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選挙争点としての原発問題を整理してみた

今回の選挙では改憲やらTPPやら国土問題やら、様々な話が持ち上がってきて状況の整理が難しいが、まあ正直、最大の焦点は原発の扱いだろう。ひとたび事故が起これば広い範囲に長期的な影響をおよぼすという、解っていた筈のことを改めて浮き彫りにしてしまった、この厄介な代物をどう扱うかについて、改めて考える。
考え得る態度としては、主に3つ。

  1. 原発の利用を継続し、老朽化したものは廃炉し新造する(継続派)
  2. 現行の炉のうち老朽化していないものは継続利用するが、新造せず耐用年数を待って順次廃炉(漸減派)
  3. 原発を即時廃炉する(全廃派)

細かく分ければ条件付き賛成とか、色々あって明確に3つに分かれるわけではないと思うが、まあ大きく分ければこんな感じかと思う。

それぞれの長所短所……の前に、まず現状認識を。

電力

要約:このままではジリー・プアー(徐々に不利)。

震災まで、日本中の電気の1/3程度は原発によって賄われていた。これが一気になくなったことで、現在電力の供給は逼迫している。2011年の夏には原発だけでなく火発なども大きくダメージを受けたこともあり輪番停電にまで追い込まれた。その後原発を除く発電施設の復旧や設備追加などによって、以降はどうにか停電せずに来ているが、この冬も11月時点で既に電力不足に陥るギリギリの線まで迫る日が何日もあるなど、とてもじゃないが楽観視できる状態ではない。

電力は、その性質上「足りない分だけちょっと下げる」ようなことができない。「余力ギリギリまでは100%、オーバーしたら即座に停電」と考えて頂きたい。既に、東京電力では他電力会社からの借り入れを足しても余力が3%を割り込むところまで追い込まれた日があった。停電はギリギリのところで回避されているに過ぎない。

3割もの電力供給源が停止している今、不足分は主に火力が補っている。普段なら順番に休止させてメンテナンスしながら使うものを、原発の穴を埋めるために止むを得ずフル稼動ている状態だ。ブラック企業どころではない酷使状態で、短期的にはともかく長期的にこのような運用を続けるのは無理と言わざるを得ない。
従って、既存原発を再稼動しないのであれば、新たな発電所の増設が不可欠となる。ただ、発電所の建設には(設計・申請・環境調査の類を除いて)工事だけで2〜3年かかる筈で、短期的に解決できる問題ではない。
原発ほどではないとしても、発電所の事故というのは大災害である。また事故により一挙に発電量が下がれば、その瞬間に大規模停電を引き起こす可能性も充分に考えられる。酷使状況を続けることが得策でないのは間違いない。

原発をどうするにせよ、電力の供給増加は急務だ。「70年代には足りてた」などと寝言を言う人もいるが、当時と今とでは人口も電化割合も全く違う。今更50年も前に戻ることなどできはしない。
よしんば家庭については「我慢する」「代替手段を講じる」で済むのだとしても、製造業についてはそうも行かない。電子機器は電圧の変化が深刻なダメージになるし、薬品や食品などではセンサーによる監視の下、厳密な温度管理が欠かせない。大型の機材では「一度止めると点検に数日かかる」ようなものも少なくなく、不測の停電のみならず計画的停電も広い範囲で製造業に影響を及ぼす。
そういうものは回り回って、品不足や売り上げの減少などの形で個人の生活に影響してくる。電力の不足は今や他人事ではない。

要するに、「今はなんとか乗り切れてる」ではあっても「充分に足りてる」ではないということだ。どこかで根本的に解決する必要がある。

コスト

要約:安く抑えるなら再稼動一択。インフラコストの上昇は直接的に経済を悪化させる。

原発を代替する火発の燃料コストも深刻な問題だ。既に、2012年の燃料コスト増加が全電力会社合計で3兆を上回るとの試算も出ている。無論、電力各社は営利企業であるから、そのコスト増は当然ながら電気料金の値上げという形で我々の負担となって顕れる筈である。
とはいえ、新造もまた時間とコストの問題を抱える。原発の建造コストは他方式に比して格段に高く、時間もかかる。それだけ慎重にならざるを得ない方式であるからには致し方ないが、差し迫った電力逼迫を解決するには、他発電所の増設と同じく時間が足りないし、コスト的にも燃料費を上回る増資が必要だ。

そもそも、原発は維持にも廃炉にも長い時間と多大なコストがかかる。つまり、停止している原発は電力も利益も生まないばかりか逆にそれらを一方的に消費する存在であり、これを全廃して置き換えるということは更にその上に新たな発電所のコストが上乗せされることに他ならない。

どのような形にせよ、電力会社が新たに巨額のコストを負担するのであれば、(当然の営利活動として)それは電気料金に上乗せされることになり、家計だけでなく全製造業のコストに跳ね返ってくる。つまり物価全体の上昇と減収である。

