的に攻撃しやすい有利な能力を持っていることが多いので、相手の攻撃をブロックできる(できれば相打ち以上に持ち込める)程度の戦力を防衛に残しつつ、ブロックされず一方的に攻撃できるクリーチャーはどんどん攻撃に回して行こう。

このデッキの肝は「情熱的な扇動者」と「神聖なる僧侶」のコンボによるライフ回復+強化だ。まずは扇動者を出し、次に僧侶を出すと、「他のクリーチャーが場に出た」ことでライフが1点回復し、ライフが回復したことで僧侶のパワー/タフネスが+1/+1される。その後はクリーチャー召喚する→ライフ回復する→僧侶が巨大化するというサイクルでどんどん大きくなり、敵クリーチャーを圧倒できるだろう。さらに「レオニンの戦導者」が加われば、攻撃の度にライフを回復する「絆魂」を持つ猫が2体出るので、ライフ2回復によって僧侶が+2強化される。扇動者が2人になっても毎回2点回復で+2できるし、僧侶が複数いればそれらが同時に+1されてゆく。
逆に言えば、扇動者と僧侶はなるべく守って行きたい。まあ僧侶はある程度大きくなればダメージではそうそう死ななくなるので、小さいうちに潰されるか、即死スペルを使われたりしなければ大丈夫だろう。

5マナあれば、「警戒」(攻撃しつつブロックもこなす)を持つ主力飛行クリーチャー「セラの天使」が出せる。
6マナ「守護の天使」が揃えば、アタックしたクリーチャーが死ななくなるので、ブロックを恐れずバンバン攻めることができるようになる。

デッキを使う上でひとつだけコツがあるとすれば「戦術的優位」の使い方だ。このカードは1マナで出せるインスタントで、対象を+2/+2できる。つまり、「あと2あれば倒せる」時に使えるし、「あと2あれば倒されずに済む」時にも使える。
なので、余裕があればマナ1点余らせておくと、相手は常に+2/+2される可能性を警戒しながらプレイしなければならなくなる。別に実際そのカードを手札に持っておく必要はなく、手札が1枚以上ある状態で白マナ1点を余らせておけば、それだけで相手を悩ませることができる(まあ対bot戦ではこういう心理戦も意味がないけど、対人戦では重要なテクなので憶えておくといい)。

改造指針

回復するたび僧侶が巨大化するのが基本なので、ライフを回復させる効果は色々入れて試してみるといいだろう。
相手のパーマネントを無力化する力が弱く、「平和な心」2枚ぐらいしか入っていないので、他に戦場から取り除くようなカードを手に入れたら増やしてみてもいい。
デッキの枚数が増えたら土地の枚数も忘れず増やすこと。そうしないと土地が足りなくてカードが出せなくなる。

緑単「巨大で尊大」の使い方

緑はマナを増やす能力と、大きなクリーチャーの出しやすさが特徴だ。数よりも一発の重さで殴ってゆくタイプといえる。
序盤はマナを出せるクリーチャーなどを中心に、4〜7マナ揃ったあたりからが本番。相手を一方的に倒せる大型クリーチャーを揃えて、敵の防衛線をすり潰してゆこう。
特に「トランプル」能力は、ブロックされても残ったダメージが防御プレイヤーのライフを削るため、小さなクリーチャーでの防衛が困難になる。

このデッキには明確なキーカードがない。数が多くなるほど強化される「ベイロスの群集狩り」や5マナで10/10という暴力的な性能の「ギガントサウルス」、攻撃時に超巨大化する「暴れ回るブロントドン」など複数のクリーチャーがどれも致命的な破壊力で相手を圧倒してゆく。
ただ緑の特性上、飛行クリーチャーには弱い傾向がある。「到達」によって飛行をブロック可能な歩哨蜘蛛で守るか、「優しいインドリク」「狂気の一噛み」などを使って飛行を中心に厄介なクリーチャーを潰してしまおう。

改造指針

強みを伸ばすなら、トランプルを持たないクリーチャーをトランプルクリーチャーに入れ替えてゆくといいだろう。あるいはパワーを増加させるインスタントを増やし、相手クリーチャーの撃破力とトランプル火力を増やすのもいい。
弱みを補うならば到達クリーチャー、あるいは飛行クリーチャーを破壊できるようなスペルを追加したい。

赤単「ゴブリンだらけ!」の使い方

赤の特徴は、なんといっても直接的な火力だ。対象を指定してダメージを与える攻撃呪文が多く、これによって相手の主戦力を破壊し、あるいはライフを直接削る。
また赤のクリーチャーは白に似て小さなものが多いが、白とは異なり飛行などの能力を持たない代わりに、召喚してすぐに攻撃可能な「速攻」が多い。

このデッキの基本的なコンボは「略奪の爆撃」+多数のゴブリンだ。パワーが2以下のクリーチャーで攻撃するたび相手に1点のダメージを与えるこのエンチャントは、たとえ攻撃が阻まれても確実に相手のライフを削ってゆく。「略奪の爆撃」は攻撃を宣言した瞬間のパワーが2以下でさえあればいいので、相手がブロックを決めた後で「嵐の一撃」「燃えさかる炎」などでパワーを上げるのは有効だ。

白デッキの時と同様に、インスタントによる奇襲効果で相手へプレッシャーをかけるよう、マナと手札を残してプレイするといいだろう。
コンボの特性上クリーチャーの大半がパワー2以下の小型なものばかりであるため、相手に大型のブロッカーを出されると進撃速度が落ちてしまう。ある程度は「略奪の爆撃」のために無駄死にさせてもいいが、可能ならばパワー増強効果やダメージ呪文で敵のブロックを効率良く破壊したい。
6マナ以上揃えば6ダメージを与える「逃れ得ぬ猛火」やドラゴンなどの大型飛行クリーチャーが出せるようになるので、打撃力の軽さを補える。

改造指針

「ショック」以外のダメージスペルが足りないので、そこを補いたい。また、「溶鉄の荒廃者」のように後からパワーを上げられるクリーチャーは「略奪の爆撃」と相性が良いため採用してみるといいだろう。

黒単「冷血な殺人鬼」の使い方

黒は変則的な色で、ダメージを問わぬクリーチャーの破壊や墓地からの復活など、クリーチャーの生死をコントロールする能力に長ける。またマナコストの割に強力な性能を持ち、代わりにライフを減らす・手札を捨てる・クリーチャーを生贄に捧げるなど、追加のコストを要求するカードも多い。逆に言えば、追加のコストが負担できるならば安く強力なカードを使い得るということだ。

