「虐殺器官」映画と原作の違いについて

封切後すぐに観に行くつもりが都合つかず、先日ようやく観ることができた。
個人的には伊藤計劃 映像化プロジェクト三部作の中でこれが一番忠実かつ完璧な出来だと感じたのだが、感想を見ると意外に批判も多く、とりわけ原作派からの文句が少なからず出ているように感じられた。また説明抜きに情報量の多い作品であるために理解が追い付かないという声も聞かれるようだ。
そこで、原作との比較を中心として解説を試みたい。
必然的にネタバレを含むので、続きは畳んでおく。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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言語災禍と生府前史

英語圏を中心に世界中を災禍にひきずり込んだ「虐殺期間」。今ではそれがある種の言語汚染により引き起こされた脳の機能不全が原因であることが判明しているが、その嚆矢となった特殊部隊員の証言からわずか半年で、かつて世界一の大国であったアメリカは滅び、西ヨーロッパもまた災禍に見舞われた。言語の「意味」に仕込まれた深層文法はそれを見聞きした者の脳にわずかな影響を与えるに過ぎないが、彼らの紡ぐ言葉もまた文法下にあり、その影響を周囲に「感染」させてゆく。一人ひとりの影響は小さくとも、群集となった時その言葉同士の相互作用は急激に高まり、殺戮が発生する。
他言語といえども影響は皆無ではない。翻訳された言葉にもまた文法は忍び込む。もっとも、意識的にそれを操るのでない限り深層文法は徐々に崩れてゆくし、とりわけ言語の壁を越えるとその影響力は減衰しやすい。しかし深層文法は近い言語構造ほど影響力を保ったまま伝達するため、言語圏的にも文化圏的にも英語と近い西ヨーロッパ系はとりわけ甚大な被害を被った。
アメリカに端を発した災禍の影響をあまり受けなかった地域のうち、中東・南アジア・南アメリカ・アフリカ方面はそれ以前の時点でこの「文法」を発見した言語学者ジョン・ポールによる工作でほとんど崩壊しており、既に国の体を成している地域は少なかった。
かくして世界の大半は虐殺の渦に滅びたが、その最中にあって奇跡的に影響をほとんど受けなかった地域が、東南アジア圏である。

特に日本は、親米地域であるためジョン・ポールによるテロの対象にもならず、また言語的な独立性の高さから英語感染の影響をほとんど受けずに済んだことにより、当時の先進国では唯一その災禍から守られる結果となった。最終的に「虐殺の文法」を解明し災禍を終息させたのも日本の研究によるものだったし、その副産物として日本は「言葉や行動から思想傾向を特定し、脳の『虐殺野』の活動兆候を検出する」技術を開発するに至った。今日サイマティック・スキャンと呼ばれるこの技術は加害の発生を事前に抑制することを可能にし、刑法の観念を根底から変えてしまった──もっとも、この時点でまともな「刑法」などというものが機能している国はもうほとんどなかったが。

サイマティック・スキャンは日常的な認証監視網によって成立する。各監視機器範囲内での統計的な傾向判別と機器が捉えた個人識別情報を重ね合わせることによって「地域ごとの加害発生可能性」と「加害発生可能性の高い地域にいる個人」の抽出を行ない、重点監視対象を絞り込んで詳細なスキャンを行なうことで「潜在犯」を炙り出すのがその基本的な仕組みだ。
当初は犯罪抑止を目的とした仕組みではなく、あくまで国内に蔓延していた自殺や自棄的犯行など「社会性ストレスから発生していると思われる問題」へのケアとして研究が進んでいたためにこの統合監視システムは厚生労働省が所管していたが、後にその作用機序が「虐殺の文法」と同一のものであり、半端で非実用的な英語教育により英語圏からの感染が「弱く広範に」生じたことによる自滅的作用であったことが判明するにつれ、同システムはストレス緩和目的ではなく加害犯罪阻止目的へと変化してゆく。「文法」の致命的影響は既に万人の知るところであったから、これを抑え込むことは急務であり、そのために厚生労働省「シビュラ・システム」には最大の権限が与えられ、ここに司法と行政が実質的に一体化した強大な「国民監視制度」が成立した。

