Cyber-Shot T900 レビュー

今年2月発売の最新モデル、Tシリーズ2009年モデル上位型である。既に4ヶ月経過しておりレビューはいくらも出回っているし、そもそもTシリーズのアップグレードに過ぎず前機種との違いもそう大したものではない筈であり今更レビューする意義もないのだが、偏った使い方によるレビューには偏った需要があるものなので気にせず書く。

なにはなくとも超接写

まずはマクロ機能をレビュー。このために買ったようなものだ。
Cyber-Shotシリーズは伝統的にレンズ前1cmマクロ撮影機能を持つものが多くリコーと並んでマクロには強いのだが、CCDが小さいために被写界深度が深く不要なところまでハッキリ写ってしまいがちであった。記録写真としてはともかく、雰囲気を重視するなら前後はボケた方がいい。
Tシリーズには「拡大鏡モード」というのがあり、これを使うと「レンズ前に虫眼鏡を置いたように」拡大接写が可能になる。被写界深度も虫眼鏡のように浅く、奥行き感のある写真が簡単に撮影可能だ。
少々残念なのはこのモードに於いては合焦がオートのみになるらしいこと。まあ必要なら半押しAFロック→視点移動で調節は可能なのだが、折角のタッチパネル操作が生きないのは勿体ない。
私は主にボケ足利用目的で活用しているが、拡大の方も素晴らしい性能だ。例えば紙幣のミクロ印刷を撮影してみると、肉眼で見えない文字まで判読できる*1

大鏡モード作例

これはMacのキーボードを接写したもの。切り抜きではなく本当にこの範囲を写せている。ちょっとピンボケに見えるが実はピンはちゃんと合っていて、ボケの原因は手ブレ(と、多分色収差)。超拡大の分、ブレも拡大されてしまう。
大鏡モードでの奥行き感がよく解る。controlキーのcoあたり〜手前フチあたりにはピントが合っているがその前後はボケ、隣のoption/altはそう知っていてもちょっと読めない。手前fnは読める。絞りは円形。
こんな風に合焦点以外をボカすことができる。小物撮影にはこのボケ足が必須だ。なおカメラの傾きを検出するセンサーが内蔵されており縦位置で撮った画像はちゃんと縦位置に、時計回り/反時計回りも区別されて記録する仕様なので撮影後の手直しが少なく済む。

タッチパネルの使い勝手

T系のもう一つの売りがタッチパネルによる操作系である。ハードウェアスイッチ類は僅かに5つ(シャッター、電源、ズームレヴァー、静止画/動画切り替え、画像閲覧モードスイッチ)だけ、設定類はすべて画面へのタッチで行なう。
タッチパネルでの設定自体はとりたてて使い易くも使い難くもない。これまでは十字キー+決定ボタンあたりで行っていた操作をアイコンへのタッチに変えただけのものである。
T最大の強みはなんと言っても撮影中のタッチ操作にある。ピント合わせの位置をタッチで指定できるのだ。これは非常に直感的で使い易い。
また画像閲覧モードでは画像の指定位置を拡大表示できる。これもタッチパネルならではの使い勝手。
ただ、残念なのはマルチタッチには対応しないということ。いやそこまで求めるのも酷な話なのだが(基本的にその辺はAppleの特許に抵触するし)、思わず左右にフリックしてページ送り/拡大写真の表示位置移動とか指2本で向きの回転とかやりたくなってしまう。少なくとも前者だけなら多分特許抵触せず可能なのではないかと思うので是非ともお願いしたい。

等倍では汚いが実用サイズでは綺麗

一眼レフが安価に入手可能な昨今、「隅々まで美しい画質」は大型機種の領分であり、コンパクト機の担当は「手軽にメリハリの効いた画質」であろう。その辺、T900はきっぱり割り切っている。そもそもレンズもCCDも極小の薄型機なのだから、画質の面ではどうやっても無理があるのだ。恐らくSONYもその辺は承知の上で、敢えて4000*3000もの超高密度にする道を選んだのだろう。等倍表示ではとても見られたものではない──携帯カメラ並みの画質だ──が、縮小してPCの画面一杯程度までのサイズで表示する限りでは非常に綺麗な画が撮れる。これはもう、そういう機種なのだ。1200万画素というスペックはハッタリであり、実質的には精々600万画素クラスだろう。ただ、1600*1200程度に縮小した画像は等倍でも充分に見られるものだったから、そういう意味では画質は決して悪くない。
夜景では光源などに結構キツいパープルフリンジが見られたが、これも縮小により気にならなくなる。また、色補正はかなり上質で、記憶色を忠実に再現する(逆に言えば現物とは些か乖離する)ので縮小以外の加工はあまり必要にならないと思われる。

