交田稜「ブランクアーカイヴズ」:認知し得ぬ障害の受容

当人の意図とは無関係に周囲の人間に影響を与え、知覚を読み取り、あるいは書き換えてしまう「認知拡張症候群」。しかしその症状は当人だけの知覚による、もしくは逆に全員の知覚を改竄してしまうが故に周囲からの認識が困難で、そのため認知はほとんど広まっていない。そういう症例があることは伝えられていても、漠然としたイメージしかなく、あるいは超能力のようなものと認識しているか、いずれにせよ社会に正しく理解されない。
そんな症状を持ち、社会生活に支障を来している人たちを支援するための社会福祉法人「アーカイヴズ」。その相談員もまた、ACSに悩まされる人たちだ。


まずは公式から1話を読んでいただきたい。
www.moae.jp

バットを持った少女は簡素なパーカーにショートパンツ姿で、活動的な人格を伺わせる。しかし髪の毛は整えられておらず、また服は染みだらけで、まともに世話されていないことが想像される。「他者に知覚されない」症状の持ち主であるが故に、親にさえも知覚されていないからだろう。
次の見開きで、ネコは貸し物件のガラスの手前に見えているが、少女は鏡面の向こうにしか描かれていない。つまりヒトは直接視認できないが鏡面反射やカメラ越しにならば見えること、また動物には普通に見えていることがわかる。
そしてインターホンを鳴らした時に、長髪の男性が離れた位置から他人の存在を知覚し思考を読んでいる──これもまたACSの症状だ──様子が示され、それを「便利な能力」としか見ずに利用したがる人物のあること、また少女が「長髪男性以外には知覚されていない」ことなどが丁寧に示される。
いずれも高度に計算された描写で、作品としての完成度の高さが伺える。
この後に発生した出来事を、ACSの特性を活かして解決してゆくことになるが、作品内で示される「支援の必要な障害」という認識をきちんとベースラインに敷き、あくまで「超人」「便利な超能力」的な扱いではなく、「厄介だが付き合ってゆくしかない症状」として取り扱う、非常に真摯な作品であった。

だというのに、本作はわずか2巻で打ち切られてしまった。まだ登場しない職員──証拠はないが他メンバーのACS発症に関与している可能性が匂わされている──の存在や、主要人物の過去にも触れる一幕がありながら、それらが一切描かれることなく。

作品の方向性としては「サトラレ」と似ていると言えるだろうか。あちらは「他人に認識されない」のではなく「自分だけが認識していない」というべきだし、周辺への多大な影響力と当人の国家的利用価値から告知を避ける措置を講じたサトラレに対し、ブランクアーカイヴスは周囲への認知が進まず理解されない様子で、扱いはずいぶん違うが、いずれも「他人の認識に干渉する」ことによる社会的な影響を描く点では一致している。

だが10巻まで続いた後に続編も出たサトラレと異なり、こちらは明らかな打ち切りによる2巻完結である。一体何が両者を分けたのだろうか……

設定にせよ、語られずに終わったエピソードにせよ、あまりに勿体ないのでどこかで続きを描いていただけることを期待している。

ボーダーブレイクの戦術間バランス、および兵装バランスについて

ボーダーブレイクの基本戦術はおおよそ「単身での敵ベース突入(コア凸)」「ベース付近で待機し凸屋を迎撃(ベース防衛)」「火力で戦線を押し込みプラント占拠(プラ踏み)」の3種類に分類でき、三竦みの構造を成す。これは串カツ亭の指摘する通りだ。
……と言ってしまうと3戦術が拮抗しているように感じられるかと思うが、実際には「コア凸」の一方的優位である。なんとなれば、3つの戦術の中で唯一コア凸だけが「自分一人でも為し得る」からだ。