そもそもグローバル経済の時代にあっては国内のみで自給自足可能な国などほとんど存在していなかったが、とりわけ島国であり国土資源に乏しい当時の日本は、必要物資の大半を輸入に頼っていた。
言語災禍による世界経済の崩壊は、直接の影響を被らなかった日本をも否応なしに飲み込むことになる。ここに至って日本はついに、前大戦の愚挙を原因とする永きにわたる呪縛を捨て去る決意をする。すなわち「他国への侵略」である。
もはや組織的軍事力を残す国などほとんどなく、それは容易く実現する。とはいえ呪縛の影響は強く、日本はあくまで「平和維持のための駐留」という建前を貫き、現地に政権を樹立して政情を安定させ、交易経済を確保することに専念した。

「虐殺の文法」を制圧するには、脳機能の継続的モニタリングが不可欠であり、そのためには社会全体の統合監視体制を形成する必要がある。つまりは「シビュラの輸出」を行なう必要がある。そのためには監視可能な社会を再構築せねばならないが、流石に国土全体にそれを短期間で構築するのは難しい。そこで国の中枢に外と隔絶した「治安の安定した監視都市」を構築し、ここに人を集めると共にシステムの適用範囲を徐々に広げてゆく手筈を整える。日本は治安という最大の輸出品と引き換えにあらゆる資源を得ることになった。

当初は紛争の続く地域へ治安を輸出していた日本の活動は、治安安定地域の広がりと共に徐々にその方向性を変じる。認証監視システムの副産物、というよりも災禍以前の本来の形に立ち戻った、「健康な肉体と健康な精神の維持」である。災禍の過程で大きく数を減じた人口を取り戻す必要性からも「個人の命は社会のリソースである」という生命主義思想が広まり、それに合わせて「健康状態の監視」と「健康を維持するための精神干渉」が大っぴらに行なわれるようになってゆく。こうした「サービス」の提供は、従来の政治活動統合体である政府に対し生命活動統合体として「生府」と呼ばれ、やがて国という枠組みに縛られない新たな社会規範体制が成立したことで、「災禍」以前から生き残った唯一の国であった「日本」はその役割を終えた。

後書き

ふと「虐殺器官×PSYCHO-PASSが成立するのではないか」と思いついたので書いてみた。以前シビュラシステム論集 - 妄想科學倶楽部を書いた時は「どうやって犯罪係数を検出しているのか」について突き詰めなかったのだが、「虐殺の文法」による脳内意識モジュールと言語/行動の相互作用が規定できるならばサイマティック・スキャンの仕組みが説明可能ではないか、という発想である。ついでに崩壊した世界のその後に劇場版サイコパスを絡めてハーモニーまで繋げてみた(ハーモニーは元々虐殺器官と繋がっているのだけれど)。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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バザリの研究

名作ボードゲーム「バザリ」が復刻された。しかもコンパクトな箱に手頃な価格で。

バザリ 日本語版

バザリ 日本語版

 

 元は1998年のドイツ年間ゲーム大賞ノミネート作で、中東の市場をイメージしたボードにプラスチックの宝石というコンポーネントだった。長らく絶版の後、コンパクトになったリメイク版が出て、こちらはボードデザインが簡素化され、宝石はガラス製に。

この度の再リメイク版は、元よりもコンパクトな箱になったがボードの雰囲気は初代を継承しつつ、宝石は種類ごとに色だけでなく形も異なる、これまでで一番凝ったパッケージ。雰囲気の問題だけでなく色覚的にも、形で判別できるのは重要なポイントである。しかも完全日本語化……とはいっても元々言語依存性ゼロのデザインだったので、付属の説明書が翻訳別添ではない、というだけのことだが。

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バザリの目的は3度の決算で点数を最大化することだが、そのための手段は「市場を誰より速く巡る」「手番ごとに点数を集める」「宝石を集めて決算で点数化する」と3種類用意されており、どれを実行するか選ぶ部分はバッティングゲームになっている。
バッティングが生じた場合は手持ちの宝石による交渉を行ない、行動権を取るか、権利を放棄して相手の出した宝石を貰うかの二択となる。

速く巡るにはダイス運が物を言い、行動選択の段階では互いの心理を読む能力が、バッティング時の交渉では計算高さが求められる。このバランスの良さこそがバザリの魅力である。

交渉について

前述の通り、バザリの交渉は宝石によって行なわれる。具体的には「相手よりも多い宝石を提示する」か「相手と同じ数だがより合計価値の高い宝石を提示する」ことによる競りを行なう。
ここで重要なのは、宝石が単に交渉のためのリソースに留まらず決算に於いては最大40点もの得点源でもあるということだ。即ち、この交渉は「自分が宝石数最多を得て得点を取るか、相手に宝石数最多を与えて得点を許すか」の勝負でもある。
逆に言えば宝石数が最多にならないような出し方で数や価値を増やせば、相手は得点に至らぬと知りつつ受け入れるか、あるいは無理にでもその数・価値を上回る宝石を出すしかなくなり、それは結果としてこちらを最多宝石に押し上げたり、行動権による利を許すこととなる。 

