確信犯的はてなアイデア:メタ市場の提案

以前から私を含め多くの人が、はてなアイデアの持つ根本的な問題点として「ユーザーの意見集約ではなくはてなの意向予測として設計されている」点を指摘していたが、「はてなアイデア」の何が革新的なのか: H-Yamaguchi.netを見る限りではその点は最初から意図されたものだったようだ。
つまり、アイデア以前ははてなが思いついた機能を気の向くまま実装していたものを、はてなが漠然と考えている方向性をユーザーが予測、それを元に固められた仕様を実装する方向に変化したことになろうか。言わば新企画立案の外部委託である。
まあ、解っていてやっているならそれはそれで良い。逆にユーザーがはてなの意図を汲み切れなかっただけのこととも言える(もう少し的確に説明が欲しいとは思うものの)。


そうすると、問題は2点に絞られてくる。一つは不具合報告と新機能要望は切り分けるべきという点、もう一つは設計的に予測市場が適切に機能しそうにないという点。
順に述べる。

不具合報告の切り分け

これは、当然出てくる要求であろうと思う。現在のところ新機能要望と同列に扱われ、結果として1000ポイントに達しないものは(原則として)目に留まらない仕様になっているが、それは不具合修正のためには望ましい形とは言えない。
リリースした機能に対するデバッグはサーヴィス運営側の務めであり、緊急性にも依るが順次処理されるべきであろう。
ここは取り敢えず機能ごと報告順にリストアップされ、検証の後順次「緊急」「保留」「仕様」などと分類の上公開されるのが望ましい。
不具合の投稿ははてなの[各サーヴィス-機能]といった形でカテゴライズ、端的な説明文を付けてデータ化される。それぞれにコメント欄を設け討論できるようにし、またカテゴリーはユーザーが任意に変更できる(これにより、どこに分類したら良いか解らないという場合も適宜詳しいユーザーの手によって再分類される)。

予測市場としての不具合

予測市場予測市場として正常に機能するためには、現在のように要望を投稿/自分の気に入った要望に投資という状態では不足である。その状態で取り出されるのは単なる(ヘヴィーな)ユーザー間の人気度であって、はてなの方向性予測にはならない。
真に予測市場が予測として成立し得るのは、投機目的のユーザーが増加したときである。彼ら投資家は、どの要求がユーザー間で人気を集めるかを重視せず、代わりにどの要求がはてなの意向に添ったものであるかを考える。そうすることで見返りとして得られるアイデアポイントの配分こそが彼らの目的であり、個々の要求内要その物に対しては全くニュートラであるからこそ、冷静な視点からの予測が成立する。


ところが現在のはてなアイデアは、投機目的としては巧く機能しないように見える。その理由は色々あるが、順に挙げて行こう。

投機より要望の比重が高いことの問題

(多分)現実の株式市場でもはてなでも、売買自体は現在の株価と関係なく行うことができる。売り注文に対し指定価格以上での買い注文が入るか、買い注文に対し指定価格以下での売り注文が出れば、その時点で取引が成立する。
しかし買い手はなるべく安く買いたいし、売り手はなるべく高く売りたいから、その妥協点が集団合意の上形成され、株価は一定範囲内に納まる。
しかしはてなアイデアでは、現状まだ投機よりも要望の比重が高い。要望提出側はポイントの増加よりも株価上昇による要望への注目をこそ重視するから、売買価格が高騰する方が都合が良い。従って談合の上(或いは暗黙の了解に従って)5.00ポイント付近での取引が行われる。「安値で買う」という動機が弱いから、株価は簡単に高止まりし、売買差益は考慮されない。これでは投資家にとって良い市場が形成されない。

はてなが配当額を決めることの問題

現実の株は、企業の利益配当による利益よりは売買差益を目的として投資されることが多い。しかし前述の問題から、はてなアイデア株はむしろ配当時利益を目的に購入されることになる。
しかし配当額は時価総額と無関係に、はてなの実装時作業工数により決定されるシステムになっている。ということは、投資家ははてなの意向を探るのみならず、はてなの実装コスト(をかけるだけの重要性)をも見抜かねばならない。こと技術先行傾向の強いはてなにあっては意向の反映自体が技術的先見性と分離不可分であるが、さらには実際の作業工数を見積もる必要があるという、極めて敷居の高い状態が作り出されてしまっている。

流通あいぽん総額に対する銘柄ごとの発行株数の少なさ

はてなアイデア市場に未参入ユーザーの潜在的ポイントを考慮に入れないとしても、既にはてなアイデアポイントの配当額は初期に比べ増大していると考えられる。にも関わらず発行株数は一律1000株でストップするようになっているから、ごく初期に一部ユーザーが株を買い占めてしまう例が多く発生する。つまり、株価上昇や多数の買い注文などの成り行きから銘柄の有望性を判断する手法は殆ど成立せず、自ら技術知識等を駆使して上場前の銘柄を素早く判定、投資せねばならない。しかも上場後の売買は殆ど行われていないから、投資家の入り込む余地がない。

流通が短期的であることの問題

株は、アイデアの立案と同時に販売開始され、実装(或いは却下)とともに取引を終了、ただ一度の配当を行って消失する。その寿命は決して長いものではなく、取引のチャンスはかなり限られる。
上場までの段階が長期化する(=いつでも購入可能である)ようなアイデアは不良銘柄の可能性が高く投資には適さない上、キャンセルにより消失する可能性が高い(元手は保証されるが、利益には繋がらない)。
つまり安定した銘柄というものは存在せず、常に新規アイデア株を購入し続ける必要が生じる。長期的な戦略を組み立て難いことから、予測の精度を高めることが非常に難しくなっている。

これらの解決案

結局のところ、はてなアイデア予測市場として機能するためには、長期的な取引/売買差益の生じ易いシステムによる投資家の受け入れが不可欠と考えられる。しかしはてなアイデアが機能要望を扱う限り、その実現はほぼ絶望的と言える。
そこで、一つの案として「はてなアイデア:メタ市場」を考案した。


メタ市場で売りに出される銘柄はアイデア自体ではなく、アイデアを提唱したユーザーである。
ユーザーはメタ株を発行して資本としてのアイデアポイントを調達、一定期間ごとに利益総額に応じた配当を行う。これは現実世界の株式会社に相当し、株主の利益を最大化する責を負う。
メタユーザーはメタ株の売買と配当によりアイデアポイントを取得。また、自らがメタ株の発行によりアイデア市場に参入しても良い。
これにより、メタ市場はユーザーの動向を予測する集合知として機能し、アイデア市場はメタ市場の利益を最大化するために個人的要望よりもはてなの意向を重視せざるを得なくなるため適正な予測市場として機能する。


……のではないかと思うのだが、実際そう巧く行くだろうか。

追記

気付いていなかったのだが、2005-08-18より価格上限が100まで引き上げられている。このお知らせは見ていたが、そのときは総選挙はてなのみかと思ってスルーしていたのだった。
これで投資家が増えると良いのだが。