ディストピアを歌おう

Amazarashiの「古いSF映画」という曲がある。

amazarashi - 古いSF映画(Furui SF Eiga)

すでに世界は汚染されて マスクなしじゃ肺がただれて
瓦礫の如きメトロポリス 未開の惑星みたいな地球
逃げ込んだ先は地下室 ただし80000km2の
昔はシェルターと呼ばれていたが 今じゃ都市と呼んで差し支えない
人工太陽 人工植物 そもそも人工じゃないものはない
ほぼ人間と変わらぬAI 誰もそれに疑問は抱かない

特定の映画を指すものではなく(元となった作品はあるだろうが)あくまで「かつて描かれたディストピア世界」という漠然としたものを歌っているのだが、これほどストレートにディストピアを表現するものはあまり聞かないな、と思ってふと「そもそも他にディストピアの歌はあるのか」が気になった。

まず私のライブラリをざっと眺める。滅びや歪みを歌うものは少なくないが抑圧的なもの(あるいはそれへの反抗)を併せ持つものはあまり見当たらず、あるとしてもディストピアというより「反戦」方面のテーマに思われる。たとえば人間椅子はおどろおどろしくはあっても絶望的でなく、ナチュラルに絶望を歌に乗せてくる谷山浩子やたまは奇妙な世界ではあっても抑圧された社会ではない。意外にディストピアというのは難しい。
たぶん所有曲の中で一番ディストピアっぽいイメージなのはMOONRIDERS「歩いて、車で、スプートニクで」あたりではなかろうか。

記憶のすべて 置いて行けるか 来たるべき知性に
記録のすべて 白紙にするか 去り行く怪物

具体的にこれは、というほどの内容ではないのだけれども。
曲調で言えば「物は壊れる 人は死ぬ 三つ数えて目をつぶれ」もいいような気がするが、こちらはもっと内省的な感じの歌なのでなんか違う。

次にGoogleで「ディストピア 曲」を検索してみた。結果から抜粋する。

暗めの曲ウケが良いボカロ系が多いのはなんとなく予想通りだが、アイドル系の曲が多いのは予想外。ただ、ざっと歌詞を検索してみた限りではどちらもあんまりディストピア感なさそうだった。そもそも曲調に暗さがない。
ボカロといえば、タイトルに入ってないので検索にかかっていないが「こちら、幸福安心委員会です。」はディストピア系か。明らかに「パラノイア」モチーフだし。

ご紹介頂いた情報を追記。そうそう、こういうのが欲しかったんですよ。


ところで「古いSF映画」の歌詞のモチーフとなったディストピアSF、うちひとつが
ブレードランナーなのは確実だろうと思うけど、「人類が住めなくなった地上を捨てて地下に移住する」作品ってどれなんだろう。私の知識範囲では「エンバー 失われた光の物語」ぐらいしか出て来なかったが、もっと古い作品がありそうな気はする。

『エンバー 失われた光の物語』予告編
ざっと過去の映画から「荒廃した地上と地下生活を送る人類」な感じのものをピックアップしてみた。

  • ラ・ジュテ - Wikipedia
    • "第3次世界大戦後のパリは廃墟と化し、戦争を生き延びた数少ない人類は、勝者の支配者と敗者の奴隷に別れ、地上から地下へ逃れて暮らしていた"
  • メトロポリス (1927年の映画) - Wikipedia
    • "ゴシック調の摩天楼がそびえ立ちメトロポリスと呼ばれる未来都市では、高度な文明によって平和と繁栄がもたらされているように見えたが、その実態は摩天楼の上層階に住む限られた知識指導者階級と、地下で過酷な労働に耐える労働者階級に二極分化した徹底的な階級社会だった"
  • 映画 来るべき世界 - allcinema
    • "英国の架空都市エヴリタウンが突然敵機の襲撃を受け、以来20年の戦争が続き、町は独裁者の支配下となる。だが、その体制も自由都市の支援攻撃で滅び、伝染病の猛威などを乗り越え、エヴリタウンは超近未来都市を地下に建設"
  • 少年と犬 (映画) - Wikipedia
    • "核戦争により世界は荒廃し、文明社会の名残は微塵も残っていない。放射能が原因の遺伝子異変で、地上にはほぼ女性がいなくなってしまっていた"
    • "地上とは違い戦争も飢えもなく、男たちと共に多くの女性たちが暮らしているという地下社会"
  • ダークシティ - Wikipedia
    • 地下世界モノではないけど、"町全体は太陽のない“闇”に支配されている"
  • THX 1138 - Wikipedia
    • "人名すら番号で管理されている25世紀。人々は広大な地下都市内で支給される精神安定剤を服用しながら、感情も娯楽も規制された単調な日常を送らされていた"