手の選択について

基本的には選択肢3つを4人で、あるいは選択肢4つを5人で出すことになるため、必ずバッティングが生じる。止まった場所の宝石数と点数からある程度他プレイヤーの望みが推測できるので、その上でバッティングさせるか避けるかの読みが要求される。バッティングさせて交渉を迫るつもりが避けられたり、あるいは複数人で同じことを目論んだ結果多重バッティングになって行動権を失ったりするのでなかなか悩ましい。

さて、それでは、手筋としては3(あるいは4)選択肢のうちどれを選ぶのが好ましいのか考えてみよう。

この中でも重要なのは「ダイス」で、この選択肢はラウンドの終了を早める効果があり、そのことによって他の選択肢に影響を与える。とりわけ点数はモロにその影響を被り減収となる一方、宝石の方はたしかに個数こそ減ることになるものの点数自体は固定であるから影響を受けにくい。そしてダイス選択者自身の見入りは必ずしも良いものではないため、使いどころを選ぶ必要がある。

ひとまずは、ごく単純な手法としてバッティングを考慮せず必ず同じ手を選択する手法を考えてみる。

走り戦術

毎ターン、ダイスのみを選択するプレイ。追加で1D6進めるため速度に勝り、また6-出目が点数にもなるため点数効率もそれなり。
市場全体は30マスなので、誰もダイスを選択しない場合の1ラウンド平均は8.57ターンとなるが、逆に毎ターン走った場合はおよそ4〜5ターンで周回できる計算になる。
4ターンだとしてダイスから得られる得点合計は平均10点、加えて(恐らくは最初に周回を終えると思われるので)ゴール報酬10点が加算され、1ラウンドでおよそ20点を得ることができる。

点数戦術

毎ターン、点数のみを得るプレイ。点数は4〜7だが全マスの平均は5.3、8ターンかけて周回するなら1ラウンド42.4点、4ラウンドで終わるとして21.2点。得点力としては安定して高いが、他プレイヤーに全力走りがいた場合は得点が半減し、ほぼ拮抗する。全力宝石で全数最多を取られた場合でも8ターンなら拮抗するが、短かく終わるとやや不利。

宝石戦術

ひたすら宝石のみを集めるプレイは得点の期待値を計算しにくい。
各マスの宝石数を平均すると青は0.6個、その他は0.7個となるので2.4〜4.8/2.8〜5.6個ほど得られる計算になる。点数は全部の色で最大数を確保した場合で40点、ただし最大数を取った色は市場に3個戻すことになるため、最低でも3個差を付けておかないと次ラウンドが不利になる点に注意が必要である。

宝石の利は得点力以上に、交渉材料を得ることにある。バッティング時のあらゆる交渉には宝石が必要であるし、直接自分が交渉しない場合でも、多くの宝石を持つことが結果として他プレイヤーの交渉判断を変動させることになる。

小商い戦術

これは5人時専用の選択肢であり、バッティングを回避する目的のものに過ぎないため他の手に比べ優位性は低い。基本的には宝石を1増やし価値をアップグレードするだけで、大きく手を伸ばすことも他人を妨害することもできないが、専念すれば青3緑3を黄6赤6に変え、黄を緑1赤1にした後緑を黄1赤1にすることで最終的に8ターンで黄+6赤+8にまで伸ばせるので、26点ほどの点数を狙い得る。ただし青緑を捨てることでその後の交渉および小商いに伸び悩むので、適度に宝石確保も織り混ぜつつ展開することになるだろう。また走られると交換機会が減少するため効果が弱まる。

バランス型

マスごとに宝石価値と点数価値を評価し、どちらかが高ければそれを取り、どちらも低ければダイスを振るスタイルを考えてみる。下の表はバザリのボード上各マスについて評価を産出したものだ。スタート位置が固定されていないため、便宜的にスコアトラック0の位置に一番近い2マスの左側から記録している。

