ボードゲームとコラボレーション

こんな記事を見た。
ボードゲーム市場構造の課題点と対策について考えてみる: ボドゲ神拳 -お前はもう考えている-
うん、まあ言いたいことは解る。ボードゲームの国内市場規模は確かに小さいし、拡大のためには購買層をもっと増やす必要がある。「遊ぶけど買わない」潜在顧客層が勿体ない。
が、そのための具体策が「コラボ」だけではなぁ……というのが率直な感想。

なんでコラボじゃ駄目なのか

そもそもボードゲームは知名度が低い、というのは誰でも解っていることで、知名度を上げる方法としてのコラボ案などは今までに考えられなかったはずもない。にも関わらず実例がほとんどない、ということ自体がこの提案の難しさを物語っている。

ボードゲームを知らない人に知ってもらうために有名コンテンツを利用する」と、言うのは簡単だが行うはそう簡単でない。そもそも知名度を利用できる立場にあれば既にやっているし、なければ「買う」しかないわけで、ただでさえ市場規模が小さい=かけられる予算が少ないボードゲームでキャラ利用権をライセンスなんぞ、そうそうできるものではない。

ついでに言えば効果の程も正直怪しい。
かつてカプコンが自社のそこそこ人気あるキャラ「ロックマン」をあしらったカタンをリリースしたことがある。しかし実際に売られているところは見たことがないし、ロックマン人気からプレイ人口が増えたという話も聞かない。

ロックマン ロックマンエグゼ ストリーム カタンスタンダード

ロックマン ロックマンエグゼ ストリーム カタンスタンダード

あるいはTRPG分野では90年代後半頃に、やはり「原作コラボでTRPGを知らない人にアピールしよう」という流れがあって盛んに原作付きタイトルが登場したのだが……これもあまり芳しいものではなかった。この手のゲームは原作キャラのなりきり的な側面が強く、「これを入口に他のTRPGにも興味を広げ」るような方向性ではなかった、というのが実情だ。ボードゲームとは異なる事情ではあるものの、いずれにせよ単にコラボというだけでは駄目で、やるなら効果的な方法を模索する必要がある。

どうしたら買ってもらえるのか

「知ってるけど買うには至らない」人の方はある意味更に難題だ。「楽しさを覚えてもらおう」なら一度遊んでみれば良いが、「買いたいと思わせよう」となると方法がほとんどない:なにしろ買わないロジックがボードゲームの宿命である「相手がいないと遊べない」こと自体にあるわけで。

ボードゲームを積極的に買う人は、だいたい「あちこちのゲーム会などに顔を出す」「仲間内に広める」傾向があるのではないかと思う。こういう人にとっては、「自分が持っておけば確実にプレイできる」=「他に持っている人のいない環境で遊ぶ」ことを想定しているわけで、これが多分一番大きな購入の動機だ。
翻って買わない人を見ると、つまりはその逆:「同じメンバーでばかり遊ぶ」「他に広める相手がない」。だから自分が買わなくても持っている人がいれば用が足りてしまう。
ということは、「決まった相手とばかり遊ぶのではなく色々な人と遊ぶ方が楽しい」「普段の仲間以外とも遊ぶために買っておきたい」と思わせる環境が必要、ということになる。

他のゲームもやってほしい

ロックマンカタン自体はあまり効果を上げなかったようだが、実はカプコンは同時にロックマンのないカタンも制作しており、これは従来のドイツ版に比べ

  • 専門店だけでなくおもちゃコーナーなどにも置かれ、入手しやすい
  • コンパクトなパッケージで保管・携行しやすい
  • カプコンが発売するという知名度で注目されやすい

ことにより結構売れた。従来のボードゲーマー以外にもカタンの知名度を広げ、少なくとも一時的に人口はかなり増えたように思う。
ただ、残念ながらボードゲーム市場全体の活性化には至らなかった:新たに入ってきた人たちはほとんどが「カタンだけ遊ぶ」人だったからだ。これは現在の「人狼」ブームにも共通することだが、1タイトルの面白さが伝わったところで他のものにまで広がらない、という問題に直面している。

究極の人狼 第2版 完全日本語版

究極の人狼 第2版 完全日本語版

これがコンピュータゲーム機の場合だと、そもそも本体を購入する時点で結構な投資が必要になるためソフト1本ではコストパフォーマンスが悪く、有効活用のために他のソフトを求める動機が生じるのだが、ボードゲームの場合は単体完結する分だけ他に手を広げる理由が薄い。

