SFとしての新世紀エヴァンゲリオン

遅ればせながら「破」を観た。新キャラなんなんだとかこの後どう引っ張るんだとか、まあその辺は置いといて、今回一番感銘を受けたのが「海洋生態系保存研究機構」のくだりであった。


新劇場版では、海の色が赤く染まっている。これ確かTV版にはなかった設定だ(ガギエルの画像検索から、当時の海描写が青かったことを確認した)。何で染まったものかはともかく、どうやらこの水には生物が住めないらしい。そんな世界で人類はどうやって命を繋いだのだろう?流石に水の物性そのものが変化したわけではあるまいから陸上生物にはさしたる支障もなかったのか知れないが。
ともあれ、セカンド・インパクト後に産まれたシンジたちの世代は青い海とそこに棲む生物を、資料でしか知らない。僅かに海洋生態系保存研究機構のような研究施設のみが、(恐らくは水族館などで飼育されていたものを元に)小規模ながら生態系を保存している。
これはエヴァンゲリオン史上最もSFな設定ではないかと思う。というより、実のところエヴァンゲリオンには「使徒との戦闘に特化した防衛都市」の設定以外にはさっぱりSFがない。


ジャンル分類などというものはあくまで便宜的かつ恣意的なものだから、エヴァがSFに分類されたってまったく不都合はないのだが、実際にエヴァのロジックはほとんどオカルト──本来の意味での隠秘学的な──で構成されたもので、サイエンスの部分は基本的にブラックボックスに過ぎない。A-10神経系だったりL.C.L.アンビリカルケーブルだったりと科学っぽいキーワードで装飾されているからSFのように見えるだけで、スペオペ程度にしかSFではないというのが実情だ。
そんな中で、「生物の死滅した海と、海の生き物を知らない子供たち」というのはほとんど唯一のSFらしい部分ではないかと思う*1


使徒の存在が、それと戦うエヴァの存在が、市井にどう説明されているのかはよく判らない。セカンド・インパクトそのものは隕石の衝突ということになっているようだが、それだけでは海洋生物の絶滅と赤い海は説明できないし、規模からして南極にいた人以外にも当時の現象は何かしら目撃されているだろうと思われる。なにより、使徒及びそれと戦うエヴァの存在は隠しようもなく、撃破時の十字架状発光現象などからも宗教的解釈と結び付ける人が大勢出現するだろうことは容易に想像が付く。
これは色々な意味で大変な事態である。言うなればキリスト教に裏付けが生じてしまったわけで、ユダヤ教イスラム教といった類縁宗教はともかく、仏教系など別系統の宗教は言わば偽物の烙印を押された状態にあると言える。そのことによる宗教的な混乱は凄まじいものがあろう。地勢変化に伴う難民紛争のみならず、世界各地で宗教紛争も勃発したのではなかろうか。
また、何らかの意思ある存在が人類の発祥〜滅亡にまで関与してくるとなると、科学面でも大きな影響を禁じ得ない。
生命の種はどこからもたらされたのか。そもそも地球の存在が、太陽系の存在が、あるいはこの宇宙の物理係数そのものが、入念に準備された代物ではないのか。他の星でも同じようなことが行なわれているのだろうか。過去に何度も発生している生物の大絶滅はこれと同じような干渉によるものではないか。


ガンダムは公式にも非公式にも幾多のヴァリエーションを生じた。対してエヴァには「焼き直し」という形以外でのヴァリエーションが存在しない。なにしろ人が人でなくなるまでの話なのだからそれ以降など描きようもないし、当然といえば当然なのだろうが、そろそろ「視点を変えたエヴァ」が生まれてもいい頃ではないだろうか。

*1:他にも、「地軸の変化により日本は常夏に置かれた」という設定があり、確かに夏しか描かれていないが、冬がないという描かれ方をしていないので意識に上らない