選択 6マス点数 6マス宝石 偏差値
33 178 51.84
32 178 48.12
30 168 38.54
31 174 43.55
32 178 48.12
31 166 41.84
32 174 47.27
32 180 48.55
33 188 53.98
32 190 50.68
33 200 56.54
33 200 56.54
30 190 43.24
30 196 44.52
29 202 42.08
31 206 50.38
30 212 47.94
32 228 58.80
33 214 59.53
33 214 59.53
32 206 54.10
30 208 47.08
31 188 46.54
31 180 44.83
32 178 48.12
33 166 49.28
36 170 61.30
36 156 58.31
34 156 50.87
33 160 48.00
平均 32 186.8 50

(本当なら各マスの宝石数・点数を記載するとどの項目がどのマスの部分なのかわかりやすくなるのだが、如何せん言語依存ゼロでルール・コンポーネントともシンプルなゲームだけにボード情報を全公開してしまうのは憚られるため、このような表になっている。ご了承戴きたい。)

ここではまず「選択」の項をご覧戴こう。これは各マスについて宝石、点数のどちらが優位かを示したものだ。点数平均が5.33であるのに対し宝石平均は31.13と6倍の差があるため、宝石価値は合計の1/6を算出して点数と比較し、より高い方を示している。なお点数が5以下、かつ宝石価値が20(緑2または青1黄1)以下の場合はダイスが最良、と示すようになっている。

宝石価値との比較基準やダイス優先の基準については異論もあろうが、ひとつの指標にはなるかと思う。

それ以外のデータについては次項で解説する。

スタート位置評価

バザリのマスにはそれぞれに異なる点数・宝石数が示されているので、現在位置から一手番で到達し得る範囲内の得点価値には差がある。
前掲の表に、各マスから1D6範囲内のマスに示された宝石および点数を合計しスコアを付けたものを示した。

点数と宝石では数値を単純比較できないので、それぞれに偏差値を算出して総合スコアを出したが、点数が29〜36と5:6程度の比に収まるのに対し宝石は2:3近い比になっているため単純に偏差値を合計してしまうと比率の大きい宝石評価に引きずられる。そこで点数偏差値の3倍と宝石偏差値の2倍を合計し5で割るという処理によって最終的な偏差値を出した。

紫は最も低い値、緑は最も高い値だ。

 

もっとも、スタート位置を任意に選択できるのは1ラウンド目の最初だけで、得られるものは出目と行動選択次第だし、その後はダイス目によって位置が分散してゆくから、スタート位置の選択がゲームに大きな影響を及ぼすことはないと思われる。

 

NERF改造計画:SledgeFire Custom "GONG"

SledgeFire(スレッジファイア)は、先込め式かマガジン式がほとんどのNERFの中では珍しい中折れ式の装填方式で、しかも専用カートリッジによりダーツ3発を同時発射するという、先例のないショットガンである。

ナーフ ゾンビストライク スレッジファイア

ナーフ ゾンビストライク スレッジファイア

 

派手なカラーリングの多いNERFの中でも一際目立つ水色の本体色に専用カートリッジのホルダーを兼ねたショルダーストック、太く短い銃身。

面白い機構ではあるものの正直あまり私の好みではなく、むしろ同時期に発売され国内流通のなかったレバーアクション式のSlingFireの方が欲しかったぐらいだ。

しかし海外のMOD事例を見ていたら、グリップをMarverickのものに差し替えた画像が出てきた。黒ベースの塗り替えも含め、随分かっこいい。ショットガンとしては野暮ったく見えた太く短い銃身が、スタイルを変えたことで「バカみたいに大口径なハンドガン」に見えてくる。

http://i.imgur.com/Fs97ZdM.jpg

よし、今度はこれを作ってみよう。ということで早速、ビックカメラの玩具売り場で最後の一つを確保。

 

パッケージはかなりデカい。本体そのものは45cmぐらいだが、その後ろに20cmほどのショルダーストックが接続されているので、箱サイズが70cm以上にもなる。

ショルダーストックはグリップエンドに差し込み固定されているのだが、自由に抜き差し可能なのかと思いきや、動かない爪状構造をがっちり挟み込んでいるので本体を分解しないと外せない。

分解はほとんど本体と銃身に二分された左右分割のいわゆるモナカ構造なので簡単だが、中身は結構複雑で、中折れのヒンジ根元から伸びたロッドがシリンダーに繋がっており、グリップ中ほどまで先端を押し込む機構になっている。そのぶん機構はユニット化されていてガワのみを改造するには楽なのだが、ともあれグリップを付け替えようと思うと機構に干渉しないよう注意する必要がある。