システム面から考える

以上から「買う気にさせる」システムに要求されるのは

  1. 一人でも遊べる
  2. 色々な相手と遊びたくなる
  3. 他のゲームもやりたくなる

ような仕組み、ということになる。
1を実現するシステムはつまりソロゲーム、もしくはTCGのような「事前の準備自体が面白い」ゲームといったところか。
2はちょっと難しい。プレイヤーごとに手がある程度固定されるような仕組みで、かつ人によって手が変わるような構造を入れるとなるとTCGめいたデザインになると思うが、かつ「すぐに組み換えて別の手を出してくる」わけに行かない遊びとなると……ユニットの購入にそれなりのコストがかかり、塗装の手間が必要なミニチュアゲームぐらいしかないんじゃなかろうか。しかもこれ、わりとネガティヴな要素だ。
ポジティヴに処理するなら、「相手を変えることに特典がある」感じになるが……コンピュータゲームであれば「実績」システムなどで実装のしようもあるけど、ボードゲームではなかなか良い手を思い付かない。定期的に追加パックをリリースして、かつプレイの度に交換することに意義のある仕組みを取り入れる?やっぱりTCG的な形態になってしまう。
3は……拡張セットのような形で消費を拡大する方法では1タイトルから外に広がらない点に変わりがないので、「拡張セットだが独立したゲームとしても遊べる」もしくは「複数のゲームに対応する拡張セット」みたいなものができないだろうか。ゲームAのカードをゲームBに追加すると違うバランスで遊べます、とか。

プレイ環境から考える

ゲームシステム自体に「他のゲームも買いたくなる仕組みを組み込む」というのはやや無理筋の感がある。余計なものを盛り込むと、しばしばゲームとしての面白さを損なったりもするし。できればゲームをとりまく環境自体を変えていった方がいい。
とはいっても、「遊ぶけど買わない」人たちに一番多いであろう「仲間内だけで遊ぶ」環境そのものに変化を加えるのはちょっと難しいものがあるので、「あるゲームに興味を持つと他のゲーム情報も出てくる」状態を作る方法を考えるのが適当かな、と思う。
ネットで調べるような層に対しては、各ゲームの基本テクニックを紹介する総合的情報サイトでも作ってしまうのが早いような気がする。カタンの攻略方法を調べるとサイドメニューに様々なゲームタイトルが、キャッチコピー付きで並んでいる……とか、記事の下に「このゲームで遊んでいる人は他にこんなゲームでも遊んでいます」とか。
積極的に調べない人たちには……漫画とかTV番組とかの形で「色々なゲームがプレイされるところ」が見られるようになるといい、のか? 一応そういうのもあるんだけども、正直あまり効果を発揮している気がしない。

http://www.bs4.jp/entame/tgn/
ボードゲームをメインテーマに据えてしまうと、アピールしなくていい(=もうボードゲームをよく知っている)人にばかり見られて本当に見て欲しい(=ボードゲームをよく知らない)人には見てもらえないように思われる。つまり、ボードゲームが「重要な役割を担っているけど脇役」ぐらいのポジションにある人気作品が成立すれば……

あれか、「ボードゲーム探偵もの」とかを書けばいいのか。作中に登場するボードゲームが事件の手掛かりとなって……いやこれ映像化された時にはまあそれなりに見栄えがするかも知れんけど、文章でゲームを説明する必要が出てくるので小説としては厳しいような……

探偵(遺留品を見て)「おや、これは……ガイスターの駒ですね」
警部「ガイスター?」
探偵「オバケを取り合う、チェスみたいなゲームですよ。互いに良いオバケ4体、悪いオバケ4体を持って、手駒の良いオバケ4体を相手陣地側の出口から逃がすか、悪いオバケ4体を相手に取らせれば勝ちです」
警部「ゲームの駒……直前まで被害者と犯人が遊んでいた?」
探偵「だとすれば顔見知りの犯行ということになりますね。もしくは……関係者に宛てた何らかのメッセージなのか。たとえば──『あと3人殺す』という意味なのかも」

みたいな。いやこれで作中のゲームに興味持ってくれるかというと甚だ怪しいものだけど……