個人販売作家が望むもの

手作りの物を売るというのは昔から行なわれてきたことではあるが、最近はPCと周辺機器によって専門の機材を持たない個人でもクオリティの高いものを量産できる体勢が整いつつあり、昔とは状況が変わってきた。
変わったのは制作環境だけではない。販売を取り巻く環境もまた、大きく変化している。

見せる

何らかの制作をやっていて、最初に求めるのは「発表の場」だ。
純然たる個人の趣味として始めたものであっても、やはり他人からの反応が欲しくなるもの。知人に見せる以外の方法としてまず最初に考えるのは「Webへの掲載」だろう。
Web上での発表は「個人のホームページ+同好の掲示板」あたりから「ブログ」→「SNS」へと変化してきた。今ではスマートフォンの普及もあって「その場で撮ってすぐ載せる」が可能になり、発表は極めて手軽になった。また、モノ以外でも絵、漫画、小説などの専門SNSや、音楽/ダンス/アニメーションなどの動画投稿や「生放送」など、多岐に渡る表現形態が網羅されており、発表には事欠かない。

売る

見てくれる人は多くても感想をくれる人はそう多くない。けれど「言葉では伝えない好意」というものはあって、それは例えばSNSでの「お気に入り」などのアクションによっても得られるものではあるのだけれど、販売という方法を取るとそれが「お金を出しても欲しいもの」という形でより具体化される。
反応を直接感じやすいのは対面販売だが、自分で店舗を経営するのはなかな無謀な挑戦である。まずは即売会などイベントへの参加を考えるべきだろう。小説や漫画、評論などは古くから同人誌即売会があるが、それ以外の制作物についてもクラフト系即売会は色々あるし、あるいは地方のフリーマーケットなどへの出店も可能だ。

継続的な販売を目指すのであれば店舗への委託か、通信販売を行なう必要がある。

委託販売で最も手軽なのは「レンタルボックス」形式だ。これは店内の棚ひと区画だけを借りるもので、月あたり数千円程度のレンタル料と販売時の20〜30%程度の手数料を支払うことで販売を代行してもらうやり方である。無審査で棚だけ貸す店舗と審査ありの店舗があり、もちろん前者の方が手軽ではあるが、店内に統一感がないため固定的な客層を得にくい傾向がある。後者はクオリティだけでなく店の雰囲気とのマッチングも要求されるが、うまく行けば注目度は高い。
またレンタルボックスでなくても、雑貨店によっては委託販売を受け付けている場合がある。こちらも審査ありで、売れた分について30〜50%程度の販売手数料を支払うことになる。

信販売ならば、もっとも簡単なのはオークションの利用だろう。最近では詐欺防止なども兼ねて複数の決済方法や事故/詐欺の補償などもやってくれるので使いやすくなった。ただ原則として1点モノの取引を前提としており、また「定価」というものを持たない仕組みなので販売とはちょっと手応えが違う。

普通に通販したいなら、レンタルのオンラインショッピングカートを使う方法がある。少数ならばメールで申し込みを受けて入金口座を知らせる、などの方法でも対応可能だが、メールだと迷惑メールフィルタに引っ掛かって気付かないとか、在庫管理がリアルタイムにできないので申し込んだのに在庫切れとか、ちょっと面倒が生じることもある。それなりの数を売るようになったならショッピングカートを使った方が安心だ。

ところで販売にあたって注意がひとつ:価格設定の際は制作の原価だけでなく手間や依託手数料なども考慮して高めにつけておくこと。そうでないと趣味が高じて本格的に販売するようになってきたときに困るし、また「趣味だから儲け度外視で手間や原価のかかったものを」という人たちが相場感を破壊し、安いものしか売れないようになることで他の作家が困る。価格破壊が引き起こす先にあるのは「自分の好きだった作家が制作をやめてしまう」世界だ、ということを肝に命じておくべきだろう。

送る

販売が軌道に乗ってくると、新たな悩みが生じる。
ひとつは在庫の置き場問題:材料や販売前の完成品をストックしておく場所が必要で、細々とやっているつもりでも商品の種類を増やすたびにそれらが溜まってゆく。販売が順調であるほど必要性は高まり、生活区域を圧迫する。理想的には「アトリエ」を別に用意する方式だが、それとて制約は緩くなるものの圧迫と無縁ではない。
もうひとつは販売にかかる作業の手間だ。