とりあえず、完全に切り離しての接合は強度的な不安もあるので、前方を残し後方を斜めに切り落としてみる。いい感じの大型グリップは持ち合わせがないので、とりあえず100均で適当なおもちゃを購入しグリップのみ切り出して重ねてみたが、イマイチしっくりこない。

 f:id:DocSeri:20161205094703j:image

ふと、「このスタイルってゴングに似てないか」という閃きがあった。

ゴングというのは、士郎政宗「アップルシード」に登場する、サイボーグやパワードスーツに打撃を与えるための大型ハンドガン……というかショットガンである。

http://image.itmedia.co.jp/gg/articles/1210/25/wk_121025dainihon09.jpg

(

大日本技研に聞く:あなたにも参入可能!? サイドビジネスで始めるキャラクタービジネス 起業編 (2/5) - ねとらぼより、「INTRON DEPOT」(青心社刊)142ページの孫引用

)

中折れ装填かショートマガジンかという差はあるが、基本的なスタイルはかなり似ている。いや待て、ショルダーストックのホルダーを本体下部に移植できれば……

というわけで、ピストルグリップ化計画は急遽、ゴング化に変更されることとなった。

 

まずはグリップを製作する。先ほどの画像を拡大印刷し、切り抜いて重ねてみたところ、およそ300%でほぼサイズが一致した。これを元にパテを盛って成形してゆく。

ショルダーストックは、分解しようにもネジ穴がない。どうやら接着されているようだ。仕方がないので分割線からカッターを差し込み無理やり剥がすことにする。

グリップとの接合部はディティールも良いし、切り落としたグリップ根元を使って脱着する構造にしようかと思ったのだが、接合パーツは脱着可能な形への改造が困難そうで諦めて根元から切り離す。一方、肩当てに挟まれていた部分はいい感じに強度とコンパクトさを両立していて、こちら側を接合した方が良さそうだ。図ったように斜めに切り上げられており、角度も合う。もしかして当初はこうする構想があったりしたのではなかろうか。

ヒンジ根元の膨らみに切れ込みを入れ、差し込んでみる。いい具合にパーツの隙間に挟まれて固定される。奥まで差し込めるように後端を切り落とし、差し込みの際に引っかからないよう角を丸める。

機構を阻害しないか、動作検証してみる。中折れによるコッキングには問題ない。ただ、発射後の廃莢にはもう一段折る必要があり、それには差し込まれたカートリッジが邪魔になってしまう。

 f:id:DocSeri:20161205094740j:imagef:id:DocSeri:20161205094835j:image

だいたいの構造が固まったところで細部を煮詰める。本体ディティールはかなり異なるので、合わせて改造するべきか考えたが、大掛かりな改造になってしまうしそもそも合わせようのないレベルで機構が異なるわけで、無理に合わせないことにした。ただバランスを見るとゴングはスレッジファイアよりも銃身が少し長い(というかスレッジファイアの本体がゴングより少し長い)ようなので、それに合わせて5cmほど延伸する。ちょうどいいサイズのパイプが見当たらなかったので薄手のプラ板を丸めて筒を作った。銃身には厚み不足の感が否めないが、そこまでこだわると大変なので見送る。

銃身下部のグリップとフロントサイトはバルサ材を芯にパテを盛って成形。グリップのような自由曲面には良いが直線を求められる部分には不向きな手法で、削ってはラッカーパテを塗り直して手間がかかった割には不細工である。

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最後に黒のサーフェイサーを吹き、塗装を施す。塗り分けもなく、可動部もほとんどないのでバラさず──というか既にパテで固めてしまった箇所があるのでバラしようがないのだが──そのまま全体に吹き付ける。

塗装といっても、ゴングは全体が黒マット塗装されているという設定なので黒サフ吹いた時点でほとんど塗装は済んだようなものである。木造部品であるグリップ部分のみ何種類かの茶色でドライブラシして木目っぽい模様を描き、クリアオレンジとスモークグレイを重ねてニス風に仕上げる。あとは金属色で角にチッピングを施して黒塗料が剥がれて金属地が露出したように見せて、ほぼ完成。

ついでにカートリッジの方も、下2cmぐらいのところでマスキングテープを巻きリーフゴールドで塗装してショットシェルっぽさを出してみた。金色がチープすぎたので上からスミ入れ塗料でウォッシュしたところ、なかなか良い雰囲気になった。ただ塗料が煮詰まっており塗膜が厚くなりすぎて、出し入れがちょっと引っ掛かるのが悩ましい。

