光の散乱を楽しむ、オールドレンズ遊びのための「宝石レンズ」


宝石レンズと呼ばれる特殊レンズがある。
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マニュアルフォーカスレンズの内部、たぶん後玉の前あたりにカッティングされた宝石を取り付けたもので、これによってレンズ内部で光が散乱し、他のレンズでは見られないほどはっきりしたフレアやゴーストが得られる。いわゆる「オールドレンズ」遊びに於いて好まれるような性質を極端にしたものだ。



宝石のカットパターンや色によって色の乗りや散乱の出方も変わる。1枚目の青いものはサファイアの入ったレンズで、2〜3枚目のものはルビーの入ったレンズで撮影している。

このように、普通のレンズではちょっと出ないような色かぶりと派手な散乱光こそが宝石レンズの持ち味で、このエフェクトを得るためだけの特殊なレンズとして、一種のフィルタのように使うことになるだろう。

もっとも、フレアが生じるのは逆光に近い角度で光が差し込んでくる時だけなので、それ以外の条件下では案外普通のレンズとして使える(中央に光を遮るものがあることでボケがリングボケや二線ボケになることを気にしないならば、だが)。

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ただし、普通のレンズとは決定的に使用法が異なる点がひとつある:絞りの機能だ。

宝石レンズは、絞り開放ではさほど強いエフェクトを生じない。しかし絞ってゆくと光が強まる。そして、絞り続けるとそのうち開口部の径が宝石よりも小さくなり、つまり光がまともに入ってこなくなり何も見えなくなってしまう。
手持ちのレンズのうち、MD ROKKOR 50mm F1.7を改造したレンズの例を示す。

F1.7 F2.8 F3.5 F4 F4.8 F5.6 F6.7 F8 F9.6 F11 F16

このように、絞ることでフレアの出方が変わる。ただ、F5.6あたりからは被写体がはっきり見えなくなり、F8ぐらいになるともうルビーの赤い色しか見えなくなっている。
従ってこのレンズでは絞りを被写界深度の調節を目的に使うことが難しく、主にエフェクトの強さを制御するために使うことになる。

効果的なエフェクトの出し方には慣れが必要だが、概ねレンズに対する光源の角度が重要なポイントとなる。
下に簡単な実験を示す。
これは手持ちのLEDライトを用い、被写体とカメラの位置を固定したまま、ライトの照射角のみを真正面(逆光)から被写体の真横までずらしていったものだ。

厳密に角度を測ったわけではないし、恐らく宝石レンズの元となったレンズによっても発生角度は異なると思うが、だいたいのイメージとして捉えて頂くと良いだろう。
なお、端の方にギリギリでエフェクトが残るぐらいの角度にセットした状態と、それを上から撮影したカメラ=被写体=光源の位置関係を示す写真が次の2枚となる。

なにぶんフレアを生かすレンズであるため撮影条件はかなりシビアで、基本的には水平に近い入射角の日光が期待できる日の出直後や日没前のわずかな時間にしか使いどころがないが、その代わりうまくハマった時の効果は他のレンズでは得られないドラマティックなものとなる。
また夜間でも照明を逆光気味に入れれば結構フレアを出すことができるので、このレンズを付けて夜の街に繰り出してみるのもいいかも知れない。
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