このデッキは、そうした黒の特徴がよく出ている。「チフス鼠」は1点でもダメージを与えれば相手クリーチャーを破壊できる「接死」を持っているので、ブロックに残しておけば相手の攻撃を牽制できる。「マルドゥの先導」は手札を捨てる代わりに3マナで5/5と、高いコストパフォーマンスを発揮する。「マラキールの選刃」はクリーチャー破壊呪文と相性が良く、「野蛮な大喰らい」は相手のライフを削りさえすれば強化されてゆく。

今までより若干回しにくいデッキ構成だ。「マルドゥの先導」があれば3ターン目に5/5を出すことが可能だけれど、それがないと1/1で戦うことになる。うまく行けば相手のクリーチャーを破壊して「マラキールの選刃」を強化したり、飛行でブロックされずに「野蛮な大喰らい」を強化したりできるけど、うまく行かないとこれらがいつまでも1/1のまま、攻めるどころかブロックもままならない。
ただ、3マナ以下の軽いクリーチャーだけでなく5マナ以上の重量級にも充分な戦力が用意されているので、軽量速攻相手にも重量相手にも戦えるポテンシャルはある。接死とクリーチャー破壊で敵からの攻撃を封じつつ逆転を狙おう。
意外とキーになるのが「療養所の骸骨」。ただの1マナ1/1でしかないが「3マナ払って墓地から手札に戻せる」ので、「マルドゥの先導」のコストとして捨てても戻せるし、ブロックして死んでも甦る。こうしたカードで防げるものは防ぎつつ、飛行やトランプルなど致命的なものは「殺害」で除去して優位性を確保しよう。

改造指針

「マラキールの選刃」と相性の良いクリーチャー破壊呪文や接死クリーチャーは増やしたい。

青単「空中支配」の使い方

青は飛行クリーチャーと大型クリーチャーの多い色だ。また手札の増加やカードのコントロールに強い。

このデッキの場合、3マナからが本番だ。飛行クリーチャーのコストを下げる「イーヴォ島の管理人」が出れば5マナ以上の重量級飛行クリーチャーも安く出せる。それまでは、強力なクリーチャーは「水結び」でアンタップできないようにして、エンチャントやカウンターなどで強化されたクリーチャーは「送還」でリセットして、攻撃を凌ごう。
カードを引くことができる「雲族の予見者」「翼ある言葉」や、占術によって今いらないカードをデッキ下へ送り込める「ルーンの壁」「予言ダコ」などで手札を調整しつつ、飛行クリーチャーを引き出して一方的に攻撃してゆこう。

5種類の単色デッキの中ではこれが一番戦いにくいのではと思う。「送還」による除去は1ターン限り(手札に戻すだけなので次ターンまた出てきてしまう)、コストの割にパワーのないクリーチャーが多くスピードで負けやすいなど、他の色に比べ不利な点が多い。
ただ、飛行の多さは随一でブロックされずに攻撃を継続しやすく、また「送還」を相手の攻撃で破壊されるクリーチャーの救済に使うようなことも可能で、テクニカルな動きができる。これを使って勝てるようになれば、ひとまずチュートリアル完了と言えるだろう。

大砲とスタンプ:共和国軍 主力戦車

前回の擲弾戦闘車 マズルカを仕上げたところで3月も残り数日。架空戦車コンペの締切は3月一杯だったので流石にもう時間がないのだが、公国と帝国を作ったならば共和国も作りたくなるというもの。
実は「大砲とスタンプ」は戦争の話ではあるが戦闘がメインではなく、様々な兵器が登場するものの主人公が後方任務を担当する兵站軍の将校であるため各兵器はチョイ役に過ぎない。むしろ敵軍である共和国の主力戦車こそが、いちばん多く登場する兵器であり、ほとんどイラスト1枚の他の兵器よりも格段に資料が豊富なのだ。
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右前部のスポンソンに大口径砲を、上部の全周砲塔に小口径の対戦車砲を備えた構成やコイルスプリング式の特徴的なサスペンションなどから見て、この戦車のデザインベースは米軍のM3中戦車で間違いない。
ならばシュルツェン付きの特徴的な砲塔を作るだけでおおよそ完成するのでは……それなら数日で完成させられるか?
ということで、1/35 M3グラントMk.1を購入。

とりあえず左前方を切り取ってプラ板とパテで埋めつつ前部装甲を垂直に仕立て直し、砲塔リングを切り出して中央にレイアウトしてみる。
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このあたりで気付いたのだが、どうやらM3中戦車だいぶ恰幅が良いな?
M2〜M4の各戦車のデザインは左右フェンダー部分にまで車体が張り出す構造になっているのだが、共和国の中戦車では左右フェンダーが車体より外に張り出している。
また左右装甲は若干の傾斜が付けられている一方、M3では斜めになった車体後部は水平になっている。
というわけで結局車体を切り刻んで、車幅を切り詰めつつ各所の角度を変更してゆく。車体左前部の角度はなかなかいい感じになった。
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砲塔は基部を円形に整えつつ5mm幅に切れ目を入れたプラ板を巻いて円筒を作り、パテで頂部を形成する。元イラストを見るとシュルツェンは放射状の板で接合されているような感じに見えるのだが……
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流石にそれは手抜きっぽさがあるので、Iビームで支持材を作り直す。まあ雑なことにあまり変わりはないような気もするが。
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車体バランスはこんな感じ。元イラストでは戦闘室がもっと前後に短かく、また砲塔は戦闘室の幅ギリギリのサイズであるように見えるのだが、絵ごとにサイズは曖昧なので「シュルツェンを合わせると車幅よりも大きい」ぐらいであればまあ良いかということにしておく。
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車体幅を詰めるために切り落とした後部上面装甲を2つに切って、中央部の幅に合わせて切れ目を入れて車体尾部を作ったところ、残った半分がちょうど車体前部装甲にぴったり嵌まった。下面にプラ板を貼り軸受け部を作る。
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車体後部の超壕用尾橇をプラ材で作る。第一次大戦の戦訓から初期戦車に見られた構造だが、実際にはあまり役立たず主に荷物置き場になっていたとか。
接合部の糊代は余計で不恰好なのだけど、接着力の方を重んじた。
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切り落とした部分などにリベットを植えつつサフを吹く。表面は整え切れず粗さが目立つが、綺麗に均そうと思うとリベットを削り落として全部植え直す覚悟が必要なので、流石に手間がかかりすぎる。粗さはウェザリングで誤魔化そう。
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砂漠迷彩を意識して、M3の塗装パターンを見本にレッドブラウンをカモグリーンに置き換えてざっと塗り分ける。
全体をミディアムグレーでウォッシングしてコントラストを落とし、錆色をドライブラシして全体を荒らす。
ソビエト歩兵突撃セットを乗せてタンクデサントを演出。今回は乗せてみただけだが、そのうちちゃんと情景にしたい。
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今回はキット入手から塗装までわずか3日という突貫作業で、流石に色々と粗はあるのだが、仕上がってみればなかなか雰囲気は出せたのではなかろうか。

