読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ノベルゼロの初回刊行分をサンプリング

書物

KADOKAWAが新レーベルを創刊した。ノベルゼロ、主に30代の男性をターゲットとした「大人向けライトノベル」的位置付けである。
novel-zero.com
装丁は無地で、上1/3には黒文字だけ、下2/3を絵入りの大帯で覆うという「ライトノベルっぽさとライトノベルっぽくなさを併せ持った」デザインパターンはなかなか洒落ている。
とはいえ本の価値は見た目ではなく中身で決まる。普段あまりライトノベル系を読まないので作者についての前知識もなく、短かい紹介文のみで判断するのは流石に厳しかったので、とりあえずKindleのサンプル版をダウンロードしてみることにした。

個別評

三浦勇雄「皿の上の聖騎士」

伝説の甲冑が纏われた瞬間、新たな神話が開闢る。

フィッシュバーン家には伝説がある。大国レーヴァテインがまだ小さな辺境国だった頃、ご先祖様が大陸中の霊獣を訪ね歩いて防具を授かり、集まったそれらは一着の聖なる甲冑と成った。
――それが全ての始まりだった。

近世ヨーロッパ風の純異世界ファンタジーな「勇者の子孫」もの。ただし能力も武具も、受け継いだのは主人公ではなく姉。読める範囲では武具の来歴と姉の人となりぐらいしか語られないので、面白い展開になりそうかどうか判断しかねる。硬い口調だけど積極的に弟をかまう姉と、それに反発というか逃げたがる弟の姿は割合キャラ色強めな感じか。

師走トオル「無法の弁護人」

この弁護士の策略(トリック)に、誰もが騙される――

理想に燃える新人弁護士の本多は、初めての刑事裁判で苦戦を強いられていた。やむを得ず彼が助力を求めたのは、「他人のウソを見破れる」とうそぶく不敵な男、通称“悪魔の弁護人”だった――。

法廷ものと思われる。ミステリ系なんだろうか。若く頼りない弁護士が「悪魔の弁護人」を訪ね……というところまででサンプルは終わってしまうので、正直面白くなるのかどうかよくわからない。

杉井ヒカル「ブックマートの金狼」

元トラブルシューターの書店店長が裏社会の問題に挑む――

東京・新宿のど真ん中に位置する『くじら堂書店』店長を務める男・宮内直人はかつて伝説的チームを率い、裏社会にまで名を轟かせた元トラブルシューターだった。そんな彼の元に、久々の《トラブル》が舞い込み……?

冴えない雇われ店長だけど実は高い戦闘力を……というところまではわかった。最初は本の話ばかりなので本好きとしてはちょっとばかり好感度上がる。とりあえずサンプル段階で物語が「動いた」感が得られたところも好感触。

伊藤ヒロ峰守ひろかず「S20/戦後トウキョウ退魔師」

ソノ男共、怪力乱神ヲ語ラセズ

敗戦後の混沌とした日本を生き抜く男が二人、おりまして、その名、茶楽呆吉郎と襟之井刀次と申します。不死の呪いに機械仕掛け。そんな二人が掲げる看板は、『不思議問題解決承リマス』

オカルト系の異能バトルものか。個人的には文章がやや装飾過剰に思われるのと、いかつい筋肉系と怜悧な美貌系で見た目と役割が逆っぽいのがなんか引っ掛かったが、その辺はまあ好みの問題。

青木潤太郎「インスタント・マギ」

青年の《科学》が《魔法》に到達した日、彼を巡る魔法使いの戦争が始まった。

科学者の青年が、魔法陣の映像電子ドラッグで脳にストレスを加え、一時的に超能力者《インスタントな魔法使い》になる方法を発明した。それが原因で、青年を巡る本物の《魔法使い》の戦争が引き起こされてしまい……?

「魔法を科学(っぽいもの)で説明しようとする」のはライトノベルとは相性の良い分野で、脳科学方面となればシュタインズ・ゲートなどの「想定科学」系好きにも縁浅からぬ感じだ。そのへん期待できるが、サンプルの範囲ではほとんど「美少女魔術師と頭の良い青年の同棲もの」。

扇友太「竜と正義」

人魔調停局実働部--捜査開始!

人間と魔物が共存する現代。人魔社会の平和維持のため、調停局の新人実働官ライルは今日も事件と、上司であるオーロッドの叱責と戦っている。第9回MF文庫J新人賞・最優秀賞受賞作が加筆修正、完全版として登場。

どうやら「モンスターデイズ」というタイトルで刊行された作品のリライトらしい、「人と魔が混じり合って暮らす社会」の捜査官もの。なかなか好みの設定だし勢いも悪くない。今回の6サンプルの中では一番楽しめたぐらいだが、どうにも「魔物が人に変化して一緒に暮らす」という社会の描かれ方が気になって仕方ない……「なんでヒトに合わせる形で融合してるんだ」というのと「なんで主要キャラ紹介イラストぜんぶ人型で描かれてるんだ」というのと。

総評

昨今のライトノベルの平均的な文章力がどの程度なんだかほとんど知らないので判断は難しいが、総じて力量に定評のある作者を擁立している感じはある。あからさまにチートハーレムっぽかったりしないのは「そういうのに飽きた」ぐらいの、しかしがっつりSFとかに移行するほどでもないぐらいの読者層を狙ってる感じなんだろうか。30代向けとはあるが、執筆予定者の中には水野良友野詳秋田禎信など1990年代前半のライトノベル初期を支えた名も挙がっているあたり、あのころ中高生ぐらいだった30代後半〜40代前半ぐらいもターゲットなんだろう。
今のところ、買って続きを読んでみるとしたらインスタント・マギか(ただ「美少女と同棲」てあたりが正直ちょっと私にとっての地雷感あって引っ掛かっている)、ブックマートの金狼かな……