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iMac復旧顛末記

導入から2ヶ月半にして正常動作しなくなったiMacの復旧が、なかなかに難物だったので、同様の症状に陥った人の助けになればということで顛末を記す。

症状

スリープからの復帰に失敗し、画面が真っ暗のまま反応がないところから始まる。
仕方なく電源ボタンを長押しして強制断したのだが、再起動したところ「修復が必要です」というアラートが出てパスワードを求められた。アラートは2つあり、ひとつは「Dropboxのアクセス権を修復する必要があります」、もうひとつは多分「パーティションの修復が必要です」だったか「ディスクの修復が必要です」だったか、そんなメッセージだったと思うが正確に憶えていない。今になって記録しておけば良かったと後悔しているが、修復してしまったので確かめようもない。
パスワードを求められているが、何故かキーボードは反応しない。ついでにDock内のアイコンが「?」になっていた。

確認と対処

キーボードの動作確認

まず最初に、キーボードの不具合を疑った。しかしログイン時のパスワード自体は入力できている。また、附属のBluetoothキーボードとは別にUSBキーボードを接続してみたが、それも「キーボードの種類を判定する」ためのキー入力には反応するのに、文字入力はできなかった。
マウスは使えたので、仮想キーボードがあればパスワード入力もできるのでは……と思ったがSierraで仮想キーボードを出す方法がわからない。とりあえずスルー。

FirstAid

キーボードのせいでないことが確定したなら、問題はOSの動作ということになる。
まず試みるべきはディスクユーティリティからのFirst Aidだ。起動ディスクは検証できても修復できないので、⌘+Rを押しながら再起動し、復旧モードからディスクユーティリティを起動する。
パーティションに破損があるようなメッセージを表示しつつも、修復が完了したらしいので再起動……してみたが症状は変わらず。

OSの修復インストール

FirstAidが駄目ならOSを再インストールするしかない。再び⌘+Rで起動し、今度は修復インストールを実行。
「残り時間:5分」とか出るが実際には表示上の1分あたり実時間で30分ぐらいかかる謎仕様である。「5分」が経過すると再起動が入って追加で30分ほどの後、インストール完了。……が、起動してみたらやはり症状が再発する。
ということは、どうもOSそれ自体の破損ではなく、ディスクに問題があるようだ。フォーマットしてクリーンインストールするのが最も話が早いのだが、生憎とHDD内に救出せねばならない業務用のデータがあるので、これの取り出し方法を検討してゆく。

外部メディアの認識

データを取り出すだけなら、外部記憶メディアを認識させるのが一番早い。しかし通常起動はおろか、Shift押しながらのセーフブートでも、USB接続メディアを認識する気配はない。
挿しただけでは認識されないメディアが、ディスクユーティリティを経由するとマウントできる場合もあるのだが、そちらも駄目なようだ。

インターネット修復

ここでAppleのサポートに相談、まずはインターネット経由での修復を提案される。ユーティリティ単体でのスタンドアロン修復よりも強力らしい。⌘+R起動からインターネット修復を試みようとしたのだが、何故か接続方法としてWi-Fiしか認識されなかった(当該のiMacはEtherで接続されており、社内にはWi-Fi環境がない)。
結局、実行しようがなかったので効力のほどは不明。

外部起動ディスクの作成

次の提案は「外部ディスクからの起動」だった。つまり、空のHDDを外付けしてMacOSをインストールし、それを仮の起動ディスクとして正常起動できる環境を確保、内蔵HDDを認識させてデータを仮起動ディスクへ退避ののち内蔵HDDをフォーマット、改めてOSを内蔵HDDにインストールし直して退避データを戻そう、という話だ。
しかし手元にある外付け可能なHDDはいずれもWin用で、接続してみたがディスクユーティリティからパーティションを変更できず、Mac用にフォーマットし直すことができなかった。
幸い、仮作業用に自宅からMacBookProを持ち込んでいたので、こちらにHDDを接続して「GUIDパーティションマップ」+「MacOS拡張(ジャーナリング)」でフォーマットしたものをiMacに接続してみたところ、正常に認識されOSをインストールできた。

Optionを押しながら起動して外付けHDDの方を起動ディスクに選択、OSを起動させると初期設定ののち移行アシスタントがデータのコピーをやってくれる。アプリケーションや設定ファイルなどの作業環境をそっくり引き継いだ上でユーザデータも全部コピーしてくれるので、イレギュラーな保存をしていなければ手を下す必要はない。念の為バックアップ忘れがないか、フォルダ内容を視認で突き合わせた程度だ。