大砲とスタンプ:帝国軍 敵弾戦闘車「マズルカ」

架空戦車コンペ第4弾、前回の「肉挽き機」が良い感じに作れたので、今度も「大砲とスタンプ」5巻に登場する小型車両を作ってみる。
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ドイツ軍っぽさのある帝国軍の軽装甲車「マズルカ」は20mm機関砲と擲弾砲を備えた3輪ハーフトラックである。史実的に言えばケッテンクラートとsd kfz.250の中間ぐらいのイメージだろうか。丸っこい形と車体に似合わぬ大ぶりの砲塔、耳のような測距儀が可愛い。

素体としては、同じく20mm機銃を装備したII号戦車をベースにするのがいいだろうか。しかし履帯部分はもっと小さなものがいい。まったく同型のものは(今回は史実に類似車両がないので)用意できないが、スケール違いのハーフトラックあたりから切り取って来ようか。
スケールを確認しつつサイドビューの画像を切り取ってシミュレートした結果、今回は小さめに作るつもりで1/48のII号戦車に1/72のM3ハーフトラック履帯を合わせるのが良いのでは、という方向に落ち着いた。
ただ、M3が履帯以外無駄になりそうなのがちょっと気になって、とりあえず履帯は後回しにしてII号戦車ベースで砲塔から作ってみることにする。

とりあえずII号戦車の砲塔を組みつつ後ろを切り落とし、パテとプラ板で形を整える。斜めに角度の付いた円形の装甲を組むのが難しい。
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擲弾砲は2mm丸棒を1.5mmピンバイスで抉って作った。先にモーターツールの丸先ヤスリで先端に窪みを作り、中央に0.5mmピンバイスで穴を空け、少しづつ太径にしてゆく。
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車体上部は、砲塔リング部分だけを切り出して曲げたプラ棒を貼り丸みのある車体の骨組みとする。
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L字材を使って斜めの装甲板を貼り、下端にまた曲げプラ棒を貼って間をプラ板とパテで埋めることで車体を作ってゆく。
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車体に合わせて履帯のサイズを見たところ、II号戦車の駆動部を切り詰めれば丁度良いのではという気になってきた。
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それに合わせて車体下部も前後を詰めただけで普通に組んでゆく。
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砲塔を乗せると豆戦車っぽくて、これはこれでちょっと面白い。
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前輪のフェンダーに使える 部品がなかったので、ターレーに使用したFlak.38の余ったバナナマガジンを接着してフェンダーをでっち上げる。
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車体上部と履帯部分を合わせてみて、前輪部分のバランスを考えてみたところ、1/35のSASジープぐらいの大きさでないとバランスが合わないことが判明。つまり車体のサイズ的には1/48じゃなくて1/35ということになる。おかしい……1/48にしようと思って作っていたのに……
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すると砲塔も、1/35で人を乗せるにはあまりに小さい。元イラスト的にも、車体からはみ出すぐらいのサイズであるはずなので、折角作ったが切断して作り直し。
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車体の上下をどう合わせるか考えながら隙間を埋める構造を作ってゆく。L字材を貼って断面三角にしてゆくことで、ドイツ軍のデザインにありがちな傾斜車体が生まれる。
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ようやく元イラストのバランスに近い形状が出来上がってきた。
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横から見るとこんなバランス。かわいい。
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車体前部に1mm半丸棒を貼ってリブを表現しつつ、細く練ったパテを貼り付けて溶接痕を作る。明らかに太すぎるのだが、細いと貼り付かないので難しい……表面がプラ材だったら伸ばしランナーの方が良いのだろうけど、パテで覆ってしまうとそれも難しそうで。
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SASジープの、モールドが甘いM2機関銃を切って通信機っぽいものに仕立てる。
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アクセサリを貼って塗装すれば完成である。
初期ドイツ軍イメージでジャーマングレイの単色塗装にしたところ、のっぺりとしてメリハリがなく苦労した。若干明くしたグレイで縁部分をドライブラシしてなんとなく立体感を強調している。
帝国軍の国章はポーランド軍の赤白逆だということだったのでマーキングもポーランド軍に準拠したものを考えようかと思ったのだが、資料に乏しかったのでS35の使わなかったデカールから赤白のマークを流用してみた。
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先に作った肉挽き機と並べると小ささがよくわかる。S35だって決して大きな戦車ではないのだが、その半分ぐらいしかない。
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流石にターレーよりは大きいものの、砲まで入れたら全長で負けている。砲座に座らせていたフィギュアを乗せてみたら玩具みたいなサイズ感になった。
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いちおう車内に座れば頭が砲塔内に収まるぐらいのサイズではある。
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大砲とスタンプ:公国軍 近接支援車「肉挽き機」

架空戦車コンペ用に架空の戦闘車両を作るのが結構楽しかったので、次のネタを考える。
流石にヤンセン脚歩行戦車ターレー・テクニカルのようなネタ方向は限界があるので、もっと実在しそうな奴を作ってみよう。
今回はネタ本として「大砲とスタンプ」から架空車両を引用することにした。

公国軍 近接支援車「肉挽き機」は、6巻に登場する。型遅れとなった戦車の車体を流用し、オープントップの砲塔に大口径の榴散砲を搭載した、対歩兵・軽車両用の近接戦闘用車両で、治安戦を得意とする部隊が運用している。
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コミカルな見た目に反して精神的にキツい場面に登場する、業の深い車両である。

