星辰占術機械ステラ=デウス・エクスマキナ

「基本構想は18年前のものですが、実現にあたっては最新の天文理論を一から学び直さねばならず、またネットワークの発達に伴いデータベースまわりの仕様を37回に渡って書き直したため非常に時間がかかりました」
「星辰は系内惑星及び衛星については軌道計算値ベース、系外恒星その他については観測値を適用しています。データは各天文台の記録とリンク、リアルタイムで補正されます」
「常に全星辰情報を占いたい時期と一致させる必要があるため、軌道の割り出しと距離推定には力を注ぎました。最大で137億年ものずれを補正しなければならないので」
「占術DBの構築には苦労しました。膨大な文献を調査して過去の事例を全件記録、また最近のマスメディアによる占い情報を元にアンケート調査の蓄積を11年分。ただしいずれもノイズが多いため疫学的手法により要素抽出してますが」
「卜占についても星辰についてもメタ再帰処理を取り入れ、現実の変化に対しては自動収集した情報を元に自己改変し随時修正する構造になっています」
「念の為。これは現在の星辰に基き未来の変化を予測する装置であり各人の生年月日に対する運勢を出力するものではありません。できるとすれば生まれた瞬間からの星辰変化を追うことで近未来を演繹するぐらいのもので、また対象を個人に絞るためには最低限全DNAの解析データと13代前まで遡った全血縁の真名字画解析、及び現在地の風水を入力する必要があります」


運用開始された星辰占術機械ステラ=デウスエクスマキナは恐るべき精度で事象を予言し、あらゆる占術は廃業を余儀なくされた。しかし託宣はあまりに詳細かつ難解にすぎるため一つとて発生前に正しく解釈されたためしはなく、占術の代わりに託宣解釈業が乱立。「◎=GMホールディングス破綻、△=南京でM8.4」結果として市井の暮らしに大した違いはなかったが、占星術の有効性を実証した影響は大きく、中国が、次いでロシアが星辰補正を目的とした大質量衛星を軌道投入すると「運星兵器」の開発競争は加熱、終には米国が「人工惑星」の建造を宣言したことで新たな局面に突入。質量確保のための外宇宙進出は目覚ましく、僅か30年でアステロイドベルトにまで到達したところで人類初の宇宙戦争が勃発。宇宙機雷の散布により木星までの一帯は多量のデブリに取り巻かれて人類は地球低軌道にまで逆戻りした。
ここまでの経緯を正確に予言していた(ことが後に明らかとなった)星辰占術機械ステラ=デウスエクスマキナであるが、あまりの軌道要素の多さに計算可能範囲をオーヴァフローしたのか突然すべてのメモリを上書きして機能停止した。メタ再帰処理により自己を自動改変し続けたその結果を再現することは制作者にすら不可能であり、以降星辰占術機械研究が続けられているが今に至るも満足な成果は得られていない。
なお、星辰占術機械ステラ=デウスエクスマキナの断末魔の予言はただ二文字「42」であったという。