GXロケットの、防衛上の重要度

失敗プロジェクトとの懸念が強いGXロケットの開発継続と、当初運用予定期間をとうに過ぎた気象衛星の後継機予算却下の報。

決まっちゃったものは仕方ないが、「安全保障用途として有用」という言い分の正当性ぐらいは検証してみようかと思う。


GXロケットがどういうものかというと、運用終了が決定された全段固体燃料ロケットM(ミュー)シリーズの後継として発案された衛星打ち上げ用ロケットで、2段目のエンジンとして世界でも類を見ない液化天然ガスを用いるロケットエンジンを搭載するものである。
ロケットとしての性質上、振動が強く繊細な衛星を搭載できなかったMに代わり比較的ソフトな液体燃料ロケットで置き換えることで衛星の要求仕様を下げ、打ち上げ能力も倍加することでサイズの制約も緩める。とは言え5t以上のクラスには既存のH-II系があるので、それ以下のサイズをより安価に打ち上げるためのロケットとして企画されている。


ロケットが「安全保障用途として有用」であるという場合、主に2種の用途が考えられる。ひとつはミサイル用、ひとつは軍事利用する衛星の打ち上げ用だ。
ミサイルで安全保障と言えば大陸間弾道ミサイルであろう。要するに敵国の要衝に直接核弾頭を落とせる能力を保持することで互いの国土を人質に取る方式だが、実はこの用途でロケットを使うにはひとつ重要なポイントがある。それは「発射に時間をかけられない」点だ。
「互いに人質を取る」というのはつまり「相手が射って来たら即座にこちらも射ち返せ」なければならないということ。弾頭は発射から30分もあれば落下してくるので、報復としてはそれ以前に発射しておかねばなるまい。
そうすると、燃料を注入した状態でロケットを保持できない液体燃料ロケットはこの点でまったく使いものにならない。GXでは燃料としての扱いが難しい水素の代わりにLNGを使う分マシではあるが、いずれにせよ固体燃料のM系には敵わない。
まあそれ以前に日本は核兵器を持たないので意味がないのだが。
とすれば純粋に軍事用途衛星の打ち上げ目的ということになるが、だとすれば辻褄が合わない。何故なら、松浦氏も指摘するように気象衛星は軍事的に重要な情報衛星だからだ。
「米軍から情報提供を受ければ良い」と仰有る向きはあろうし、かつて気象衛星空白期に実際それをやった経緯もあるが、自前でそれができないという状態そのものが安全保障の生命線を他国に握られるという大変拙い状態になっていることだけは指摘しておく。


ところでGXの、軍事用途以外でのメリットはどの辺にあるのだろうか?
JAXAのページから引用すると、


液体酸素と液化天然ガスを組み合わせた「LNG推進系」は、水素推進系と比べて性能面では劣るものの、以下のようなメリットがあります。

  • 宇宙空間で蒸発しにくく、長期間宇宙で運用する軌道間輸送機や惑星探査機に適する。
  • 推進薬が安価であることから、打ち上げ経費等の低減が可能。
  • 爆発などの危険性が低く、安全性が高い。
  • 高密度のため推進薬タンクがより小型となり、再使用型輸送機などの大型ロケットの1段に適している。

このうち1は打ち上げ用ロケットとしての利点ではないため(技術蓄積という意味合いはあるにせよ)直接GXのメリットとはならない。
また4は「1段目に適している」のにGXでは2段目として使用されるという不思議な構造となっているため、性能には疑問がある。
また2は、推進剤の価格など高が知れたものであり、むしろ当初450億円とされた開発費が実際には2000億程度まで膨れていることを指摘しておく。H-IIAで1機あたりの費用は100億程度。仮にこれが燃料コストで半額になったとしても、30機打ち上げてやっと開発費の赤字分を吸収できるかどうかといったところ。日本のロケットでこれまで1シリーズ10機を越えて打ち上げることはまずなく、コストメリットは大した強みになりそうもない。
となると、残るメリットは「水素よりも爆発し難い」というただ1点のみに留まる。それは性能低下+開発費高騰のデメリットと比して利点と言えるのかどうか。
少なくとも、気象衛星を蹴ってまで採用すべきものにはとても思えないのだが。