一見して解る通り、デザインのベースとなっているのはフランスのソミュアS35だ。というわけで今回の素体には、評判の良いタミヤのキットを用いる。

まずは車体をざっくり組んでゆく。
足回りは4輪を一対としてリーフスプリングで支えたサスペンション構造が再現されている……のだが、それを完全にカバーで覆ってしまうため折角の凝った構造は完成すると見えないという……
車体上部はS35と少し形状が異なる。車体全部のボンネット状構造はなく平面的な台形構造であるため、まずはプラ板とパテでここを作り替えてゆく。斜めに切れ込んだ左前部は一度切断して直線的に接着し直して、ボルト接合部を生かす。
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元イラストからははっきり判らないものの、車体後部は一段高くなっているようだ。砲塔に全周能力がないというのも、ターレットリングより高くなった後部に邪魔されるためだろう。
というわけで 後半を切断し、上面を切り取って間をプラ板とパテで繋ぐ。
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駆動部側面の装甲にブチ穴などの装飾を追加する。
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アクセサリはターレー・テクニカルのフィギュア用に買ったSASジープから流用したのだが、古いキットのためディティールが甘く、側面はのっぺりして布のように見えないので半田ゴテでなぞって彫りを深くする。
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後部にもアクセサリを取り付けてゆく。車体上面中央にあったマフラーは右背面下方から上に向かうように変更。
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ターレー・テクニカルの時と同様に、3mmプラパイプを接着してゆく。ただし今回は120度で切り開いたパイプを周辺にも接着、間をプラ板とパテで埋めて、リヴォルヴァーの回転弾倉めいた構造を作ってゆく。これが榴散砲の砲身になる。
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さて、榴散砲の機関部をどうするかが問題である。内部の見えない砲塔ならば砲身さえあれば良いのだが、オープントップゆえにそれっぽい構造が必要になる。しかし回転砲身の榴散砲など史実兵器に存在していないので、それっぽい形を作るにも参考資料がない。
ひとまず口径の近い榴弾砲が使えないかと考えてみた。できればあまり高くないもので。
色々探したところ、1/72 60cm自走臼砲カールの中古キットを見付けた。スケールが半分程度なので1/35に合わせれば30cmぐらい、榴散砲の砲身は3mmパイプだから35倍すると105mmぐらい。それが束ねられて3倍の太さになるので丁度30cmぐらいで合うはずだ……と買ってみたものの、砲塔部分に乗せてみたらどう見てもオーバースケール。乗せて乗らないことはないとはいえ、これでは人の乗る場所がない。
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なお、パテで埋めて磨いてしまった装甲表面の鋳造表現は溶きパテで作り直している。


仕方がないので手持ちの部品や使えなかったカールのパーツなどを組み合わせて、なんとなく砲の機関部っぽく見えなくもない何かをでっち上げる。
ついでにプラ板で砲塔を作り始める。車体サイズと合わせてバランスを取りつつ回転角を調整し、なんとか左右60度ぐらいの回転が可能なように。側面装甲は曲げがキツくてプラセメントではすぐに剥がれてしまうので瞬着で固める。
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形が出来上がったところで塗装。カラーリングは1巻表紙の塗装パターンを参考に、ベージュ+パステルブルーの2色迷彩とした。マーキングはプラ板で作った原型を元にマステをカットしてステンシル塗装で白→オレンジを重ね塗りし、極細油性マジックでストライプを手書き。車体左前面の黒死病連隊マーキングも手書きである。
車体は全体にダークコッパーのドライブラシで錆を付け、歴戦の車両らしさを演出。布パーツはブラウンに塗った後、白をドライブラシで縦横に重ねることで布っぽさを出してみた。
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「テクニカル」を作る

テクニカルというのは、「市販車の荷台に武装を搭載して戦闘車両に仕立てた」改造車のことだ。
元は内戦地域で活動する非政府組織が、護衛の入国を拒否されたため「技術支援助成金」の名目で民兵を雇ったことから転じて、民生車両を武装化したもの全般の呼び名となったのだそうだ。
ピックアップトラックなど非軍事用車両に対空機関砲やロケット砲などの重火器を据え付けたアンバランスな姿が印象的で、そのうちネタにしてやろうと漠然と考えていた。

先日より開催された「架空戦車コンペ」に、前回作ったヤンセン式多脚歩行戦闘車両を出してみたところ思いのほか好評だったことに気を良くして、新作を作ろうかと思い立ったところでテクニカルのことを思い出した。私は造形技術も塗装技術も拙いのでアイディア勝負を好む。架空の戦闘車両として、史実戦車ベースの架空仕様車両や脚歩行戦車は多数あったが、テクニカルはまだなさそうだ。

問題は「何をテクニカル化するか」である。戦闘用でない車両に重武装を施すのが面白いのだが、なるべく意表を突きたい。
最初はロボものを考えたのだが、ガンダムにはじまるロボ系プラモの大半は戦闘用であるため「民生車両を武装化する」という趣旨にそぐわない。しかしオリジナル機体で民生用であることを理解してもらうのは難しいし、あるいは知名度のある民生ロボを使うとなると、メカトロウィーゴなどごく少数しかない。

もうひとつの問題が「荷台」だ。テクニカルは車両の荷台へ雑に武装を据えたものなので、荷台のない機体では再現しにくい。たとえばウィーゴの腕に銃を持たせたり肩から砲を生やしたりしても、それはテクニカルには見えない。

(ほぼ)民生用の荷台付きロボとして、ザブングルのウォーカー・ギャロップを素体にすることも考えた。

これはこれで面白かろうとは思うのだが、オリジナルキット時点で最初から機銃が据え付けられており無改造でもテクニカルっぽかったのと、キットの縮尺が1/100であるためミリタリーモデルとサイズが合わないという難点があり断念。
他に荷台付きの良いキットはないか……と色々検索しているうちにふと思い出したのが、アオシマの出していた「ターレー」のキットであった。

ターレーとは、正式にはターレットトラックといい、市場などで荷運び用に用いられる小型運搬車である。車両の前部に原動機と直結した駆動輪を持ち、その上に付いたハンドルで原動機ユニット自体を回転させることで操舵する独特の機構を持つ。運転台には座席がなく立ったまま操縦する。
明らかな非軍事車両で、しかも小型でありながら荷台を備えるため砲座の積載に適した、重武装化で違和感が際立つ最高のチョイスではないだろうか。しかも1/32スケールと、ミリタリーミニチュアで一般的な1/35と合わせて違和感のないサイズなのも良い。

というわけでネタの方向性が決まったので早速キットを取り寄せる。既に流通の少なくなった製品ではあるものの、まだ在庫は確保可能だ。
搭載する武装は、コンパクトながら火力を感じさせ、かつキットの安いものをということでタミヤの2cm4連対空機関砲Flak38をチョイス。

