「万能のデジカメ」としてのiPhone

iPhoneのカメラは、ハードウェアとしちゃお世辞にも高性能ではない。今時の国産ケータイと比較すると2世代ぐらい遅れていると言っていいだろう。
にも関わらず、iPhoneは今入手可能なデジカメの中で最高の一台である。
なんとなれば、これ1台でほぼ全ての需要が満たせるから。


写真というのは大雑把に言えば「見えるものを切り取って保存する」行為だ。見えるもの、というよりは「認識したもの」というべきか。
脳は静止画を記憶しない。あくまで時間軸を伴う一連の動画として、視界を切り取る。たとえ写真や絵を鑑賞するときであっても、全体を一度に捉えるのではなく、部分部分を追って細部を拾い上げ、それらの結合として全体を認識する。
すると、風景では例えば暗部に焦点を合わせれば暗部がはっきり見える露出で、明部を見れば明部の露出で見たものを合わせて記憶するから、総合的な情報量としては写真では有り得ないほどのダイナミックレンジを得ることになる。あるいはすぐ手前の小さなものと無限遠の風景の両方を記憶の上では一度に鮮明像として得ている。
しかしカメラはあくまで物理現象としての光線を瞬間的に切り取る装置に過ぎず、従って単体で記憶の通りの写像を切り出すのはかなり難しい*1


それを補う手法として撮影後の加工が行なわれる。露出を補正したり複数の撮影像を合成したり、様々な手段で記憶の再現を試みるわけだが、あくまで後加工なので、思ったようにならなかった場合でも既に撮り直しできない。勿論、その場でパソコンを開いてすぐ加工してしまえば別なのだが……
まあそういうことだ。カメラでありコンピュータでもあるiPhoneには、撮影画像をその場で加工するための様々なアプリが揃っている。パノラマステッチでもセピアトーンでもティルトシフトでも、ワンタッチで表現してみせる豊富なアプリ群。
無論、非力な演算性能で貧弱な撮影機器の映像を処理するに過ぎないから、その質には自ずと限界がある。けれども、そこまで含めた「単体撮影機材としての表現力」は大したものだ。
素数も低く映りもチープでノイジー、精々がWeb用でどうにか鑑賞に耐える程度の画質に過ぎないけれど、撮影・加工したものをその場で公開してしまえる機動力も含め、Web用に特化した機材と考えると、少なくともセカンドカメラとしては最高級なんじゃないだろうか。
本気撮りは一眼レフ、気軽なお散歩スナップはiPhoneで。もう他のカメラなんて要らないような気さえしてこないか。

*1:パノラマ写真機や虫の目レンズなど、一部の特殊機材ではその一面の再現に成功した例もあるが