プラントを奪うためには敵防衛を排除した上で一定時間そこに留まる必要がある。一人で数人を相手取るほどの実力差があればいざ知らず、力量が拮抗しているのであれば人数差で押すしかない。
ベース防衛は前線を掻い潜ってくる敵の行動ルートを読んで敵機を捉え、コアに到達するまでに排除する必要がある。一人でカヴァーできる範囲には限度があり、また首尾良く発見できたとしても1対1ではこちらが撃破される危険性が高まる。するとコア凸1に対し最低でも防衛2で当たらざるを得ない。
この2つの戦術はバランスが肝心である。凸を警戒するあまりベース防衛に頭数が割かれすぎると前線の維持が疎かになり、戦線を後退させざるを得ない。当然それは敵陣から自コアまでの距離を縮めることを意味し、防衛はますますシビアになる。かといって前線の維持と押し込みのために頭数を割くと防衛の手が足りなくなり、いつの間にかコアを削られることにもなりかねない。

対してコア凸は、単身で可能であり、それ故に味方の力量に左右されない。その上、自身の突入が成功しようがしまいが、その間は敵の数人を防衛のために前線から引き離すことが可能になり、なおかつ後方警戒のために前線へ戻りにくい心理に追い込むことができる。率直に言えばコア凸は他2つの戦術バランスを狂わせることができ、また成功すれば勝利が大きく近づくという強力な戦術であり、ボーダーブレイクというゲームはほとんどこの戦術によって勝敗が決まるといっても過言ではない。
そしてコア凸を可能にする、他機を引き離す機動力と高い瞬発火力を併せ持った強襲兵装、あるいは迷彩によって警戒線をやり過ごすことも可能な遊撃兵装がコア凸の主体となり、それを防ぐことのできる索敵能力を持った支援兵装、もしくは遊撃兵装がコア凸を警戒するわけだが、ではベースを防衛すべき兵装は何かといえば、結局は逃げる敵機に追い縋ることの可能な機動力を持った強襲兵装こそが適任ということになる。

そしてコア凸もベース防衛もプラ踏みもすべてこなせる強襲兵装はあらゆる局面で性能を発揮する万能の兵装であり、常設の索敵と回復による戦力の維持、トラップによる防衛に強みのある支援兵装がそれを支え、瞬発的な広範囲索敵と隠密能力を活かしたコア凸も可能な遊撃兵装が補佐し、重火力兵装は黙々とプラントを取ったり取られたりする。正味の話、重火力兵装にはこのゲーム内でほとんど役割がない。しかも名に反して重火力の火力は決して他兵装を上回っておらず、ただし重量のみが明らかに過大であるため、他兵装との兼任が難しい。ほんとうに、何のためにこの兵装が存在しているのか、正直よくわからない──まあその重火力にしか、私は乗れないのだけれども。

マイクロフォーサーズの超広角レンズ一覧

広い範囲を捉える広角レンズは風景を収めるのに最適で、旅行の際などに重宝する。
今やコンパクトなキットレンズでも広角端が12mm(35mm判換算で24mm)ぐらいから始まるのが常識になっているので大体のことはそれで済んでしまうが、「もっと極端な広角が欲しい」と思った時のために、12mmよりも焦点距離が短かいレンズを集めてみた。基本的に画角>F値の順で並べている。

超広角ズーム

広角端が12mmよりも短かいズームレンズ。この分野はメーカー純正が2本づつ、それぞれ高級版・廉価版に分かれてリリースされており、サードパーティ製品がない。

LUMIX G VARIO 7-14mm F4.0 ASPH.

マイクロフォーサーズ初期からの古いレンズ。いわゆる小三元に当たる位置付けのレンズで、その分ややお高めだが、7mmの画角を持つのは他にもっと高いオリンパス大三元しかないので、価格比でこれを選ぶ人も少なくない。
作例

M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO

PROの名を冠したF値2.8シリーズの超広角ズーム、いわゆる大三元の1本。性能相応の重量と価格。
作例

LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm F2.8-4.0 ASPH.

イカ銘の超広角ズーム。F値が通しでないことと画角がちょっと狭いことで価格も重さもPROよりは控え目。というか7-14mmとサイズ感ほとんど変わらず。
作例

M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6

超広角としては画角が狭い方で、その分だけ値段もサイズもお手頃。ただ古いこともあってか、あまり見掛けない。
作例

LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.