ざっと組み上げて砲座を載せてみる。左右に張り出した装填手座席と砲座を安定させる足をカットして左右をコンパクトに抑えても、台座部分が荷台の幅よりはみ出す。また回転のため砲手座席がギリギリ回転できる位置にすると重心が後輪の車軸より後ろになってしまうので、砲の重みで運転台が跳ね上がる。
エンジンカウル側に鉛でも仕込んでバランスを取ることも考えたが、実機でも同じような現象を生じることが予想され、これはつまりオリジナル仕様のままでは積載に無理があるということだ。そこで急遽、後輪を2軸化することにした(本キットには2台分の部品があるので、予備パーツとして流用可能である)。これにより重心より後ろ側で支えることが可能になり、なおかつ砲の重量に耐えるため車輪を増やして荷重分散した風になる。
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フィギュアをどうしようか考えたが、テクニカルは中東などで多く用いられるのでターバン風のものが欲しい。しかしドイツ・アメリカ・イギリス以外の兵は種類が少なく、割高になる。
ちょうど英軍のSAジープにターバン姿の英兵が付いていたので、これを流用することにした。

ハーフパンツ姿では中東らしく見えないのでパテで裾を延長。また腕の角度が砲に合わなかったので袖口で切り落として角度を変え接着する。もう1体は下半身をパテで作り運転台に立たせる。
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ターレーのキットには牽引台車やトロ箱なども付属しており、これらも生かしたい。そこで連結した台車にも砲と弾薬を載せることにした。
既に機関砲を載せているので、台車にはロケット砲を載せたい……のだがロケット砲単体のキットは少なく、車載型では車体が無駄になる上に価格も高い。
のでプラ棒とプラ板でそれらしく自作する。
砲本体はわりとシンプルな形状なので自作できなくもないのだが、着火のためのケーブルは些か難儀した。たぶんこういうのは細い真鍮線などで作るところなのだろうが、生憎手持ちがないのでパテを細く練って貼り付けてみた。接着面積が小さいためなかなか張り付いてくれず、指で押して貼り付けてからピンセットで摘んで整形し余剰分を精密ニッパーでカットし……やたら手間がかかる割には精密感に欠け見栄えが悪いので、このやり方はおすすめしない。
まあそれでもなんとなく形にはなった。
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ロケット砲の弾薬はプラパイプとプラ棒を接着して適当に作る。これはトロ箱に投げ込んでおくだけのものなのであまり精密には作らない。

塗装は簡単に済ませる。
本体はオレンジイエローをベタ塗り、下面はフラットブラックをベタ塗り。台車はウッドブラウンを塗った上にレッドブラウンを面相筆でドライブラシして木目の掠れを作り、スミ入れする。
砲はダークイエローとダークグレイをベタ塗り。その後、ダークブロンズのドライブラシで全体に錆びを演出。超簡素だが結構それっぽく見える。

人は塗装に凝ると面倒なのでグレーサフのままで。あくまで主役は戦闘車両の方なので、これでもいいだろう。
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テクニカルは日本からの輸入中古車などが多く、現役当時の企業ロゴなどがそのまま残っていることも多く、それが一層武装との違和感を際立てる。
というわけでターレーに付属していた水産会社の看板用デカールを機関砲の防盾に貼ってみた。

アニメ「裏世界ピクニック」の改変意図と影響を探る

ホラーSF百合小説「裏世界ピクニック」がアニメ化された。

www.othersidepicnic.com
アニメとは「公式の二次創作」のようなものだ。小説とはまったく異なる都合に合わせて作られるため内容を完全になぞるのは難しく、必要に応じて改変が行なわれるのは当然のことではある。
ただ、裏世界ピクニックの場合、その改変理由、とりわけ順序の変更理由がよくわからない。
原作との違いを追いながら、改変の意図を探る。
(なお未放映回の内容に触れるネタバレ部分があるので注意のこと)

フェブラリー時空問題

1話「くねくねハンティング」2話「八尺様サバイバル」までは原作通りの順だが、3話「巨頭の村」はアニメオリジナル脚本であり原作にはない。こうしたオリジナルエピソードを差し込むことは珍しい話ではなく、ここまでは穏やかに見ていられた。
しかし続く4話「時間、空間、おっさん」は、(原作に於いても4話目のエピソードではあるのだが、3話「巨頭の村」によって1話分の後ずれが生じているので)実際にはこのタイミングで挟まるエピソードではなく、アニメだと5話である「ステーション・フェブラリー」(および、続く6話「ミート・トレイン」)の次にくるはずのエピソードだった。ここでまず、前後が入れ替わっている。

この入れ替えによって、「八尺様の後の打ち上げに」鳥子が小桜に売り付けようと持ってきた(が買い取ってもらえなかった)帽子をかぶったことで裏世界へ、という流れだったものが「時空のおっさん回の後にまだ帽子を持ってる」という若干不自然な流れに変わってしまった。ついでに言えば打ち上げの場を、新宿の居酒屋ではなく「時空のおっさん」回と同じ池袋のカフェとしたことで「小洒落たカフェで居酒屋メニューを食べる」という不自然さも発生している。だがまあ、これらはそこまで大きな瑕疵というわけでもない。
また原作では時空のおっさん回で「ステーション・フェブラリーから小桜にかけた電話による異言」と、「裏世界では読めないものになる表世界文字」の話から説明される、裏世界に於ける認知への干渉と恐怖を引き起こす外因の話が消えてしまった。そのため「理解ってしまった」鳥子が語る、「彼らは恐怖を通じてアクセスしてくる」という認識が裏世界真実なのかただの異言なのか、判断つかなくなってしまった。こちらはより重大だとは思うが、そもそもアニメでは全体に説明の省略が著しいため、(順序の改変それ自体によるものとしては)結果的にそこまで大きな影響を及ぼしてはいないのかも知れない。

むしろ「表世界内で複数の怪異が発生し(=表でも裏でもない「中間領域」に入り込んでいる)、裏世界へ引き摺りこまれ、空魚の目によって『ヒトをヒトでないものに置き換え』、最後に『冴月の姿をした何か』を破壊する」という高密度な物語を、前後2話構成とせず単話で描いたことによる詰め込みすぎで説明不足の方が、順序の問題よりも深刻ではある。実際このあたりで「意味がわからん」とだいぶ脱落者が発生したのを観測している。

順当に描くならば3〜4話でまずフェブラリーを、5〜6話で時空のおっさんをやるべきであるところ、敢えて逆にした理由は(物語上からは)判然としないが、これは恐らく前半の山場となるべきステーション・フェブラリーを「放送タイミングとして2月Februaryに合わせる」ためではないかと思われる。そして時空のおっさんを2話にせず、アニオリ回を挟んでまで1話に圧縮したのも、ステーション・フェブラリー回を「初の2話連続」としたかったためではないか。