危険性

要約:原発の危険性見積りは誤差が大きいが、他の発電と比べ圧倒的に危険というわけではない

あらゆる原発は、ひとたび事故を生じれば半径数km〜数十kmに及ぶ立ち入り禁止区域を発生させ、また多かれ少なかれ放射線による健康への影響を生じる。
……ということを念頭に置いて、さて原発の危険性とはどの程度だろうかと考えてみよう。

まず言っておかねばならないのは、「すべての原発が福島第一のような事故を引き起こすわけではない」ということ。構造欠陥で事故を起こしリコールされた自動車があるからといって全ての自動車が同様に危険ということにはならないのと同じことだ。しかしまた、自動車である限り事故の危険性がなくならないのと同様に、原発である限りは放射線事故の可能性がなくならないとも言える。

非常に古い型である福島第一原発では全電源喪失に陥った時、非常冷却の手段が存在していなかった。この構造の危険性は既に認識されており、より新しい原発では同様の状況に陥ると重力だけで水が自動的に流れ込む構造を取るなど、安全性に関して改善されている。
また燃料ペレットの扱いでも、(酸化燃焼を利用しない核燃料では密封しても効力に問題はないので)個別にセラミックでコーティングし、たとえ炉心が溶融し燃料粒が剥き出しになったとしてもウラニウムプルトニウムが空気中に露出しない構造のものも研究されている。
そうしたことも考慮するならば、原発の危険性とはむしろ「古い型を継続使用すること」によるもので、新型へ置き換えるならば深刻な問題には至らないと考えることもできるだろう(もっとも、原発は構造材そのものが放射化されてしまうため処分には数十年かかり、新型へのリプレイスそれ自体がそう簡単ではないという問題を抱えてもいるのだが)。

ところで、炉心が剥き出しとなって多量の高濃度放射性物質を飛び散らせ、その上事故隠蔽のために防護なしで多数の作業員を投入し、また食品の規制で後手に回ったチェルノブイリ事故では多数の死者や広範囲にわたる健康被害を出したが、炉心が剥き出しにもならず、避難についても食品規制についても対応の早かった日本では被害は極めて軽微に抑えられた。いや半径30kmにも及ぶ立ち入り禁止区域を発生させただけでも充分すぎるほど深刻な被害なのだが、事故そのものの規模を考えれば予想外に軽い被害ではないかと思う。

最後に、他の発電方式と事故被害程度を比較してこの項を終える。

一度の事故で発生する被害で言えば、水力は極めて影響が大きい。例えば中国・河南省の板橋・石漫灘ダム決壊事故では18の村々1500戸が押し流されたし、また田畑や家畜の喪失、水源の喪失により飢饉が発生したという。ただし原発と違い、水が引けば土地はまた利用可能にはなる。
火力は発電所そのものの事故では(数的には)それほど大きな被害を出してはいない。とはいえボイラー爆発で作業員死亡など、ものが火だけに原発よりも直接的に死者を生じはする。また、燃料となる石油や石炭の採掘等ではしばしば大規模な爆発火災事故を生じ、それによる死者は甚大である。

事故の安全性は「一度の被害」だけでなく「発生頻度」にもよってくる。墜落すれば100人単位で死者を出す航空機が、それでも国内だけで年間数千人もの死者を出す自動車より総合的には安全であるように、原発の被害が極めて大きいとしても、事故率が他方式より格段に低いのだとすれば比較して安全ということになるだろう。

政府の国家戦略室が発表したPDFでは今後生じ得る事故発生頻度を複数想定しているが、前提の取り方によって(国内事故で)10年に1度〜2000年に一度とかなりの開きがある。また、これはあくまで「既に生じた事故と現存する炉数から簡単に計算したもの」に過ぎず、必ずしも実際の炉の事故発生率を反映するものではないことに留意されたい。
また、同資料には他の発電方式で発生した事故数、死者数、発電量あたり死者数についても比較している。これを見る限りでは火力の事故数の多さ、水力の事故あたり被害者の多さ、それに比して原子力の死者数の少なさがわかる(無論これは必ずしも公平な比較とは言えぬ面があり、少なくとも原発だけが持つ放射能による長期的な影響までは反映されていない結果なのであるが)。
とはいえ、重大事故数の少なさを鑑みても、少なくとも「原発が突出して危険」ということはない、とだけは言えるだろう。

まとめると

論点は概ね「安全性」と「経済性」に集約される。

原発の扱い 安全性 経済性
新造 ×
漸減
全廃 ×

まあ「原発を新しくする」ことの安全性評価に関しては意見の分かれるところかも知れないが、少なくとも「とりあえず再稼動はする」派と「絶対再稼動しない」派で言えば、対立は「原発と他の発電方式とどっちが安全か」「経済への悪影響をどうするか」に集約されるかと思う。

本来、こんな話は1年も前にもうすっかり争点が整理されていたはずのことだ。しかし実際には、今に至るまで立場を異にする人同士が互いの認識をすれ違わせ続けているように思われる。そんな状態のまま選挙に至ってしまった今となっては遅きに失した感が否めないが、微力ながらとこんなものをまとめてみた次第。