東電の補償に伴う電気料金値上げを考える

激甚災害による免責特例が適用されないのであれば、東京電力無限責任に基づき原発事故により生じた健康被害・経済被害について補償せざるを得なくなる。国が一部引き受けるとすれば税金で、東電が全額を負担するとなれば電気料金で賄わざるを得ず、いずれ回り回って我々自身がその一部を負担することになるのは間違いない。
勿論、この事故の責任は国と東電のみが担うのではなく、間接的とはいえ国政を支持し*1東京電力を利用してきた者に等しくかかる責任であると言える。その意味では、国税を投じるのではなく東電管内から賄われるのが筋というものだろうと思う。


さて。
仮に東電が全額を補償するのだとしたら、それにより生じる損害はどれほどになり、それは電気料金の値上げにどのように反映されるだろうか、考えてみる。
まず、補償の額について考えよう。http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20110410/CK2011041002000068.htmlによると福島県内の避難者数は3000人ほど。ひとまずこの全員については健康だけでなく財産面でも大きな被害を受けたものとして考える必要があるだろう。
その他に、広範囲に散飛散してしまった放射性物質による累積的な被曝も考慮せねばなるまい。こちらは総数の把握が困難(飛散範囲と被曝線量、および長期的影響可能性のどこまでを補償の範囲とするかについての判断が難しいため)だが、ひとまず暫定数として浜通り - Wikipediaの人口推定を採用することにしよう:53万7千人。合計で54万人が補償の対象者となる。
補償額はいくらぐらいが妥当か。これも事例により様々であり国内では被曝事故による補償例がなさそう*2なので算定が困難だが、国外原爆被害者への補償額が110万円/人というのを参考に、暫定的に一人あたり100万円×53万7千人=5370億円としよう。その他に、住処も失った3000人については少なくともその10倍程度は認められて然るべきと考え、暫定的に1000万円×3000人=300億を計上する。
その他に産業への被害を考えねばならない。福島県 - Wikipediaによると福島全県での経済規模は農業関係1931億円、畜産関係513億円、漁業関係160億円となっており、計2604億円/年が「放射性物質の飛散により被害を受ける」産業である。
実際には福島のみに留まらぬ部分もあろうかと思うが、影響範囲を考慮し始めると話が難しくなるので、これも暫定的に「福島県全体」を影響範囲と考えることにする。
この被害は単年ではなく、放射線量が閾値以下に収まるまでの間継続的に発生するものである。主に問題となっているセシウム137、ストロンチウム90の半減期はおよそ30年であり、30年後でも半減しかしないので閾値次第では100年単位の話になりかねない。まあ単なる金銭的補償に留まらず、植物を利用した土壌浄化など回復手段についても東電の責任下で着手せざるを得まいが、どんなに早くても10年ぐらいはどうにもならないと思う。
とりあえず、ここでは(例によって暫定的に)年間3000億×20年=6兆円を経済補償額としておこう。


次に、原発及び核燃料の処理費用を考えよう。東海原発廃炉費用は1基あたり885億円になったという(解体作業費用、廃棄物の処理費用含む)。時代によって金額にも違いが出るので単純計算はちょっと難しいが、これまた大雑把に「現在なら1000億円」としておこうか。福島第一原発では6基あるので全廃として6千億。もっとも事故を起こした炉は色々とイレギュラーな処理を追加せざるを得なかったのでもっとかかると見て、暫定的に1兆円とするか。まあこれらは今後数十年かけて処理可能なので、年単位での額はそれほどでもない。20年かけての処理ならば500億/年で済む。


次に東京電力の資金力について考える。東京電力ホールディングス - Wikipediaによると売上が単独で4兆8044億円。業績予想|株主・投資家のみなさま|東京電力ホールディングス株式会社を見ると2011年第三四半期決算で売上51,650億に対し純利900億なので単純にこの比率を年間売上に適用すれば年間の純利は8371億円ぐらいか。初年度の補償額9000億円程度に少し足りないが、内部留保もあるので払えないような金額ではない。また経済補償についても年間3000億であれば純利の40%程度で済む。思ったよりもダメージがない。


もっとも、この計算はあくまで福島一県のみを算出基準としたもので、北関東や南東北の他県にまで拡大適用されれば優に数倍の額に、また海洋汚染などの影響次第では更に膨れる可能性がある。仮に5倍とすれば初年度4兆5千億円、以降1兆5千億×19年。
流石にこのぐらいの額となると尋常ではない。http://infosecurity.jp/archives/8355によれば東京電力及び関連会社の連結内部留保(親会社と連結子会社の連結剰余金、資本準備金、退職給与引当金などの合計)は4兆890億円だそうだ。これが即時全額を補償に引当可能な形態の資産なのかどうか私は知らないが、仮にそうであっても初年度4千億円ほどの不足、以降7千億の不足。ごく単純に言えば売上を倍増させなければ賄えない額だ。
つまり、この試算値に従うならば「東京電力の電気料金が2倍になる」ことになるかと思う。

*1:当選した候補に票を投じていなくても結果を支持するのが民主主義である

*2:バケツでウラン事件は未だ補償が決定していない