屍者の帝国 用語集IX

目次

第三部

I

ポール・バニヤン
米国の入植者間のほら話に登場する樵夫の巨人。靴の中に溜まった砂をぶちまければ山脈ができ、水をひっくり返せば大河ができる。青い巨牛ベイブを引き連れている。
ウィリアム・シュワード・バロウズ
米国の発明家、起業家(1857–1898)。キー入力式加算装置を開発し計算機市場を開拓、後のユニシス社となる企業を率いた。孫に同名のSF作家がいる。
ミリリオン
10の3003乗。企業の性質から見ても、これは10の100乗を表すグーゴルを社名に戴いたGoogleのオマージュであろう。
ロチェスター
オンタリオ湖南岸の都市。ボシュロムイーストマン・コダックゼロックスなど光学機器・イメージング企業が軒を連ねる。→地図
サンフランシスコ湾
北アメリカ大陸西岸の南北に細長い湾。太平洋への出口にあたるゴールデンゲート海峡には金門橋がかかる。→地図
マウンテンビュー
サンタクルーズ山脈を見渡す、サンフランシスコ湾南端の都市。後のシリコンバレー地域に位置する。地図
金門橋
全長2737メートルの、鉄骨組み吊り橋。史実では1937年の完成だが、恐らく本作世界では解析機関の発達などにより工学分野に於いて数十年分の進歩を遂げていると思われる。
バラム
聖書に登場する、イスラエルを堕落させたという占い師。
プロヴィデンス
神の摂理」を意味するロードアイランド州の都市。かのH.P.ラヴクラフトの出身地である。 →地図
バッファロー
エリー湖東端の都市。「地下鉄道」と呼ばれた奴隷逃亡補助組織の終着点であり、この地でバプテスト協会に匿われ、のちフェリーでカナダへ渡ったという。→地図

II

ダイヤモンド・スタック
初期機関車に見られる煙突上部の菱形状部分。内部に金網を張り、火の粉を煙突外に排出しないようにする装置。
カウ・キャッチャー
線路上から牛をどかすための、機関車下部前方に突き出した三角突起。
シエラネバダ山脈
北アメリカ大陸西部、カリフォルニア州ネヴァダ州の境界に位置する山脈。
大陸横断鉄道
リンカーン大統領の元制定された太平洋鉄道法に基づき、大陸の東西にそれぞれ国策鉄道会社が設立され大陸を横断するルートを開拓した。着工から6年後に開通。本作では「グラントの功績」とあるが、史実では「グラントが大統領になって2ヶ月後に開通」したに過ぎず、これもまた史実とは違う流れがあったのかも知れない。
ユニオン社
ユニオンパシフィック鉄道。東部鉄道網の最西端であったネブラスカ州オマハから西に線路を引いた。
セントラル社
セントラルパシフィック鉄道。カリフォルニア州サクラメントから東に線路を引いた。
ユタ州
米国西部の州。モルモン教徒により開拓され、米墨戦争でメキシコから割譲された。史実では当時まだユタは準州だったが、本作世界では既に州に昇格しているのかも知れない。
プロモントリー・ポイント
大陸横断鉄道の東西連結点。この場所で記念式典が行なわれ、最後のレールに金の犬釘が撃ち込まれた。→地図
パナマ地峡
南北アメリカ大陸を結ぶS字状に曲がった狭い地帯で、最狭部では幅64km。1914年にはパナマ運河が開通するが、この時点ではまだ大西洋-太平洋連絡には(最短の大陸横断鉄道である)パナマ地峡鉄道を経由しているようだ。→地図
ゴールドラッシュ
1848年のカリフォルニアに於ける砂金の発見に端を発した移民ブーム。小さな開拓村に過ぎなかったカリフォルニアはわずか2年で州にまで発展し、またその影響により環境の破壊や近隣先住民の殲滅など様々な問題も生じた。
ゴースト・プロトコル
非合法な諜報員に対する、政府の関与を否認する宣言。所謂、スパイ大作戦の「例によって君もしくは君のメンバーが捕らえられ、或いは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで」。またスパイ大作戦の映画版シリーズ4作目のサブタイトルでもある。
スプー
諜報員の隠語だが、一義的には「おばけ」、所謂「白い布を被った何か」。
ルナ協会
1765年にバーミンガムでエラズマス・ダーウィンによって開かれた科学者の会合で、満月の晩に開催された。科学者同士が当時先端の知識を交換し合う場として機能し、また発明者と起業家を結び付けて産業を発展させたとされる。

III

ロードアイランド州
プロヴィデンスを含む、米国東部の州。極めて小さいが、米国独立時の13州の一つである。完全な信教の自由を保障し、様々な宗派の信徒を受け入れて発展した。
ジャーンの書、ドジアンの書
原記はBook of Dzyān、忘れられしセンザール語の象形暗号で記された最古の写本、とブラヴァツキー夫人が主張するもの。ネクロノミコンの原書ではないかとする説もある。
ウィチグス呪法典
小栗虫太郎黒死館殺人事件」に登場する稀覯本ブラウンシュワイク普通医学校に留学していた医学生、降矢木算哲が法術士ロナルド・クインシイから譲り受けたものの一つで、記述に拠れば他には「ルデマール一世触療呪文集、希伯来語手写本猶太秘釈義法(神秘数理術としてノタリク、テムラの諸法を含む)、ヘンリー・クラムメルの神霊手書法、編者不明の拉典語手写本加勒底亜五芒星招妖術、並びに栄光の手」などが含まれていたとある。
チャールズ・ダーウィン
史実では進化論の提唱で知られる生物学者だが、本作世界では進化論の提唱者はあくまでもウォレスであってチャールズ・ダーウィンではない。

