改めてMacの良さを考えてみる

Macというと、何かと「デザインが綺麗」「Winより安全」が取り上げられる印象があった。それらは決して間違いではないのだが、それだけがMacの良さでもあるまい。
まずはWinと比較しつつMacの優れた点を考えてみた。

文字表示が綺麗

今でこそWinもXPへのClearType搭載でアンチエイリアスのかかった滑らかな文字描画をサポートしているが、Macがそれを実現したのはもう5年も前のこと。
またWinVistaに採用予定のMeiryoはなかなか筋の良さそうなフォントだが、これまでの標準であったMSゴシック/MS明朝ははっきり言ってスクリーンフォントとしても印刷用フォントとしても酷いものであった。全角半角の混在に気付き難いこのフォントこそがWinユーザーのデザインセンスを損なっているとすら言える。


Macが文字に拘るのは、どうやら初代からの開発責任者であったスティーヴ・ジョブズ現CEOが若い頃タイポグラフィを学んでいたカリグラフィでした。何れにせよ文字の描画に関心があったことだけは間違いないことが影響しているようだ。お蔭でMacは初期から良質のフォント環境を持ち、デザイナーに好まれた。
未だにデザイン業界でMacが支配的なのは、何も筐体が綺麗とかGUIが気持ち良いとか、それだけの話ではないのだ。
Winユーザーはまず、ClearTypeの利用とともにMSフォントを捨てるところから始めてみると良い。

ログアウトせずに他のユーザーにログイン

些細なようだが重要な機能のひとつ。
MacOS XシリーズはWinで言えばNT系列にあたるOSで、Unix譲りのマルチユーザー環境を持っているが、Winのそれがログオフして改めて他ユーザーアカウントに入り直すWinXPではログオフせずにユーザーを切り替える設定があるそうだ。訂正するのに対し、Macでは右上に表示されたユーザー名をクリックして切り替えるとログインダイアログが表示され、ログインすると「画面がぐるっと回転して」即座にユーザーが切り替わる。
他ユーザーで作業中も作業内容はそのまま保持されるし、何らかの処理が進行中であればそれも裏で実行され続ける。
例えば複数人で1台の端末を共用するとき、急にちょっと自分の環境へアクセスしたくなっても他の人の作業を途中保存して終了させる必要がない。
一人1台環境ではそれほど使用する機会の多くない機能だとは思うが、これならば例えばサーバー機を個人端末としても利用するとか、極端な例として作業環境ごとにユーザーアカウントを用意して切り替えて使うなどといった利用法も考えられる。

開いている全ウィンドウを一覧する

マルチウィンドウ環境で作業していると、様々なタスクが並んで実行されることはままある。
Winではタスクバーである程度の一覧性を確保しているが、マルチウィンドウアプリケーションではその中で開いているウィンドウまでは一覧できないし、いずれにせよウィンドウ名とアイコンしか表示されないので中身の確認はそう簡単ではない。
昔のMacではそうしたタスク管理機能すらなかったのだが、今ではF9〜F11(デフォルト設定)に割り当てられたexpose機能により、極めて高い一覧性を確保している。
つまり、F9で前ウィンドウを縮小表示して画面に並べ、F10で現在アクティヴになっているアプイリケーションのみのウィンドウを、F11ですべてのウィンドウを画面外に押しやってデスクトップを見せるのである。
これは例えばPhotoshopで多数の画像を一度に開いて作業する時などに大変便利。

縦横無尽スクロール

これは厳密にはMacの機能と言えない部分もあるが。
先のApple Mighty MouseによりとうとうAppleから公式に発売されたマルチボタンマウスだが、実のところこれの最重要な点はスクロールボールによる水平/垂直方向の自在なスクロールにある。
文書類では縦方向以外のスクロールを要求される場面などあまりないと思うが、デザイン関係では拡大表示で微細な部分を操作したりすることも多いので横方向のするロールは大変便利だ。
またノートPCではマウスを外付けせずトラックパッドのみで操作する場面も多々あるが、ここでもMacには縦横スクロール機能が盛り込まれている。トラックパッドを2本指で操作することでカーソルの移動からスクロールに切り替わるのだ。
これを覚えて以来、iBookの操作にマウスを一切使用しなくなった。流石にIllustratorなどで細かい作業をする時までマウス無しでできるかどうかは解らないが、テキスト中心に作業する限り充分な機能性である。


ついでに、実はMacのマウス/トラックパッドは極めてアナログな感覚でチューニングされている。マウスの移動速度に応じてカーソルの移動幅が変化するのだ。
例えば素早く動かすと5cmぐらいの移動で画面の端から端まで移動する。ゆっくり動かすと30cmぐらい動かしても画面の半分ぐらいまでしか動かない。
Winはこのあたりリニアな設定になっているようで、ゆっくり動かしても速く動かしても移動量に差が見られない、ということは細かい作業をする場合はマウスの移動速度設定を変更しなければならないような気がするのだが、世のWin使用デザイナー樣方はどうやって解決しておられるのであろうか。

