屍者の帝国 用語集VI

目次

第一部

VIII

ロバート・ウォルトン
英国で1818年に組織された2つの北極探検隊のうち、極点到達を目指した隊の船長。衰弱したヴィクター・フランケンシュタイン博士を発見、姉に宛てた手紙に会話の内容を書き残している。
バヴァリア
インゴルシュタット大学の存在するドイツ・バイエルン州の英名。
ストランド・マガジン
英国の月刊大衆誌。シャーロック・ホームズシリーズの3作目、「ボヘミアの醜聞」を掲載し人気となり、次第にミステリー専門誌の様相を呈した。現実では1891年創刊だが、この世界ではもっと早いようだ。
メアリ・シェリ
英国の小説家(1797-1851)。社会思想家を両親に持ち、詩人との交友を持った。史実ではバイロン卿の別荘で行なわれた怪奇小説の執筆会から「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」を著したが、本作世界ではヴィクター・フランケンシュタイン事件の顛末に脚色を加え、匿名で小説として発表している。
バイロン
英国の詩人(1788-1824)。美貌で知られ、数々の女性と(あるいは男性とも)浮名を流す。詩人としても著名ながら、「プログラマーの母」エイダの父としても知られる。
ウィリアム・ゴドウィン
英国の社会思想家(1756-1836)。メアリー・シェリーの父。倫理的共産主義者無政府主義の先駆者。
マルサス
英国の経済学者。「人口は幾何級数的に増えるが食糧は算術級数的にしか増加せず、従って貧困は避けられない」とし、人口論を著す。
モリス
詳細不明だが、文脈からし無政府主義的思想家だろうと思われる。フランスの国家社会主義者モーリス・バレス(1862-1923)だろうか。
マルクス
ドイツの思想家カール・ハインリヒ・マルクス(1818-1883)。資本主義批判、共産主義理論の大家。
オークニー諸島
英国ブリテン島の北に位置する諸島。
アダム・ヴァイスハオプト
ドイツの実践哲学者、インゴルシュタット大教授(1748-1830)。人類の倫理的完成可能説を唱え、啓蒙結社イルミナティを主催した。
イルミナティ
ラテン語で「光に照らされたもの」を意味する、バヴァリアの啓蒙結社。「人類の倫理的完成可能説」を謳い、また権力の否定に基づく無政府主義的社会を目指したようだが、結社から僅か8年で活動を禁じられ解散したため詳細についてはよくわかっていない。
ペルフェクティビリスムス
ある主の超人思想。現在の人間を不完全な存在と捉え、何らかの手法で完全なる人間への到達を目指すものであるらしい。多分にカタリ派グノーシス主義の影響であろうと思われるが、本作世界に於いては否応なしに「人造の人間」たるフランケンシュタインの怪物を想起せずには居られない。
サンニコフ島
1811年にロシアの探検家ヤコフ・サンニコフ(生没年未詳)及びマトヴェイ・ゲデンシュトロム(1780頃-1845)がノヴォシベリスク(新シベリア)諸島の測量中に発見した小島。ただし現実では、その後度重なる探索が行なわれたが再発見されることはなく、幻島とされる。
サモワール
ロシアから中央アジアにかけて用いられる伝統的な金属製の湯沸かし容器。ポット中心を貫く管に燃料を入れ湯を沸かし、下部の蛇口から注ぐ。また上部にティーポットを置き保温する。
ブリン
ロシアのクレープ的な薄焼きパンケーキ。日本では複数形ブリーヌィの方が通りが良い。
ワシリー・カラージン
不明。文脈からしてテラ・フォーミングに関わる人物であろうと思われるが、当該情報なし。コメントにてご教示頂いたが、『フョードロフ伝』にてハリコフ大学の創立者、天候操作技術の提唱者として言及される人物とのこと。
テラフォーミング
本来は地球外天体を人類の生存可能な環境に改造することを指すが、現時点では当然その域にはない。ここでは恐らく(史実では)1918年に発案されたアムダリア川流域砂漠地帯の大規模灌漑を指すものと思われる。
ヌースフィア
地球進化の過程に於ける「精神圏」。地球を一個の「生物」的なものと見做し、その発達過程として無生物状態の「Geosphere」、生物発生以後の「Biosphere」、人間発生以後の「Noosphere」があるとし、またこうした変化の萌芽は当初から地球が持っていたものとする。
フリーメーソン
最も有名な秘密結社。結社の存在自体は公然としたものながら会の目的や会員、入会儀式などは公表されない。神智学教会やゴールデン・ドーン、イルミナティなど複数の秘密結社の設立に関係があるとされる。
薔薇十字団
1614年ドイツで出版された書物により存在を知られた秘密結社。15世紀頃に成立し、不老不死の実現と教皇制の打破を目的としているとされ、また錬金術に精通していると考えられているが、実体は定かでない。
カタリ派
キリスト教によって異端思想とされた民衆運動。グノーシス主義の影響を受け世界の創造者を悪神とし、生まれながらにして罪人である人間を増やさぬことを善しとし生殖を認めず、また生殖の産物である肉を食べず、世俗を断つことで「完全者(ペルフェクティ)」に至ると考えた。
アダムの言葉
太初に於いて人間が持っていたとされる言葉、バベル以前の言葉。
ハーバート・スペンサー
英国の社会学者(1820-1903)。生物学に於ける進化論から社会進化論を着想し、適者生存の概念を提唱、これは逆に進化論に受け入れられた。
ルフレッド・ウォレス
英国の生物学者(1823-1913)。ダーウィンとは独立して自然選択説に到達し、特に競争原理のみでなく地理的要因を含む環境圧力による適者生存を唱えた。ダーウィンが進化論を発表していない本作世界では「ウォレスの進化論」として認知されている。
ハクスリー
英国の生物学者トマス・ヘンリー・ハクスリー(1825-1895)。公開での討論を好まなかったダーウィンに代わり進化論を弁護したとして知られる。
デミウルゴス
ギリシャ語で「職人」を意味する語で、グノーシス主義に於いて造物主を指すが、この世界が悪に満ちた不完全なものであることからデミウルゴスもまた不完全な存在であるとした。

XI

機密ミスティリオン
ロシア正教に於ける概念で、「目には見えない神の恩寵を、目に見える形であらわす行為」を示すとされる。しかしここでの語はむしろ一般的な「共同体が所属構成員に対し公開せぬよう要請した情報」の意味で扱われているように思われる。
「長い目で見れば、俺たちはみんな死んでいるんだぜ」
経済学者ケインズの言葉。バーナビーは「どんな事件が起ころうが、どうせ最後にはみんな死ぬんだ」という諦観と楽観の混ざったようなニュアンスで発しているが、元は恐慌などの経済危機に対し古典派経済学者が「長期的には均衡に陥って安定するので介入は必要ない」という見解を示したことに対し「 長期的に見ている余裕などない」ことを示した言葉である。