「ダンジョン飯」1巻発売を記念して

九井諒子初の長編連載が単行本になった。作者の持ち味である「フィクションではオーソドクスな展開が現実的な考察によって変な感じになる」方向性をそのままに連載へ持ち込んだ作品である。

1ページ目はほぼウィザードリィな感じでスタート。広大な地下迷宮の存在と、そこへ潜って生計を立てる冒険者たちが描かれる。レッドドラゴン相手に全滅の憂き目を見るパーティ。我が身を顧みず緊急退避魔法で仲間を助けた僧侶、亡骸を回収し蘇生を目指すメンバーたち……ごく普通の(ゲーム寄り)ファンタジーものだ。
が、飯の話から展開がおかしくなってくる。

そう、飯だ。
当たり前だが人間は飯を食わねば動けない。腹が減っては戦はできぬ、何はともあれ飯が必要だ。
しかし何日もかけて攻略する広大なダンジョンに、その日数をまかなうだけの食品を持ち込むのは結構厳しい。となると現地調達が視野に入ってくる。
モンスターにも色々いるが、物理実体を持たぬものや無機物などはそれほど多くない。だいたいは生物的な存在であり、有毒でない限りは食べようがある。
問題は味だ。いかに栄養が豊富であれ、旨くない飯はそれだけで士気を下げる。どんなモンスターを、どのように捕獲し、どう調理すれば良いか。そのためにはあらゆるモンスターの生態を、体構造を、味を、網羅的に知らなければならない。これはもはや博物学の世界だ。

というわけで架空の博物学にまつわる作品をいくつか挙げてみよう。

博物学フィクション

スチームパンクめいたスペースオペラにしてハードSF。銀河博物誌<1>と銘打ってあるものの2巻以降の出る気配がない。期待しているのだが。

言の葉遊学/ご近所の博物誌 (白泉社文庫 わ 2-10)

言の葉遊学/ご近所の博物誌 (白泉社文庫 わ 2-10)

田舎の村にやってきた博物学者ののんびり観察生活。底抜けに能天気でありながらちょっぴりの寂しさを含む、博物への愛に満ちた作品である。

ダンジョン飯RPG

ゲーム内での食糧問題についても触れておこう。
一般に、ゲームでは現実的要素のいくつかが(ゲーム的にあまり面白くないので)意図的に無視されており、「空腹」もそのうち一つである。ちょっと進めては飯のために戻る、あるいは飯の調達ができずジリ貧に追い込まれる、そんなゲームをやってもストレスがたまるばかりで面白みが少ないと考えられているのだろう。

しかし世の中には「空腹度」パラメータを持つゲームもいくつかある。現地で食糧調達できるゲームとなると更に限られる。代表的なところでは「ダンジョンマスター」「モンスターハンター」「迷宮キングダム」「トリノホシ」などだろうか。

ダンジョンマスター

ダンジョンマスター

1987年発売の一人称視点3DダンジョンRPG。ダンジョンから一歩も出ることなく攻略を進める。常に時間が進行しており、戦闘中だろうが休息中だろうが移動するモンスターと遭遇戦に突入する緊張感溢れるゲームであった。魔法は単語(を示す記号)の組み合わせによって処理され、たとえばフル(火)で明かりを灯し、フル+イル(翼)で火の玉を射出する……などの形を取る。
町がないので店もなく、食糧はすべて宝箱から得るか倒したモンスターの肉で賄うが、調理の観念はない。
iOS に移植されているようだ。
Dungeon Masters Free

Dungeon Masters Free

  • SUPE, LLC
  • ゲーム
  • 無料

モンスターハンター4G

モンスターハンター4G

言わずと知れた有名ゲーム。大型武器で大型モンスターを狩ること自体が目的。ダッシュや回避などのアクションでスタミナを消費、これは自然回復するが、時間経過によってスタミナ上限そのものが減少するため食事によってそれを補わなければならない。主な食糧として解体したモンスターの肉を加熱調理し、その出来次第で回復力が変化する。

迷宮キングダム (新・王国ブック)

迷宮キングダム (新・王国ブック)

「世界がダンジョンに閉じ込められた」世界を舞台とするTRPG。プレイヤーは国王および宮廷の重鎮として周辺地域を平定し王国を治めるが、その王国ももちろんダンジョンの中にある。
多くのTRPGでは単なるフレーヴァーとして軽く扱われがちな食事問題が、このゲームではたいへん重要な意味を持つ:HPが低く回復手段が少ないため食事による回復が欠かせない上に、連続で食事を抜くとダメージが発生する。他に疲労処理もあるため探索期間はそう長く取れないが、そもそも1回のセッションで攻略するのは3×3部屋の四畳半ダンジョンであるため縦深行軍の必要はない。

博物SFフライトシム。水ばかりで陸地の少ない未調査惑星に墜落した主人公が、鳥(に類似した原住生物)の習性を観察し渡り鳥をガイドに陸地を見付けて裏側にある基地への帰還を目指す。
もちろん食糧など持ち合わせないので食べられそうなものを採取・調理してサイバイバル生活するしかない。発見した動植物には自由に命名できるので、自分だけの博物図鑑が綴られる楽しみもある。