対面販売の場合だと「お金を受け取って商品を渡す」だけだし、依託の場合は「売れた分を補充し、手数料を引いた代金を受け取る」だけで済むが、通販の場合はそれ以外に色々な準備が必要になってくる。具体的には、

  1. 入金を確認する
  2. 商品を揃えて箱詰めする
  3. 請求書や納品書を書く
  4. 宅配便のラベルに送付先を書く

1件あたりの作業量としてはそれほどでもないが、件数が増えてくるとなかなか大変だ。特に入金確認は問題で、これによって商品に「売約済みだが(入金確認待ちで)出荷できないもの」と「入金確認済みなので出荷できるもの」「売約のないもの(在庫)」という3状態を区別して管理せねばならない。
また宅配便ラベルも問題で、通常のものだと手書きする必要があるため結構な手間となる。印刷ラベルの貼り付けで対応する場合、送付方法が制限されたり配送業者との契約が必要になる場合がある。

なんにせよ、販売にかかるこれらの手間に忙殺されると制作の時間が取れなくなってしまうし、制作に専念するとしばらく販売を休まざるを得ない。悩ましい問題だ。

というわけで、遊星商會では架空ストアさんに販売をお願いしてみた。

通販での依託販売に特化した雑貨店で、納品しておけば商品の発送もすべてお任せできる。
最大の特徴は「抽選販売が行なえる」ことだろう。人気が高騰しすぎて商品が瞬殺される作家の場合、「時間の制約が厳しすぎて購入できない」問題が発生してしまうが、抽選制ならば早いもの勝ちではなくなるので購入の望みが出る。作家側にしても、応募者数が見えるので需要の量を把握しやすく、その後の生産計画に役立つという利点もある。

包む

作品にもよるが、特にサイズの小さな商品などは普通、商品のみを単体で販売することはあまりない。台紙を付けたり袋や箱に収めたりといった一手間が必要になる。また値札や帯、タグなどを付けることもある。
商品点数が多くなってくると、意外にこの作業の手間も馬鹿にならぬものがある。これらは商品価値を生むものではないが、印象を整え価値を高める役割を果たすから疎かにはできないが、かといって手間をかけすぎてしまうと例によって制作の時間が奪われもするのでバランスが難しい。しかも量産する場合、基本的には単調な作業であるから飽きてくる。
内容にもよるが、こういうのは可能ならば依託してしまうのが良い。たとえばパッケージに用いるタグや箱などは印刷会社に発注可能だし、組み立てや同封などを受けてくれる作業所もある。

募る

制作で一番悩ましいのは「いくつ作るか」だ。材料の購入にせよ製造にせよ、ある程度の量をまとめて発注した方が原価を抑えられる。けれどもたくさん作ればそれだけ在庫を抱えてしまうし、売ってみるまではどの程度の需要が見込めるかを読むのも難しい。売れ残りを恐れて少数しか作らなければ高くつくし、あっという間に売り切れて再発注する羽目になるかも知れない。再発注したらしたで、「たくさん売れたからってたくさん作っても、実はもう欲しい人がだいたい買っちゃった後なんじゃないか……」なんて悩んだりする。
最初から購入希望人数がわかっていれば、作るのもそう難しくないのだが。

そんなわけでクラウドファンディングである。
予約販売に近いが、「購入希望者の合計が目標に達しなかったら作らない」点が異なる(予約の場合は少数でも販売せざるを得ない)。段階的な目標設定によって、予想より多く集まったらその分で特典を付けたりもできる。
製造側としては、需要が読み易く、リターンが確実に得られる利点がある。購入者としては、成立しなかったら払わなくていいし、成立すれば希望が叶い、予定より多く集まれば特典も付く。どちらにとっても嬉しいことだ。
ただ、問題は「達成した場合の販売がどうなるか」だ:既存のクラウドファンディングはどうやら「目標達成すると申込者の情報と集まった金額がプロジェクト主催者に渡される」だけで、その後の動きには関与しないようだ。しかし既に述べたが、制作者にとって販売にかかる負担は少なくないものであるので、できればそこに忙殺されるのは避けたい。「販売の代行まで引き受けてくれるクラウドファンディング」があれば利用するのだが。