色の補正感作例

ハンバーガーを接写。包み紙を開いてカメラ突っ込んでオートで撮影しただけだが、紙が巧い具合にデフューザの役割を果たしたこともあってかなり良い具合に撮れている。色も食品のシズル感を上手に引き出している感じ。肉やクリームチーズの質感を御覧あれ。
雨の夜景を撮影。ピントの合った左下手前部分の明度に合わせて全体が調整された結果、左上は増感され過ぎなぐらいに明るくなった。その分粒状感がかなり強いのはまあ、致し方あるまい。
日中撮影しておいた木々。緑の鮮やかさはいかにも記憶色。

動画の画質

ハイビジョンサイズの動画撮影を謳うT900。画質次第では稲妻のような静止画では難しいものも撮れるかも知れないと期待してテスト。
……まあ、縮小表示するならそれなりに解像感があるかも知れないという、ある意味当然の結果が得られた。1280×720なので切り出して640×360ぐらいのサイズで使うには悪くない。今までのカメラなら320×240、良くて640×480サイズで圧縮のきつい画像を得るのが精々だったことを考えたら大きな進歩ではある。

動画スクリーンショット

フルサイズで再生中のスクリーンショット。ざらつきは夜景故の増感ということで割り引くにしても輪郭のはっきりしない画質ではある。
ハーフサイズで再生中のスクリーンショット。ビル間の明るい部分に見られるざらつきは動画再生時にはさほど気にならない。

その他気になるところ

  • 電源投入から「Cyber-Shot」ロゴが消えて撮影可能になるまでに時間かかることがある。早い時は2秒ぐらい、遅いと10秒ぐらい。原因不明。
  • 画像閲覧モードに移行するとき、しばしば「管理ファイルを修復しています」というメッセージが。修復?そんなに破損し易い?起動時間との関連を疑っているが不明。
  • データは付属のUSBクレードル経由でカメラから直接、またはメモリ抜き取ってメモリーカードリーダーで読み出すことになる。クレードルにはACアダプタジャックがあり(ACアダプタ自体は別売り)「クレードルに立てるだけでデータ転送+充電完了か!」と早合点したのだが、説明書見たら「クレードルでは充電できません」。なんのためにあるんだACアダプタ。
  • バッテリ・メモリースティックの差し込み向きが解り難い。メモリの方は逆だと奥まで挿さらないのでまだ確認可能なのだが、バッテリは「奥まで入るが蓋閉まらない」感じ。もう一工夫欲しかった。蓋もロックがバネ押さえでない純粋スライド式であることに少々戸惑う。
  • 全画面なので指をかけるところがない、と思いきや意外にも持ち難くはない。レンズガード右端のやや出張ったところに中指をかけ人差し指でシャッターを押さえ、親指は縦にストラップホールに引っ掛けてホールド。左手で本体上下を押さえると安定する。くれぐれも左上全面を押さえないように:レンズが塞がれてしまう。
  • レンズが本体上部にあるので接写時に本体下部が被写体などと接触の恐れがある。特に食品撮影時は注意。縦撮りにすると本体下部に来るので接触を避けて撮影し易いかも。
  • 静止画=動画の切り替えがレヴァー式なので、ポケットから引き出す時やレンズカヴァーを閉めようと指をかけた時、などのちょっとしたことで切り替わってしまい、シャッター押す→動画撮影開始になって慌てる、という場面が度々発生する。

*1:千円札だと上部の円弧に書かれた「NIPPONGINKO」の下に黒い直線が見えるが、これが実はNIPPONGINKOと書かれた超微細文字だ、ということまで確認可能!