F値1.7という、単焦点並みの明るさを持つ超大口径ズームレンズ。その分だけサイズ・重量もお値段もビッグ。

超広角単焦点

こちらはズームとは逆に、ほとんどサードパーティ製のマニュアルフォーカスレンズしかない。まあ超広角は被写界深度も深いのでオートフォーカスでなくてもあまり困らないと思う。

LEICA DG SUMMILUX 9mm / F1.7 ASPH.

(発売前につき商品リンクなし)
F値が小さくなりやすい広角レンズでは珍しくF1.7とかなり明るく、またオートフォーカスを搭載。換算0.5倍相当のハーフマクロでもある。

LAOWA 7.5mm F2 Light Weight

明るさと画角で群を抜くLAOWAのレンズ。こちらはアップデートされた軽量版、重量わずか145g。外観も質感の高い金属鏡筒。
作例

SLR Magic 8mm F4

LAOWAより画角が少し狭く、F値も大きく、その上外見はかなりチープだが、その代わりに軽くて安く、わずか110gしかない。この辺りはMFTマウントのドローン需要を想定しているものと思われる。
あまり作例が見当たらないので、ひとまず海外のレビュー記事を。

KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

産業用カメラレンズで知られるコーワの、「電子補正に頼らず光学的に歪みを徹底的に排除した」レンズ。すごいけどちょっと重い。
作例

SAMYANG 10mm T3.1 VDSLR ED AS NCS CS II

APSフォーマット用に設計された広角シネマレンズのマイクロフォーサーズマウント用。

Voigtländer NOKTON 10.5mm F0.95

超広角レンズの中では画角が狭めだが、代わりにF値0.95という驚異的な明るさのNOKTONシリーズ。マイクロフォーサーズとしてはかなり大きくて重い。
作例

魚眼

ほぼ180度を写し撮るレンズである。撮像面内にイメージサークルがすっぽり収まる(円形の投影部以外は黒くなる)円周魚眼と、イメージサークル径を撮像面の対角線に合わせて切り取る対角線魚眼があり、写し取れる最長範囲は同じだがその周辺が切り捨てられるかどうかによって全体としての画角には差が出る。
広角であること以上に、周辺部に向けて湾曲する独特の写りを一種のエフェクトとして楽しむレンズである。超広角よりも更に超広角に写せるのも魅力のひとつ。

Entaniya Fisheye 250 MFT 2.3mm F2.8

250度もの強烈な画角を持つ、唯一無二の円周魚眼レンズ。巨大な前玉を持ち、重量なんと1.6kg。値段も相応にヘヴィ級。
他に3mm、3.6mmもリリースされている。

7artisans 7.5mm F2.8

七工匠は明るいマニュアルレンズを安価に出すことで知られる深圳の光学メーカーで、これも7.5mm魚眼としてはだいぶ明るいF2.8である。
作例

SAMYANG 7.5mm F3.5 Fisheye

こちらは韓国サムヤンのマニュアルレンズ。
海外のレビュー記事による作例

M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO

オートフォーカス、しかも世界初のF値1.8という明るい対角線魚眼。伊達にPROを名乗ってない。
作例

LUMIX G FISHEYE 8mm F3.5

対角線画角180度でF値3.5というスペックはSAMYANGと変わらないが、こちらはオーフォトーカス、かつ重量165gと最軽量。
作例

Meike MK 8mm F3.5

日本語情報に乏しいのだが、どうやら35mm判用の魚眼レンズをマイクロフォーサーズマウントにしたものらしく重量500g以上あるようだ。一応紹介はしておくが、正直使う意義は感じない。

Pixco 8mm F3.8

中国製の安い魚眼レンズ。シネレンズのマウント替えではないかと思われるがよくわからない。非常にチープだが、110gの軽さと薄さは魅力的。

ボディキャップレンズ9mm F8.0 Fisheye

オリンパスの変わり種。レンズを外した時に付けておくボディキャップを、ついでなのでレンズにしてしまったという商品。キャップなのでパンケーキにも程がある薄さで9mm魚眼。下のレバーを動かすとレンズカバーが開き、レンズが前後にちょっと動いて無限遠〜0.2mまで調節できるという簡素なものだが、結構ちゃんと写る。お手軽レンズとしてはすごくいい。
作例