IV

エラズマス・ダーウィン
英国の医師、哲学者(1731-1802)。生物学に「進化」の概念を提唱した人物。
ロバート・ダーウィン
英国の医師(1766-1848)、エラズマス・ダーウィンの息子。
ジェームズ・ワット
英国の発明家(1736-1819)。初期蒸気機関の熱効率を高め、また力の単位としての「馬力」を定めた他、書類複写手法や漂白のための塩素生成など、機械工学だけでなく幅広い分野で発明を行なった。これらの事業化にはルナ協会での人脈が大いに影響している。力学の単位に名を残す。
マシュー・ボルトン
英国の起業家(1728-1809)。ワットの蒸気機関の事業パートナーとなり、産業革命を支えた。また偽造の多かった硬貨を蒸気機関によるプレスを用いて改鋳し、偽造困難な新貨幣を作った。
ウィリアム・マードック
英国の技術者・発明家(1754-1839)。ガス灯の発明で知られる他、ワットの元で蒸気機関の改良や初期の蒸気機関車の試作、またいくつかの化学面での発見も行なっている。
ジョン・バスカヴィル
イギリスの印刷業者(1706-1775)。黒ワニス塗装で財を成し、印刷業を始める。明瞭で精細な印刷で業界に影響を与えた。
ベンジャミン・フランクリン
米国の物理学者、気象学者、発明家、政治家(1706-1790)。印刷業者として成功を納めた後、図書館や学術協会、大学などを設立、またアメリカ独立宣言の起草者の一人でもある。数々の発明をしたがいずれも特許を取らず、無償で公開している。日本では特に凧を用いた雷の研究で知られる。
国章制定委員会
米国の国章は独立時から3委員会の案を経て6年かけて制定された。最初の委員会にフリーメイソンリーであったベンジャミン・フランクリンがいる(が、史実ではプロヴィデンスの眼を提案したのは彼ではない)。

V

ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ・フォン・ネッテスハイム
ドイツの魔術師(1486-1535)。数秘術を基礎とした魔術体系を築き上げた、近代魔術の祖として知られる。悪魔に命じて屍体を操ったとする伝承がある。
アルベルトゥス・マグヌス
ドイツの神学者(1193頃-1280)。哲学の研究、とりわけアリストテレスの著書への膨大な注釈で知られるが、一方で錬金術に精通し、星辰の力で自律動作する陶製の人造人間を造り上げたという伝説がある。
ライムンドゥス・ルルス
カタルーニャ文学者、隠秘学研究家(1232–1315)。自動で文字列を生成する機械仕掛けによって世界の真理を得る術「ルルスの円盤」を開発した。
ピコ・デラ・ミランドラ
イタリアの哲学者(1463-1494)。神学討論に於いて「人間の尊厳(あるいは自由意志)」を説き、人には何にでもなれる力が備わっており、怠惰に従えば植物に、本能に従えば動物に、理性に従えば天使となり思想に生きれば神にさえなると主張した。またカバラに精通した初めての非ユダヤ人ともされる。
フリードリヒ・ハインリヒ・アレクサンダー・フォン・フンボルト
ドイツの博物学者、地理学者(1769-1859)。主に南米を中心に広い範囲を調査探検し、経緯度や気象などの要因と植生の関連性を指摘。種の記録を中心とした博物学から環境科学への発展の礎を築いた。
ライエル
英国の地質学者、法律家(1797-1875)。地質学原理を著し、聖書にある短期間での世界創造を否定し長い時間の繰り返しによる地層形成を明らかにした。「長い時間の中で小さな変化の積み重ねが大きな変異をもたらす」という概念は、これを愛読したダーウィン自然選択説の示唆を与えたという。
プリマス〜チリのヴィヴァルデ
ビーグル号二度目の航海の経路を参照。
ガルガンチュアとパンタグリュエル
16世紀の風刺譚。ガルガンチュア及びパンタグリュエルという名の巨人の荒唐無稽な物語であるが、既存権威への批判が多く含まれ禁書に指定された。
トマス・アーカート
上記書を英訳した翻訳者、作家(1611-1660)。チャールズ2世が王位に就いたと聞いて、笑い死にしたと言われている。
菌株
ここでは菌という言葉を用いているが、青い結晶を構成していたことなども考え合わせるに意図するところは「ウィルス」ではなかろうか。この時代にはなかった用語であるのである種の菌という理解の上で語られているが。
N、mobilis in mobili
「海底二万マイル」にてノーチラス号に掲示されたモットー。Nはネモ船長を表す。
ベリーブラザーズ&ラッド
英国最古のワイン商。1698年にロンドンのセント・ジェームス宮殿の向かい、セント・ジェームス街3番地に店を構え、爾来300年以上商売を続けている。