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レビュー:庄司創「勇者ヴォグ・ランバ」

勇者ヴォグ・ランバ(1) (アフタヌーンKC)

勇者ヴォグ・ランバ(1) (アフタヌーンKC)


勇者ヴォグ・ランバ(2) (アフタヌーンKC)

勇者ヴォグ・ランバ(2) (アフタヌーンKC)

近年稀に見る、ハードなSF漫画である。タイトルや絵柄からはちょっと想像し難いが。

物語はほとんど説明なしに進行する。人命や地名からこれが架空の場所を舞台にしているらしいとは判断できるし、人物の眼前空中に展開するウィンドウから現実世界よりも技術の進んだ世界であるらしいと推測できるが、それ以上の情報はない。
かと思えば、装甲車両が何故か馬に牽引されている。そし「半竜」が登場し、魔法のような「発現」技術。歴史の話に言及するに至り、どうやらこれは地球上の架空の場所などではなく、我々の知る世界に似てはいるが別の世界であるらしいと知れる。

本作には架空世界としての様々な独自設定が見られるが、中でも中核となるのがペインフリーである。
人を苦痛から解放し、恐怖に囚われない理性的な判断を可能とする技術。これが──これとの関わりが「勇者ヴォグ・ランバ」の主要なテーマとなっている。

技術的な手法を用いた脳への干渉によって苦痛を断ち、誰もが安定した精神を持って幸せに暮らす世界。生死が表裏一体であり死を否定したものが既に生者ではなくなるが如く、苦痛を否定したことによる幸福とは恐らく幸福ではない何かだ。
世界全土をひとつにまとめ上げた「ペインフリー体制」と、その体制を覆そうとする「覚醒派」。言うなれば革命というかテロルというか、国家どころか世界全体の政治体制を打破する話──なのだが、実のところその物語自体はあまり重要ではない。実際、作中でも序盤の「覚醒派体制を整える」までの活動については描かれるが、「体制を覆しにかかる」部分では既に主人公はリーダーの座を退いており、顛末はわずか1話で描き終えている。
つまるところ、重要だったのは「技術による意識への干渉」及び「意識とは何かという問い」そのもの、あるいは「新たな社会体制」であって、それに伴う状況説明は半ば余録というわけだ。

全体に難解な作品である。
物語としてはさほど複雑な筋ではないのだが、設定上クローン体が複数登場し、様々に体を「乗り換える」ことすら可能であるために、表面的な描写から状況が把握し難い。しかも説明的描写が少なく、至るところ状況から設定を読み解くことを要求してくる。恐らく、二度三度と読み返さなければ理解の及ばぬ部分が出てくるだろうと思われる。ただそれは決してネガティヴな要素ではなく、「読む度に発見を得る」味わい深い作品に仕上がっているように思う。

しかし正直なところ、これが連載作品であるというのはなんとも信じ難いほど挑戦的だ。単行本で一気に読んでさえ把握し難いのに、1話ごとに切って(しかも1ヶ月も間を空けて)読むと何がなんだかわからない読者も多かったのではないかと心配になる。実際、私も色々誤解していたし。