BORDERBREAKに相応しいマウス

10vs10の集団戦ロボットアクションTPS「ボーダーブレイク」のPS4版が発売された。

元は専用筐体を用いたゲームであるところを巧くPS4のコントローラに置き換えてはいるものの、やはり操作性が万全とは行かない。左スティックについては受注生産で専用コントローラーが発売されたが、右グリップについては「USBの3ボタンマウスが流用できる」ということで専用品は用意されなかった。
しかし筐体とほぼ同じグリップ+筐体テーブルを模したマウスパッドが出たとあれば、Rグリップも可能な限り再現したいのが人情というもの。

だがボーダーブレイク筐体のグリップはかなり特殊な形状で、単純な再現はかなり難しいと言わざるを得ない。自分でマウスを改造するならば別だが、そこまでの情熱がない場合は、せめて市販のゲーミングマウスで雰囲気の合うものを探すしかないだろう。

というわけで、ボーダーブレイクのイメージカラーである緑色の発光をキーに、「ロボっぽいデザインの」ゲーミングマウスを物色してみた。

Thermaltake TT eSPORTS LEVEL 10M ADVANCED

台湾ThermaltakeBMWのデザイン部門とコラボしたというマウス。パーム部に設けられたハニカムの通気孔が特徴的。画像では赤く光っているが任意の色に変更可能とのこと。

KKmoon ゲーミングマウス

製品名不明。あんまりメカっぽくもないのだが、表面の回路的な発光パターンが緑色に光らせるとニュードっぽくないかな、と思ってチョイス。

ZERODATE X300GY

謎のメカメカしさ。複数のショップが販売しており価格に差があるが、緑に発光している画像を選んだ。ロゴ部分が光るのはいいのか悪いのか。

COUGAR 700M Superior

COUGAR クーガー 700M Superior ゲーミングマウス CGR-WLMO-700

COUGAR クーガー 700M Superior ゲーミングマウス CGR-WLMO-700

「イメージカーラをキーに」とか言っておきながらオレンジ色なんだけど、これは紹介せざるを得なかった。だってブランド名が「クーガー」ですよ?
まあ発光色は変更できるらしいので緑に光らせることは可能だけども、本体カラーからしてオレンジなのでちょっと色の相性は悪いかも。

夏の空を撮る

今年の夏はちょっと異常じゃないかと思うぐらいの雲ひとつない炎天下続きだったが、ようやく雨も来て気温が落ち着いたと思ったのも束の間、台風が通り過ぎてまた夏の日射しが戻ってきた。けれども今日は夏の雲も連れてきて、久しぶりに抜けるような空の青さと白い雲の素敵な風景が撮れた。









夏の雲には電柱が似合う。空の明るさを背景に、逆光がシルエットを強調する。







紫色に染まる空と、薄闇に沈む街。いちばん撮るのが楽しい時間帯。

Nikonの新ミラーレス機を予想する

事前の噂通り、23日にニコンが新ミラーレス機と見られるカメラ情報を公開した。これまた事前の予想通り、実際に公開されたのはテイザー的な情報量の少ない映像だけだ。
正直なところ、私はニコンユーザどころかフルサイズ路線ですらないマイクロフォーサーズ派なので、一連の流れは割合冷めた目で見ていたのだが、テイザーからわずかに伺えるニコンの新戦略が思ったよりも「攻めた」内容に思われ、俄然興味が湧いた。いや買うつもりは毛頭ないけども。

どうやら25日がニコン創立記念日なのだそうで、恐らくそこで具体的なスペックや実機が(モックだとしても)公開されるだろうから、それまでに好き放題妄そ……予想しておこう。

マウント径は60mm

ほとんど真っ暗で僅かにシルエットが伺える程度の映像だが、その中でマウント部だけが光のリングで強調されている。
その外側にわずかに円弧状のシルエットが見えることから、このリングはどうやらマウント内径を示しているものと思われる。
ボディサイズが明かされていないのでマウント径もはっきりわからないが、どうやらボディサイズを目一杯に使ったかなり大径のもののようだ。

