タミフル暗黒神話

世間ではすっかりタミフルが悪役認定されてしまっているようだ。実母までそのようなことを言い出したのには参った。
インフルエンザは風邪に似た症状を呈するが風邪ではない。いや風邪だってこじらせれば肺炎などに繋がり死に至る病なのだが、インフルエンザの場合は発熱が40度を越す場合もあり、これは体の各部、とりわけ脳への悪影響が懸念される状態である。自然治癒に任せて放置して良いものではない。
最低限、水分と養分の補給、それに解熱剤の投与(ただし一部の薬剤はインフルエンザに投与すると却って深刻な症状を引き起こすことがある。素人判断で服用せず、必ず医師の処方を受けること)は必須だ。


タミフルは数少ないインフルエンザの特効薬である。ウィルスが増殖する際に必要となる酵素の働きを止めることでウィルスの増加を抑える働きがあり、結果として短時間で症状を沈静化させ、重症化を防止することができる。発症直後に投与すれば非常に有効性が高い。
一方でタミフルには幻覚や異常行動などの副作用の疑いがあり、とりわけ窓から飛び出すなどの自殺的事故死が注目を集めている。
確かに、自殺を引き起こすような医薬品というのはイメージが悪いだろう。しかしこの症状、実はインフルエンザ脳症の一症状に酷似しているのだ。
インフルエンザが重症化すると脳にダメージが発生する。それが高熱によるものなのか、それともウィルスの別作用によるものかは定かではないが、確認されている現象のひとつに熱性譫妄(意味不明の言動、うわごと)が含まれる。高熱状態では体力がないから観察されるのはうわごと程度で何らかの行動にでることはあまりないようだ*1が、仮に解熱などで体力が恢復しながらも脳症が静まらずにいるようなことがあれば、譫妄から自殺的行動に出る可能性もあるのではないだろうか。
異常行動の原因がタミフルにあるのかインフルエンザにあるのかは、今もって明確でない。
また、仮にタミフルに異常行動を引き起こす副作用があるとしても、そのリスクは(異常行動の報告件数から判断するに)投与せずにインフルエンザの重症化を引き起こすリスクよりも遥かに小さい。従って、少なくとも体力に劣る小児や高齢者には積極的に投与すべきだ。


無論、どんな薬であってもそれに頼りきるのは考えものではある。インフルエンザなら即タミフル投与、というのはちょっと行き過ぎだろう。しかしまた、闇雲に薬の使用を忌避するのも愚かなやり方だ。その薬を服用すべきかどうか、判断するのは素人の役割ではない。

*1:ごく少数ながら、タミフル服用の事実なく飛び降りた例もある