移行が済んだところでディスクユーティリティから内蔵HDDのパーティションを切り直し、ディスクをフォーマットしてまたOSをインストールする。結果として最初の修復インストール、仮起動ディスクへのインストール、フォーマット後の内蔵HDDへの再インストールと、都合3回もインストールする羽目になってしまったが、これでようやく正常なHDDに正常にインストールされたOSが戻った。
再び初期設定と移行アシスタントでデータを書き戻し、すべて完了。
単にデータだけでなく、Twitterクライアントの設定からSafariで開いていたタブまで完全に、おかしくなる前の状態に復帰できた。

結論と対処

まあ「バックアップはしておけ」という話なのだが、いざ起動も修復もできなくなった時に備えてOSとデータが収まる程度の容量を持つ外部接続の記憶媒体を持っておくと安心である。しかし予めMac用にフォーマットしておかないと、今回のように偶々別の端末で認識できる状況でもない限り焦ることになりそうだ。

長過ぎるタイトルを改題する

こんな記事があった。
basukabiru.hatenablog.com
私もこの手のタイトルはセンス悪いな、と思う側の人間ではあるのだが、それは好みの問題に過ぎず「こうしてはいけない」「こうでなくてはならない」と言い切るには根拠がなく反例が多い。
しかし「だからこの発言は駄目だ」というのでもなく、「これは俺のセンスに合わない」のなら、センスに合うようにしてみてはどうか、ということでタイトルを改題してみることにした。

こういったタイトル例は多数あるが、キリがなくなるので事例として記事中に引用されているものを使う。
なお、この中に読んだことのある作品はひとつもないのでタイトルが必ずしも中身を適切に現していない可能性はある。
また「センスに合うように」とは思ったもののそもそも作品内容自体が必ずしも好みと合うわけではないのだが、そこは目を瞑る。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている

青春ラブコメの王道を知りつつ自らの反応が歪んでいることを自虐的なギャグとしたメタコメディ作品か何かだろうか。
大人しく「間違いだらけの青春ラブコメ」あたりで。

うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。

子煩悩勇者ファンタジー?
無駄に装飾が多いのでざっくり切り捨てて「娘のためなら魔王も倒す」で。

「勘違いしないでよね!アンタの事なんか大好きなんだから!」呪いで本音しか言えなくなったツンデレお嬢様

セリフと説明をそのままタイトルにしてしまった感。短かくまとめるなら「嘘が言えないツンデレお嬢」か。

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

間違ってるかどうかは知らないんですがもう「出会い系ダンジョン」でいいんじゃないでしょうか。

恋人にしようと生徒会長そっくりの女の子を錬成してみたら、オレが下僕になっていました

動機とか対象の描写とかは本文で説明すればいいので、肝心なところは「自分が作り出した者に支配される」という主従逆転関係であろう、ということで「創造物ホムンクルスの下僕」。

ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?

これは難しいな……多分「ネトゲの嫁」=オンラインでは女の子だが中の人が女である可能性は低い、という前提があってこそのタイトルだと思うが、「中の人が可愛い女の子でした」なのか、それとも「ゲーム世界に取り込まれてゲームキャラと結婚」なのかによって随分と意味が違う。漠然と両方のイメージで「二次元の中のひと」とかどうだろう。

下ネタという概念が存在しない退屈な世界

これは単純に「下ネタなき世界」ぐらいでいいのでは。

名門校の女子生徒会長がアブドゥル=アルハザードネクロノミコンを読んだら

このタイトル自体がそもそも「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」のパロディタイトル(中身までパロディなのかどうかは知らないが)なので変更しにくい。
元タイトルにこだわらないなら「生徒会長はSAN値直葬」とか(やりすぎだ)。

この家に勇者様もしくは救世主さまはいらっしゃいませんか?!

これも機内で急病人が出た場合にアテンダントが言うとされる「お客様の中にお医者さまはいらっしゃいませんか」のパロディだろうけど、そこを無視すると「自分の家に異世界から救世主を探す人物が現れた」みたいな状況を想像する。あるいは家の中(から繋がっている異世界)でだけ勇者、とかそんな感じかも知れない。「引きこもり勇者」みたいなタイトルではどうか。

誰もが恐れるあの委員長が、ぼくの専属メイドになるようです。

属性詰め込みすぎでどこか削らないとまとまりが悪い。「誰もが恐れる」を削るなら「委員長は専属メイド」、「委員長」を削るなら「ぼくのメイドは独裁者」、メイドであることを明記しないなら「専制委員長の裏の顔」とか……