サイズを推定してみよう。
グリップ上側にシャッターボタンと思われる部分が見える。二重リング状になっており、恐らくは現行一眼レフと同じく外側がパワースイッチ、内側がシャッターボタンだろう。現行機のサイズと同程度と考えると、たとえばD850は外形18mm内径9mmほどのサイズなので、この部分の幅が18mmと仮定すると、マウント部分の内径は(パースによるズレもあるので誤差はあると思うが)おおよそ60mmほど、外形が70mmほどになると思われる。
これは従来の35mmフルサイズのマウントサイズよりもかなり大きく、むしろ富士フイルムなど中判ミラーレスのそれに近い。
また、テイザーの映像内ではマウント径を過剰に強調する反面、センサーサイズは完全に隠されている。つまりニコンは(現時点では)センサーサイズではなくマウント径を売りにしたい、ということだ。

センサーサイズはどうなるか

これまでの憶測では、35mm判一眼レフ機で市場を席巻するニコンキヤノンソニーに対抗すべく「フルサイズ」ミラーレス機を出してくるだろうと思われた。従来ならば「プロ御用達は一眼レフ」と胡座をかいていられたものを、ソニーのαが「プロのニーズに耐える」とお墨付を得るところまできてしまったことで、慌てて対抗策を用意せざるを得なくなった、というのがその筋書だ。しかしAPS-Cサイズとはいえ既に独自製造の全像面位相差AFを搭載するCMOSセンサーをミラーレス全機種に展開しているキヤノンはいざ知らず、消極的展開に終わったNikon 1しか持ち合わせのないニコンにとっては厳しい勝負になる。
ところが、ここへ来てニコンは敢えて「フルサイズのミラーレス」を予期させず、センサーを隠してマウントサイズを押し出してきた。ここから考えられるのは、つまり「ニコンは35mm判での勝負を避け中判市場に打って出る」ということだろう。

元々、現在の「フルサイズ」は、元はといえば単に「フィルム時代から継承したレンズ資産をそのまま生かせる」ことこそを強みとして成り立ったものに過ぎない。手持ちのレンズを、慣れた画角でそのまま使えるから、ボディさえ買えば新たにレンズを揃える必要がない。それこそが敢えて35mm判を選択する唯一の理由だった。逆に言えば、資産継承の必要がないのならばセンサーサイズを35mmにする理由はなく、むしろ像面を小さくした方がコンパクトで機動性に富んだシステムに仕上がる。
いち早く一眼レフ路線を捨てたマイクロフォーサーズの選択は正にそういう計算の上に成り立っている。
これに対して一眼レフメーカーは「センサーの大きさによる優位性」を打ち出した。もちろん間違ったことを言ってはいないのだが、本来の利点はあくまでレンズ資産の継承にこそあったのだから、自ら勝負どころを別の面に求めるのは強みを捨てることと同義である、ということを理解していたかどうか。
果たして、ソニーはそこに正面から組み付いた。なにしろソニーは世界最大のイメージセンサ製造元である。そこに相手から「フルサイズ」という土俵に降りてきたのだから、「同じサイズならば開発者有利」という単純な勝負だ。
そして実際にソニーはそれに勝利してのけ、今まで一眼レフががっちり押さえていた「プロ向け」市場に食い込んだ。
センサーサイズの差がなくなれば、あとは一眼レフが誇れるのはファインダーの見え方とバッテリの保ちぐらいのものになる。機能性について言えばミラーの動作という枷がなく、撮影前からの映像解析による補佐が可能なミラーレスの方が遥かに有利なのだから、勝負の土俵を間違えた時点でもうソニーの勝ちは時間の問題だった。

だからこそニコンが新ミラーレスカメラで敢えてセンサーサイズへの言及を避けたということは、恐らく真っ向から「フルサイズ」での勝負をするつもりがない、ということなのだろう。ならばどうするのか、もう答えは見えている:つまり「中判ミラーレス」だ。
APS以下のサイズに対してこそ「フルサイズ」は優位性をアピールできたが、元々35mm判なんてのはさほど大きなサイズではない。同じサイズでは勝負にならないのであれば、より大きなサイズへ土俵を移せばいいのだ。内径60mmの新マウントにはそれができるが、ソニーは(Eマウントを捨てない限り)中判を出せない。
もちろん、中判ミラーレスではレンズが揃わない。しかしどうせフランジバックが短縮されマウント径が変わり、一から揃え直すしかないのだったら同じことだ。