敢えて時間・空間・おっさんをステーション・フェブラリーよりも先にすると、続けてきさらぎ駅救出作戦の実行が可能になる。当初はそういう狙いもあったのではないかと考えていた……のだが、アニメはなぜかきさらぎ駅からの脱出先を沖縄に設定、そのまま7話で「果ての浜辺のリゾートナイト」へと突入した。

ミートリゾート問題

実は(これは話順の変更とは全く別の問題なのだが)アニメ版では6話「ミート・トレイン」回に対する視聴者からの反応として、「親切にしてもらった米軍の忠告を無視して迷惑をかけた上に、置き去りにして逃げた」と主人公二人に対してヘイトが向けられてしまった経緯がある。実際には、米軍が親切であるとか置き去りにしたとかいった認識は描かれた内容に照らして正しいものとは言えないのだが、視聴者に「そういう印象を与えてしまった」こと自体は覆し難く、これによってもまた離脱者が続出した。
ここで次週に救出作戦が予告されていたならばそのようなヘイトなどすぐに消えただろうが、なぜか救出は後回しになった(TV版では漫画版CMで救出作戦の存在がアナウンスされているのだが、Web配信版ではそれも伝わらない)。
原作でも救出までには1話空けているので、別エピソードが挟まること自体がそこまで悪いというわけでもないのだが、流石にリゾート回を持ってくるのは失敗ではなかったか。

原作では、(他人に無関心な空魚とは対照的に)鳥子は脱出後にも米軍のことをずっと気にかけていた。冴月捜索にも米軍救出にも気が急く鳥子に対し、恐怖で気後れする空魚の意見が割れて喧嘩別れするというのが、本来の「時空のおっさん」導入部である。
そして、無事に米軍の救出を終えて心配の晴れた二人が、そのまま沖縄で羽目を外して盛大に打ち上げを行ない、泥酔した勢いでリゾートに繰り出すのが「果ての浜辺のリゾートナイト」だった。しかし、それをきさらぎ駅脱出の直後に置いたことにより、アニメでの流れは「自分たちだけ無事に脱出できたことを喜ぶ」打ち上げということになってしまい、同時に鳥子が「行きずりに少し関わっただけの米軍のことさえ放っておけない心優しい」キャラどころか「置き去りになった米軍のことなど気にせすリゾートを満喫できる」キャラに変貌してしまった。この違いはあまりに大きい。
元々この二人は、些か常識を踏み外した人物ではある。鳥子は銃を携行している程度に遵法精神がないし空魚は他人を追い払って裏世界を独占したがっており、とりわけ二人とも恐怖感覚がだいぶ麻痺している。とはいえ「敵ではない人物の直面する死を笑って見過す」ほどに善性の壊れた人物というわけではない。この部分の「改変」(意図的なものではなく、結果として生じてしまったにせよ)は二次創作としても容認し難い「解釈違い」だ。

しかも、「米軍救出のために自分の(第二話で肋戸が遺した)AK-101やマカロフを持ってきた」「空魚用に米軍から銃をもらった」救出回を挟んでいないため、「丸腰で裏世界に入って丸腰で逃げた」ステーション・フェブラリー直後であり何も武器を持っていないはずの二人が、なぜか浜辺では銃を持っている。完全に前後の辻褄が合っていない。
その上、裏世海からの脱出のために八尺様の帽子を(原作通りに)解いてしまった。これは救出作戦に於いてふたたびステーション・フェブラリーへ入り込む手段として使われるはずだったもので、つまりこの改変によって救出作戦についても原作通りには展開できなくなってしまったわけだ。

もしかしたらこのエピソードは当初、原作通りに「救出作戦→リゾートナイト」の順で放映される予定で制作されていたのではないだろうか。しかし何らかの理由で突然、「ミート・トレイン→リゾートナイト」へと接続を変更することになったために内容の辻褄が合わなくなってしまった……と考えると腑に落ちる。原作ではきさらぎ駅から脱出して西部新宿線に出るはずのシーンのみ、沖縄へ出現するシーンへと書き換えられたのではないだろうか。
ただ、何故救出を後回しにしてまでリゾート回へと繋げたかったのかはまだ見えてこない。

猫の日問題

沖縄から帰ってもまだ、二人は米軍を救出しない。次に来る8話は「猫の忍者に殺される」、実話怪異としては微妙なエピソードながら、小桜以外の準レギュラーとなる「カラテカ」瀬戸茜理と、後に裏世界探検の足として活躍を見せる「たばこ管理作業車AP-1」が初登場し、またようやく冴月に連なる手がかりを得る重要な回でもある。ただ、救出を後回しにする必要のある回とは思えない。どうやらこのタイミングに当ててきた理由は初回放送日2月22日が「猫の日」であるからのようだ。

9話以降で判明しているタイトルを見ると、9話「サンヌキさんとカラテカさん」10話「エレベーターで焼き肉に行く方法」とある。9話は「猫の忍者」に続く流れではあるものの原作では3巻収録のタイトルであり、恐らくはアニメ最終話より後の時間軸にあるはずのエピソードだ。そして10話は焼き肉というキーワードから察するに、オリジナル回というより「救出作戦」の前半部(+オリジナル改変)である可能性が高い。つまり「2話構成となる救出作戦をミート・トレイン直後に持ってくると猫の忍者放送日が猫の日ではなくなってしまう」ために、話順を変更しリゾート→猫よりも救出を後回しにしてきたのではないだろうか。

このように、アニメ版は「2月にフェブラリーをやりたいから」話順を変更し、「猫の日に猫回をやりたいから」話順を変更している節があり、ストーリー上の都合ではない理由で行われた改変が無駄に物語の辻褄を歪めているように思われる。それが面白さに寄与しない(逆に邪魔している)のでは本末転倒ではないだろうか。

追記:


ということなので、どうやら「猫の日に合わせた」は誤解だそう。
だとすれば後半の順序変更は「ふたたび2話構成となる救出回を前回と連続させず間を空けたかった」ということなんだろうか。ならば余計に、4話を先に持ってきた意味がなくなる。