GUIの完成度とショートカットメニュー

これを語らずに終わるわけにも行くまい。
MacとWinが決定的に異なるのが、このインターフェイス部分である。
Aquaインターフェイスが綺麗とかそんな見た目の話ではない。設計思想がまるで異なるのだ。


MacGUIを世に広めたが、GUIが最初に使われたのはMacではなくXeroxパロアルト研究所で制作されたAltoである、というのは有名な話だ。
そういう意味ではMacは模倣作であるわけだが、少なくとも正しくGUIの意味を理解し、理念を受け継いで実装している-----即ち、ユーザーの目から難解な技術的仕様を隠蔽し、直感的で理解し易いフレンドリーな操作性を与えるという、GUIの基本的使命を。
そのまた模倣であるWindows*1GUIを単に「コマンドラインの代わりにマウスで操作するもの」としか捉えなかったようで、見た目は似ていてもあちこちに破綻がある。
多分Winはキーボードですべての操作を行なえることの方を重視したのだろう。それは良いのだが、そのわりにキーボードでの操作にも統一性がない*2から、キーボードショートカットで操作をスピーディーに行なうMacと違いWinユーザーは逐一右クリックメニューで操作するようで、右手ばかりがフル活用されて大変効率が悪い。

Macの短所

あまり気は進まないが、長所ばかり取り上げるのも不公平というものだ。

選択肢が限られる

Macユーザーは決して多くないから、どうしてもアプリケーションの種類がWinほど豊富ではない。Mac専用のソフトよりも明らかにWin専用のソフトの方が多いし、フリーウェアの類も数が桁違いだ。
まあ多ければ良いというものではなくて、少なくても粒ぞろいであれば構わないのだが、とはいえ絶対量はその中に含まれる玉の絶対量をも増やすから、その点ではWinに分があろう(ただしWinを狙うウィルスの類もまた多いのだが)。
またハードウェアは決定的に選択の余地がない。一時期はサードパーティーに対するライセンスの供与を行なっていたが、これはMac全体のシェアを伸ばすどころかわずかなシェアを喰い合う結果にしかならず、現在は一切の供与を行なっていないから、ハードはすべてAppleから買うしかない。
Appleは米国のメーカーなので必ずしも日本市場に適合した製品を開発するわけではなく、最軽量でも2kgを上回るノートしかない現状では1kgを下回るDOS/Vノートが羨ましい。
ただ、その割には価格は決して高くない*3。最安機種では(周辺機器が一切同梱されないとはいえ)7万円台で無線LANBluetoothも内蔵、Officeはないが代わりに写真・映像・音楽・オリジナルDVD制作までをこなせるiLifeクリエイティヴ・スィートがインストールされている。12万を下回る価格でノートPCだって買える。今や決して高嶺の花ではない。

非対応サーヴィスもある

一体どんな機能を使っているものか、Macお断りのWebサーヴィスも結構ある。特に金融関係あたりに多いらしい。
Winでしか利用できない機能なんてActiveXぐらいのものだが、あれはブラウザを介してHDDの中身を弄ることさえできる危険極まりない技術で、そんなものを使わねばならない仕様自体が間違っているとしか思えない。MicrosoftがWindowsUpdate専用に利用する分には構わないのだが。
そんなサーヴィスこっちから願い下げだ!……と言えれば良いが、諸般の事情でどうしてもWinを使わざるを得ないこともあろう。

会社ではみんなWin

デザイン以外の業種では殆どの分野でWinを使っている。他にMacが(比較的)強い分野があるとすれば、教育関係(特に大学の研究室ではMac利用率が高い)と医療分野ぐらいのものだろうか。
たった1社が90%以上のシェアを握るというのは色々な意味で危険だと思うのだが、結局のところ取引先との互換性がないと何かと不便なので当面はこの状態が崩れることはないだろう。官主導でオープンソース環境への移行実験なども行なわれているようだが、「充分実用に堪える」という評価が出たという話は聞かない。
「会社の仕事を持ち帰って家でもやりたい(個人情報保護法その他の関係もあって望ましいことではないが)」とか「会社と家のパソコンが同じ操作でないと使えない」というような事情があれば、当然ながらWin以外の選択肢はないことになる。

*1:Microsoftの弁によればWinもまたAltoの直系だそうだが、何にせよ本質を受け継がなかったことに変わりはない

*2:例えば「ウィンドウを閉じる」といった基本操作ですらctrl+wで行なうものとalt+f4で行なうものがある。各アプリケーション固有の機能は仕方ないが、そうでない共通操作ぐらいは規定しておいて欲しいものだ

*3:過去たしかにMacが高かった時期もあり、Mac未経験のユーザーには結構「Macは高い」というイメージがあるようだが、コストパフォーマンスを比較するとMacはかなり良い成績を出している