もしかしたら、25日の時点ではまだ35mm判しか発表してこないかも知れない。でも中判への移行を前提にマウント径を決めたであろうことは(推定される寸法が正しいならば)ほぼ確実だ。

追記アスペクト比16:9の可能性



映像でマウント内部のに真っ黒な矩形が見え、これが通常の3:2や4:3よりも横長であること、背面モニタも横長に見えることからアスペクト比16:9のフォーマットを採用してくるのではという推測。たしかに、紙焼きに合わせたサイズに縛られる必要がないならば従来のアスペクト比を維持する理由もなく、むしろ写真を表示する環境はほとんどPCのモニタだし動画ならテレビであることが多いと考えると、いずれも16:9を採用しているわけでカメラのフォーマットもそれに倣うのは理に適っている。

Fマウント/一眼レフはどうするのか

いかに新しいマウントへ移行するとはいっても、従来からの忠誠度の高いユーザを蔑ろにするわけには行かない。彼らに最大限の便宜を図りつつ、他社へ逃げられぬように新システムへ移行してもらわねばならない。
新たに出すのがフルサイズミラーレスならば、せいぜいFマウントと新マウントの間に挟むマウントアダプターを出すぐらいのことで、以降Fマウントは新規展開を終了して一眼レフ機は1機種を細々と販売継続する程度の、現在の銀塩一眼レフと同じぐらいの立ち位置になるだろうと予想された。
しかし、中判で出すとなれば俄然話が違ってくる。つまりは現状のAPS-C一眼レフ機と同様に、中判機より安価なグレードとして「フルサイズ機」を出せばいいのだ。マウント径は同じだから中判レンズを使用でき、マウントアダプターでFマウントレンズを使うことも可能な、乗り換え準備のための中間機。そして同時にFマウント一眼レフ路線も継続することで、「今まで通りの一眼レフ」+「一眼レフ資産を継承しつつミラーレス」という選択肢に加えて「もっと高画質にシフト」という新たな選択が可能になるという寸法である。
中判ミラーレス機にもハッセルブラッド富士フイルムといった先行する競合がいるが、いずれも充実しているとは言い難い状態であり、5年かけてフルサイズ用レンズを充実させてきたソニーと正面から戦うよりも明らかに分が良いだろう。またそれによって中判市場が活性化すれば、競合各社にとっても悪いことではない。

と、まあ妄想を逞しくしてはみたが、噂通りならば2日後には答えが明らかになるはずだ。答え合わせを楽しみにしておこう。

ソフトウェア本位時代のカメラ

中国HUAWEIスマートフォンP20が、「カメラ機能の優れたスマホ」として注目を集めている。

デュアルカメラを用いた、視差からの距離情報認識による「一眼レフのようなボケ」加工。しかもピント位置を撮影後に変更可能だ。
ダイナミックレンジの広いモノクロセンサー+色調と解像度に特化したカラーセンサーの合成による、小センサーカメラとは思えない階調表現。
電子補正のみで数秒間のスローシャッターにも耐えてみせる手ブレ補正機能。
そして撮影シーンを自動で判断して最適なセッティングに切り替えるAI認識機能。
もはや「カメラ付きスマホ」どころか下手なデジカメでは太刀打ちできないレベルの写りである。
いや製品のレビューをしようというのではない。それよりも注目したいのは、これらの機能のほとんどが「カメラとしてのハードウェア」ではなく、ソフトウェア処理によってもたらされているという点だ。

カメラは「光を捉える」装置であり、最も重要なのは精密に加工された光学系である。こうした製造技術に於いてはドイツや日本が群を抜いており、今までカメラといえばほとんど日本製、高級品についてはドイツ製……という認識があった。しかしデジカメの到来以降、その常識は通用しなくなりつつある。
デジカメでも光を導く光学系については従来と同じだが、光を捉えるセンサーから先の部分については電子的な処理が大きく影響し、たとえばデジカメに先鞭を付けたのは銀塩カメラメーカーでもなければビデオカメラメーカーですらなく、電子機器メーカーであるカシオだった。