他に考えられるとすれば、(この可能性は低いと思って棄却したのだが)「原作に合わせ救出まで1ヶ月近く空く」のを、放送数として視聴者にも体感させたかった?
「ステーション・フェブラリーを2月に合わせた」のが事実だとすれば、そういう「作中と現実を合わせる」形の演出意図である可能性が出てくる。本作は「現実に存在するロケーションを絡め、現実に存在する怪異譚を登場させる」ことで現実と作品内の境界を曖昧にするタイプの作品だということができ、またその体験はそのまま空魚の「架空の怪異譚だと思っていたら本当に出てきてしまった」という認識と重なってゆくと言える……のだが、作中時期では6月頃だったものを2月に合わせたりせずに放映しているし、そのような重ね合わせが強く出ているとはいえず、狙っているとしても効果は弱い。
7話以降についてもそれは同様で、敢えて重ね合わせのためだけに並び順を変えて3週間も空けるべき理由はないように思われるし、救出から最終話が(原作準拠エピソードだとすれば)連続しているべき理由もなく、やはり順序変更の意図は理解し難い。

ただ、6話→7話の雑な繋げ方を鑑みるに、あの部分は本来連続する予定でなかったのではないかという疑念は晴れず、だとすれば「1年以上前には決まっていた」脚本を、後から変更した可能性もある……のだろうか?この辺りは流石に、制作体制を知らずには結論づけることができないけれども。

自己責任抜きのサンヌキさん問題

9話「サンヌキさんとカラテカさん」に於ける怪異モチーフである「サンヌキカノ」は、読むことで呪われるとする、いわゆる「自己責任系」の怪異譚である。つまるところ、市川夏妃が「なぜ」サンヌキカノという怪異に巻き込まれたのか、までがセットになってこそのサンヌキカノであり、原作ではその情報が次話へと繋がる重要な手がかりになった……のだが、アニメでは話順──というか「どこで区切りを付けるか」の違い──によってそれが切り落とされてしまった。
まあ「謎の老婆が襲ってくる」でもホラーとして成立しないわけではないものの、(空魚が右目でおかしくした)茜理がカラテでボコる形で決着を見ることで恐怖どころか猫の忍者と同じぐらい微妙な雰囲気になってしまっている。
ついでに言えば、「時空のおっさん」時点から続く「裏世界ではないが怪異を生じる空間」=中間領域であることがアニメでは明言されず認識がボヤけてしまっていることもあって、この怪異も「夏妃が何かに呪われた」という話に落ち着いてしまい、「裏世界とはなんなのか」がますます意味不明になっている感はある。

まさかの挽回

ここまで非難を書き連ねてきたのは、原作からの乖離によって生じた歪みが「もはやここに至っては修復不能だろう」との認識故だったのだが、まさかの10話アニオリ回で挽回してきた。
3話は「2話とそれ以降の間にあって原作では書かれなかった」裏世界探検エピソードという形だったが、今回は「話の流れを変えたアニメ世界線だけの」独自回ということになる。

まず冒頭、鳥子との会話で「置き去りにした米軍のことをずっと気にしていた」と言わせることによって、「米軍を気にせずバカンスを満喫できる女」から「バカンスしつつも米軍を気にかけていた女へと軌道修正。リゾート回で八尺様の帽子を解いてしまったことで使えなくなったはずのきさらぎ駅行きの方法については、(どうやってか)再び所持可能な形態に戻せたのだということが示され、救出作戦への繋ぎとしてもまずまず。
そして序盤の印象的な「エレベーターのメソッド」を巻き込みの導入に用いつつ、中間領域のことを改めて印象づける。また、異常状況でも平静を保ち、取り込まれた茜理は心配しても巻き添えを食らう小桜の恐怖心はスルーする二人の異常性を小桜の「人の心がない」という指摘によって明示する。
これら一連の演出によって、今までのアニメオリジナル改変に基づく様々な歪みがほとんど修正されている。若干苦しいのはリゾートで何故か持っていた銃ぐらいのものだが、まあ「描かれてなかったけど米軍から借りパク(なぜかロシア制の銃までも)」ぐらいで納得しておこう。

全体として、単独エピソードとしては若干怪異それ自体には具体性を欠きつつも、しかし不穏な雰囲気と冴月の剣呑さをうまく印象付け、終盤への伏線として充分以上のものになっているように思う。

「クラロワ系」のスゝメ

スマホ向けのオンライン対戦ゲームで、俗に「クラロワ系」と呼ばれるジャンルがある*1。代表作「クラッシュ・ロワイヤル」に由来するカテゴリで、少数のカードで組まれたデッキを使い、時間回復するリソースを消費することでカードを出して戦わせ、敵陣のタワー破壊を目指すものだ。
1戦3分前後で済み、移動中の隙間時間などでも遊べる気軽な対戦ゲームである。

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クラロワ系とは

この説明ではちょっとイメージが湧かないかと思うので、もう少し詳しく説明してみよう。
ゲームの基本的な目的は、手札のユニットカードを戦場に召喚して相手陣地へ送り込み、相手のメインタワーを破壊することだ。サブタワーの方は破壊してもただちに勝利とはならないが、一定の対戦時間(3分程度であることが多い)でメインタワーが破壊できなかった場合にはサブタワーを破壊した本数の多い方が勝ちとなるし、いずれにせよメインタワーへのルートを塞ぐように建っているので、まずはこれを破壊する必要がある。

手札にあるユニットカードを召喚すると、カード性能に応じてリソースゲージを一定量消費する。ゲージはおよそ3秒程度で1づつ回復し、上限は10だ。
召喚されたユニットは自動的に敵陣のタワーめがけて進軍し、途中で敵ユニットと遭遇すれば攻撃を行なう。基本的に、ユニットの行動をプレイヤーがコントロールすることはできない。
ユニットは自陣内であればどこに召喚することもできるが、戦場は中央が水路などで区切られ左右2本の細い橋でしか敵陣に渡ることができないため、ユニットは必然的にこの橋に向かって移動することになり、渡ろうとするユニットとそれを阻止しようとするユニットが橋を挟んで衝突する。

戦場に出たユニットは自動で行動し、操作することはできない。そのためプレイヤーにできることは基本的に「ユニットを出すタイミングと位置を選ぶ」だけなのだが、ユニット同士の三竦み的な性能バランスの兼ね合いによって、ここに駆け引きが生じる。
たとえば、一撃が重い高火力ユニットは1対1では相手に大きなダメージを与えることができる。しかし小型ユニットの群れに囲まれると、どれだけ高ダメージでも一撃で倒せるのは一体のみ、攻撃の遅さが仇となってなかなか殲滅することができず、手数で押し負けてしまう。
逆に小さくて数の多いユニットは、一撃のダメージこそ小さくとも手数も多いので相手のHPをどんどん削ることができるし、敵の攻撃による被害は1体分で済むから生存性も高い。ただし一体一体のHPが低いため、範囲攻撃の一撃で全滅する。
範囲攻撃ユニットは群れ相手にこそ極めて効果的ながら、火力そのものはあまり高くなかったり攻撃速度が遅かったりするため、単体で敵と戦うには不利となる。