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない

アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のパロディタイトルなんだろうが、「青春ブタ野郎」「バニーガール先輩」がなんなのかよくわからないので改題が難しい。いっそ「ぼくブタ先輩バニーガール」とか……(ルビ芸に逃げた)

魔法少女オーバーエイジ「私たち、もう変身したくありません」

多分「少女と呼べる年齢でなくなっても未だ変身して戦わされる魔法少女」みたいな話なんだろう。メインタイトルと思われる「魔法少女オーバーエイジ」は単体でなら纏まり良いが、ちょっとわかりにくい気もする。いっそ「魔法女オーバー30」とか……

普通のOLがトリップしたらどうなる、こうなる

トリップをどういう意味で使ってるのかよくわからない。「向精神薬による幻覚」なのか小旅行程度の話なのか。「OL幻覚記」とでもすればいいんだろうか。

おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!

これまたストレートなタイトルだ。わかりやすいし改題が難しい。「オタとリア充の相互契約」みたいな感じかな……

最高のファンタジー漫画、紫堂恭子「辺境警備」と「グラン・ローヴァ物語」

ファンタジーがファンタジーであるために、必要なのは異世界ではなく、「幻想」だ。
魔法と呼ばれていても、定型の呪文を唱えれば定型の効果が発揮されるようなものは、単なる「技術」であって、幻想がない。
魔獣と呼ばれていても、生態が知られており人の力で易々と討伐できるようなものは、単なる「生物」であって、幻想がない。

幻想というのは捉えどころがなく曖昧なものだ。だから、それのみで物語を構成するのは難しい。物語には、幻想を支えるしっかりした世界が必要になる。
一番しっかりした世界は私たちの住むこの世界自体だが、隅々まで照らし尽くされて幻想を織り込む余地が少なくなってしまっているので、幻想を支えるための世界としてはちょっと使いにくい*1
だからファンタジー異世界を描くことが多いのだが、今度は世界の「厚み」が試されてしまうことになる。穴の多い世界では幻想を支え切れない。
60年も昔の「指輪物語」が未だに金字塔として聳えているのは、その精緻な設定あってのことだろう。

あの重厚な設定に憧れて、同じようなことを試みた経験のある方もおられよう。
紫堂恭子もその一人だ。
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デビュー作「辺境警備」は、辺境の国境付近を部隊に、警備隊長と若き神官を中心として西ルーマカール地方辺境での生活を描いたファンタジー漫画である。
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この辺境に着任した「隊長さん」サウル・カダフ。
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酒と女と博打が好きでだらしないヒゲの中年だが、
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時折ただの能天気なオヤジではないところを見せる一面も。
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実は兵法書にも名の出る切れ者

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「神官さん」ジュニアス・ローサイ。銀の髪に菫色の瞳、女性と見紛う線の細さ。
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星径神殿の神官であり、神話だけでなく天文や数学にも精通する。
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中央神殿育ちの孤児だが、幼いうちから神童として知られていた。
*2

ほのぼのした田舎暮らしで始まる物語だが、話はいつしか「優秀にも関わらず辺境へと左遷されている二人の事情」に及び、そこから王都と辺境、文化と魔法、平穏と戦乱を対比させながら社会を描いてゆく。
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平行して連載された「グラン・ローヴァ物語」は、辺境警備と背景世界を共有する作品。
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田舎貴族相手の詐欺師サイアムが放浪の大賢者グラン・ローヴァだという老人と旅をする。
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まあ実際にはこんな感じなんですけどね大賢者グラン・ローヴァ。

世界設定は辺境警備と共通しているが、人里を離れ旅をする過程で多くの魔的存在に接する描写があり、「社会」を中心に描く辺境警備に対しこちらは「魔法」を中心とした作品といえる。
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どちらも地域や歴史、神話などが豊かに作り込まれており、それが物語の厚みとなって現れる、ファンタジー漫画の傑作である。

なお「辺境警備」の後日譚として、「逃げる少女〜ルウム復活歴1002年〜」と「虚妄の女王〜辺境警備外伝〜」がある。

また、ほぼ世界設定を同じくすると思われる作品として「オリスルートの銀の小枝」「癒しの葉」「東カール シープホーン村」もおすすめしたい。

いずれも電書化により入手しやすくなったので、是非お読み頂きたい。

*1:だからこそ「この世ならざるものが入ってくる」違和感から幻想を織り成すという手法もあるが、目指す方向はちょっと違う

*2:積み木で因数分解を行なうエピソードは「決してマネしないで下さい」の素数判定する主人公にも出てきた話なので何か故事があると思われる