しかし現在のデジカメ市場は、銀塩カメラメーカーが高級機分野を確立し、ふたたび光学機器優位の時代に復権を果たした……かに見える。
その反面、ニーズを開拓した電子機器メーカーはカメラ付きスマートフォンに押されて撤退しつつあり、市場は事実上「レンズ交換式高級カメラ」と「スマートフォン」に二分化されている。そのスマートフォン側の急先鋒こそがHUAWEIというわけだ。

HUAWEI P20は、ハードウェアとして見れば特筆すべき点は少ない。スマートフォンのカメラモジュールとしては大きめのセンサーも、「ライカ」ブランドを冠したレンズも、コンデジとしてはなにも目新しいことはなく、「レンズが2つある」ことですら、今や特筆に値するほど珍しいものではない。
にも関わらず、ありふれた技術の組み合わせが作り出す画は驚くべきものだ。少なくとも、スマートフォンのカメラどころかちょっとした高級コンデジの域をも上回っているように思われる。
この事実が示すのは、つまるところ「光学機器より電子機器、ハードウェアよりソフトウェアの勝利」なのだろうと思われる。

「ドリルを買いにくる客が本当に欲しいのはドリルではなく穴だ」という格言があるが、カメラで言うならば「本当に欲しいのは高機能なカメラではなく写りの良い写真だ」ということになる。もちろん従来より自動露出補正やらオートフォーカスやら「簡単にちゃんと写せる」カメラの開発はずっと続けられてきたのだが、ではそうしたカメラで「良い写真」が簡単に写せたかというと、首を傾げざるを得ない。それはスマートフォン時代にあっても同様で、「写りの良い写真を見せびらかす」欲求の高まりと共に一眼レフやミラーレス需要が喚起されていることからも、これまでのカメラが「写りの良い写真」という需要を満たせていなかったことが伺える。

しかしP20は、ソフトウェアの力で問題を解決にかかった。「撮影者が撮りたいもの」をカメラが認識して最適な撮り方をサポートし、また加工によって「写りの良い写真」に見せるよう補正する。カタログスペックを誇るのではなく、ただ結果を出すことに徹した道具だ。それはまだ発展途上ではあり、「顧客が本当に欲しかったもの」に届かない部分もあるのかも知れないが、それでも一番近い場所にはいる。
これがハードウェアスペックではなくソフトウェアから生み出されているという事実は、今後のカメラが向かうべき方向を端的に示しているのではないだろうか。

そして日本のメーカーは全般に、ソフトウェア開発力が弱い。これは何もカメラに限った話でもないのだが、これまでハードウェアの土俵で勝負してきたメーカーばかりであるためどうしても開発体制がハード偏重であり、結果として「ソフトウェアの発展速度に追い付けなくなっている」ように思われる。

かつて高級カメラの雄として知られたライカは、(現在もまだその地位を失ったわけではないものの)「ライカのブランドを付けた他社のOEM製品を高く売る」メーカーに堕しつつある。光学機器メーカーとしては一流であっても電子機器メーカーとしての力がなかったからだろう。
国内でも、「本格的なカメラ」としての地位を築いてきた一眼レフはついにミラーレスに追い越された。元々が「フィルムが邪魔で撮影像を確認できないので仕方なく」ミラーを付けていたに過ぎず、センサーが捉えた像を直接確認できるデジカメ時代にあっては無用の長物であることは疑いようがない。それでも今日まで生き永らえていたのは単に液晶ディスプレイの性能が追い付いていなかったために光学ファインダーに利があったからでしかなく、並ばれた時点でもう先がないことは明らかといえる。家電メーカーと揶揄されてきた側が伝統あるカメラメーカーを追い落とすのだ。
そして光学機器メーカーとしても電子機器メーカーとしても一流である日本のカメラメーカーは今後、ソフトウェアメーカーとしての弱さによって中国あたりに追い落とされにかかるのかも知れない。10年後、20年後、日本のカメラはまだその地位を保っていられるだろうか?