これだけでは、互いに相手のカードに有利なカードを出し続けるだけで膠着してしまう。そのため、複数のカードを組み合わせて弱点を補うことで容易には崩せない「隊列」を組むことになる。
たとえば高いHPを持つ「盾役」を前に置き、後ろに範囲攻撃の射撃ユニットを置くと、敵の攻撃は盾役に集中するので後方から安全に射撃できるし、盾を削るために群れが現れても範囲攻撃で吹き飛ばせる。

喩えるならば格闘ゲームに似ている。相手の攻め手に合わせ、それに強いユニットでガードすることで被害を抑えつつ、可能ならばカウンターへと転じる。
格闘ゲームならば技のフレーム数などでタイミングの駆け引きがあり、出の遅い大技に早い技でカウンターを差し込んだりするが、クラロワ系ではリソースゲージの消費がそれに相当する。大技を繰り出せば大きくゲージを消費し、次の一手が遅れる。相手の手よりも少ないコストで守り切ることができれば、コストゲージ差がアドバンテージとなってカウンターで相手を圧迫できる。
一方、格闘ゲームとは決定的に異なるのは時間感覚で、リソースゲージの回復にも召喚したユニットの移動にも時間がかかるため「相手の出方を見てからこちらの手を考える」余裕があり、基本的には防衛優位なバランスとなる。勝敗は反射的な操作精度の差などではなく、リソース量の差により「打つ手がなくなる」形で決着する。

操作が単純で素早さを要求されず、また通信的にもシビアでないため、モバイル向け対戦ゲームとしていくつものタイトルがリリースされている。
課金スタイルは本家クラロワからほぼ一貫してPay2Winで、「カードを買う」ことで戦術幅を広げ、またカードごとのレベルを上げて性能を向上させる方式となる。だがプレイ報酬などでカードは順次入手できるし、レベルキャップの存在とラダー制などにより、無料プレイでもそう極端な不利は生じにくい。

おすすめクラロワ

基本にして至高、本家「クラッシュ・ロワイヤル」

2016年の登場からもう7年が経過しているが、勢いは衰えを知らない。いつでも5秒でマッチングできる快適さはプレイヤー層の厚さを感じさせる。
eスポーツタイトルとして大会も開催され、今でも定期的に新カードが投入され続けている。
始めるならまずはこれから。

SF=ファンタジー融合の新機軸「ソウル・オブ・エデン」

本家クラロワはオーソドックスな西洋ファンタジーをモチーフとしており、ゴブリンやスケルトン、あるいは騎士や弓兵などを召喚して戦う。絵柄は良くも悪くもシンプルで物語性は薄く、「対戦」に注力したデザインだ。その影響から後発にもファンタジーものは多いが、少数ながらSF系や近現代戦ものなども存在し、またよりキャラクター色の強いものなどもある。
そんな中にあって、やや独自性の強い現役タイトルが、台湾RayArkの「ソウル・オブ・エデン」だ。

ソウル・オブ・エデン Soul of Eden

ソウル・オブ・エデン Soul of Eden

  • Rayark International Limited
  • ゲーム
  • 無料
apps.apple.com
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これはSFとファンタジーが混在したようなイメージで、4系統の種族それぞれに戦術が異なっているのが特徴である。
機械系ユニットの多い「共和国」や、昆虫と軟体動物を併せたような「異種」はRTSスタークラフト」やミニチュアゲーム「ウォーハンマー40000」的な雰囲気を持っている。獣人を中心とした「獣族」と、魔法を用いる人族の「帝国」はさしずめ「ウォークラフト」か「ウォーハンマー エイジ・オブ・シグマー」の方か。

本家クラロワとはルールもかなり違い、
・戦場が分断されておらず、タワーは1本のみ
・ユニットの配置を分散可能
・デッキは30枚
などの差がある。

クラロワでは戦場が中央で分断され橋のみで繋がっているため、侵攻ルートが橋からの直線コースにほぼ限定される。そのため迎撃体制を整えやすく、橋を挟んで膠着しがちだが、ソウル・オブ・エデンは戦場がひとつづきなので進軍を阻むものがなく、防衛線が横に広い。そのため単純に言えば攻勢有利なデザインになっている。
その代わり、ユニットカードを出すとき「指でなぞった線に沿って均等配置」できるという特徴がある。たとえば横一線に出して足止めしたり、敵一体を囲んで集中砲火を浴びせたり、あるいは縦列を作って一度に接敵する数を抑えたり、左右に分けてブロックされにくくしたりといった、柔軟な運用が可能で、これによって戦場全幅を効率良く活用でき、ユニット配置の駆け引きが広がる。
また1デッキ8枚のクラロワとは異なり30枚構成なのでデッキに投入できるカード種類が多く、そのぶんだけ戦術幅が広い。

基本的なところでは同じでも、細部の違いが意外に大きく、異なったゲーム体験を生んでいるように思う。
クラロワは初めてという人にも、慣れている人にも、新たな体験としておすすめの1作だが、残念ながら3年が経過してだいぶプレイヤーが細っており、マッチングしにくいのが難点。

クラロワのようでクラロワでない「ウォークラフト ランブル」

RTSの代表作として名を馳せ、MOBAやTDなど様々なゲームジャンルを生み出した名作「ウォークラフト」を1on1の対戦ゲームに仕立て直した一作。
基本ルールはクラロワだが、独自要素によって「クラロワでありながらウォークラフト」に仕上がっている。
warcraftrumble.blizzard.com

特徴的なのは、戦場にリソースを増加させる「鉱山」や「宝箱」が存在し時間回復とは別に追加リソースを得られること。これによってコストアドバンテージの確保が重要になっている。
またマップが立体的かつ1画面に収まらない構成のため全体を把握しにくく、RTS同様に「手薄な隙を狙う」動きをとりやすい。
ソロプレイモードが充実、PvPは同一レベルに揃えられるため本家クラロワのようなP2Wではないイーブンな条件で対戦できる。

*1:成立の経緯などからRTS(リアルタイム・ストラテジー)やTD(タワー・ディフェンス)と呼ばれることもあるが、一般にRTSは資源回収・建築・研究開発・生産などを探索・戦闘と並行して行なうジャンル、TDは敵の侵攻ルートに防御施設を建て進軍を阻むジャンルで、ゲーム性はまったく異なる